Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*

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Jitoh-33:真心タイ!(あるいは、紳士真摯たれ/シンチェリタパローラ)

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 第二投目の四番手、高なんとかの投球もまた、右奥コーナーに殺到するよく言えば定跡通りのものであったが、これでコーナーポケット前に青の四つ球がとこがぎゅう詰めになるという状況になった。こいつぁ堅過ぎるだろ……例えば超重量球であればあるいは有無を言わさず力づくで押し込めるのかも知れねえ。だが今回使用できる球はすべて同じ球径・重量。おそらくJの字の馬鹿力投擲フルパワーシュートでも通路に乱反射することで力を分散させいなされ殺されてしまうんじゃねえだろうか……

 打つ手が……見当たらねえ。「任せろ」と言われた手前、もう野郎に委ねるしかないわけだが、それでも絶望感に彩られたことを考えてしまう。会場もそんな、大方大勢決した、みたいな空気が流れちまってる。が、

「……投擲する前に聞いておこう、ボールが場外へと飛び出した場合、それらは全て『アウト』ということで……構わないのだね?」

 時たま出すよく分からんダンディー感を滲ませながら、俺には引き攣れているだけのように見えるが本人はニヒル感を出したいのであろう何とも言えない顔つきで、Jマンは実況壮年に向けて高らかと聞き放つ。こいつの空気への呑まれなさというのは大したもんだが。それプラス何か妙案でもあるんだな……?

――いや、手球はアウトだが、他の球は盤面のフットスポットに戻すというルールだよ?

 しかし返ってきた即応の言葉に、妙な表情のまま固まってしまうが。おいおい大丈夫かよ……先行き不安感だけが俺のところまで漂ってくる。が、俺の右横あたりからゆっくりとしたダンディーボイスが。

<……かま……わないぞ……それで>

 鉄腕……上半身をくの字に折った苦し気な様子ながら、左手を肘掛けのところまで持ち上げて、その手で「音声」を発してきた。おいおい無理すんなよ……とか先ほどからいろいろ懸念しすぎか俺は。信じろ、仲間を。

「……ぃぃぃいいい委細承知ぃぃぃいいヒイイイイイッ!!」

 よく分からんが、信じるに足りさせるには色々確実に足り無さそうな雄叫びが右手奥側から為されてくるが。

「ぬおおおおおおおんッ、いざ秘技ッ!! 『ハーラートップタイヤーボール壱号』ッ!! 『死角からこんにちは魔球グダフタヌーン・ミスタ・デダングルッ!!』

 とんでもない混沌を自家発電出来る、出るとこ出れば確実に逸材か御縄かの二択なる角刈りの、その渾身と思われる投球フォームから撃ち出された強烈な速度の直球は、先ほどのたまった通り、右奥コーナーに吸い込まれていくが。いや、でもお前の力でも無理なんじゃねえかって思ったばっかりだぜ? しかし、

 刹那、だった……

「!!」

 赤色の弾道は、青球四つ群れにぶち当たると思われたものの、その少し上を通過するや否や、その後ろの「穴」の向こう壁に激突し、真っすぐに跳ね返ってきたのであった。跳弾……!! 青球は後ろ側からの衝撃を受けて乱反射を繰り返したものの、じりじり押されると耐え切れずに広い手前側にどばっと転がり流れ出て来たわけで。

 Jの赤球は再びの反動でポケットに消えていったが、値千金と、言える戦果じゃねえか。そんな技を、隠し持ってたとは。いやどういう状況を想定してたかは分からんが。そんな中、次の手番の奴は作戦が瓦解したからか目に見えての動揺を晒すと、それでも何の考えも無さそうにまたも「右奥ポケット」に向けて芸の無い投擲をするが、

「……!!」

 その手前の青球が想定違いの場所だったか知らねえが、結構な強さでぶち当てた挙句、そのまま右奥穴にてめえ諸共落ち込んでいっちまうよあららメンタルど弱じゃねいか……

 そして、赤VS青の球数多寡は、二対四。結構なところまで持ち直したと言える。いや、流れ勢い的には、こちらにびょうびょう追い風が吹いてきているといっても過言じゃねえ。日之影はそこそこ投げれるみたいだが、残る二人はレール敷かれた「作戦」しか対応できねえ傀儡。であれば後はもう。

 ……圧倒するまでだよなあ……そろそろ本格的に挙動は掴めて来てるんだよ……反射角、摩擦係数、そんなものさえ感覚で読み取れてそうな全能感……

 呼吸を極限までゆっくりに落とし、俺は中央付近まで間抜けにも転がり押されて来た青球の三つをじっくりと睥睨する。ふんふん、これがああしてこうなってこうだから……整ったぜ。

「……!!」

 次の瞬間、俺の手を離れ完璧にコースに入った第三投は、手始めに手前に並んでいた二つの合間に滑り込むと、七対三くらいの力配分でそれぞれを左右に分かつ。右がまず右奥コーナーへ吸い込まれ、コンマ五秒くらい後に左奥コーナーにもうひとつ落下すると、プラス奥にあった青球を奥辺へと飛ばして先ほどの俺のキスショット球の右側に精密に当たる。ことによりそれに接していた日之影の青球に真横への力を与え……

「ゴッ……!?」

 思わず喉奥からそんな声が出てしまったようだね日之影クン。するすると滑っていった青球が左コーナーポケットに落ち消える直前に、右隣のボックスを満面の胡散臭い笑みで振り返ってやる。三対一だねえ……どうするねい……?

 そこからはもう特筆すべきことは無かった。一方が投げた球を、もう一方が即座に確実に沈めていくという展開……「第一ラウンド」は終わってみれば、二対二。タイに持ち込まれたと、言えなくもねえ結果となった。うんうん、まあよく立て直したもんだ。とか、思ってみたりもするものの。

――盛り上がって参りましたァッ!! 盤上に赤青それぞれ二つずつが残るという極限の状態ッ!! そして普通なら『的』となり得る白球ジャックボールをッ!! 今回は投げて決着をつけるという超展開だァッ!! さあそして運命を担う白球が今ッ!! 投下されていくゥッ!!

 いや、実況壮年の煽りも大したもんだが、手番がこっちからなんだよね……それってもう……決着なってね?

――落とす「球」と「穴」を投げる前に宣言するのがこの最終盤のルールであるところの『コールショット』だッ!! その通りに落とせなかったら交代、白球を落としたらファウル、それ以外の球を落としても無効&ファウルで相手番へと移るという寸法……これはボッチャとビリヤード双方の力量が測られる……究極競技なのだよフハハハハハッ!!

 局面をさらうと、奥辺中央付近に並ぶのが左から【赤7】と【青4】、そして中央らへんに【青18】、手前辺中央やや左寄りに【赤9】と、全部が横軸で言うと真ん中に集まってきている。で、投下された白球も中央やや手前と。うぅん……

「ふ、フハハハハッ!! 随分迷っているようじゃあないか? いいか、ここまで盤面が整理されてきたのならば、私にイレギュラーなことなど起こり得ないッ!! お前が外したが最後、それで敗北と、そう心得よッ!!」

 白長髪を振り乱しつつ、その先の水色の残像をいい感じにテンパった細面の周囲に発生させながら、日之影はそんなプレッシャーをかけようとでもしているのか、だいぶ台詞まがいった浅ぁい言葉を結構な至近距離でぶつけてくるが。うぅん……

 とりあえず、白球が位置するところまで降りていく。ラシャを土足で踏みつけるたぁ何か気が引けて進まねえものの、そして今も着せられている真っ赤なプレスリックスーツは緑の中で悪目立つことこの上ないだろうものの。

 そこはいい。ここで勝ちを決めるのは最低条件の決定事項だ。そうじゃなく、そうじゃなくて、もう迷うな。振り返ってチーム面子の顔を逐一確認すれば、祈るような顔つきの女子ふたりと、相当疲弊しているだろうがまあ表情はいつも通りの弛緩顔の鉄腕、あとぽけーっとした弛緩顔の角刈り。こいつらと一緒にここまでやって来れて良かったぜ……あいや、今思うとわざとらしいにもほどがあるか。

 みたいな殊勝も殊勝過ぎてかえって薄ら嘘くさくなりそうな思考をいったん大脳の片隅まで寄り切ると、いまこの場で考えなければいけねえことを、

 考えねばいけねえと、考えたわけで。

 「宣言」するべき時なのかもしれねえ、その、まさにのその機会なのかもと、考えたわけで。

――さあ赤チームリーダーッ!! 『コール』をしてもらおうじゃあないかねッ!!

 実況の煽る勢いに乗っかるようにして、俺は、宣言の言の葉を、自分の肚底から放ちだしていくわけで。

「……【18番】を右奥コーナーに、【4番】を引いて左手前コーナーに」

 俺の宣言に場がどよめき始めるが。その中から、

「バカなっ!! 二個落としだとッ!? なぜそんな危険を冒すッ!?」

 おいおい、だいぶ即応かつ感情むき出しで突っかかってくるようになったじゃねえかよ日之影……だがなあ……そうまでしなけりゃあ吹っ切れなさそうな繊細な事情がこちとらにはあったりすんだよ黙ってみてやがれ。それに「宣言」途中だっつうの。話の腰を折るなよな?

 気を取り直した俺はいったん空気を丹田まで落とし込むように吸い込むと、「続き」を高らかに言い放っていく。

「……それが為ったら……為ったのならッ!! 俺は、そこにいる、国富アヤにッ!!」

 いきなりの言葉に場が違ったどよめきを始め出すが、もう構っちゃいられねえ。ええええ……というような当の本人の困惑声も漏れ聞こえてくるが構うな、

 撃ち放てぇぇぇぇぇッ!! キィィ、と俺の頭の中で、何かが光放ち、弾けた。

 刹那、だった……

「……セックスを前提とした交際を申し込むことをァァァッ!! ッここに、宣言するゥゥゥァァアアアアアッ!!」

 渾身の、魂の言の葉は、一瞬、会場の空気と温度を全部奪い去ったかのように感じられたが、

「!!」

 次の瞬間、地鳴りのような歓声と共に、爆発スパークしていったのであった……

 唖然を具現化したかのような弛緩顔を呈する日之影、完全真顔の鉄腕、グッジョブとばかりにいい笑顔で親指の腹を見せて来る角刈り……そして。

 ばっ、ばーかばーか外しちゃえーと、くしゃくしゃに顔を歪めながらそうのたまってくる国富と、その横で良かったねとばかりにその背中に手を当て、俺の方にいい笑顔を送ってくる天使と。

 轟、と唸るような観客たちの声の中、不思議とすっとした清涼感みたいな空気に包まれているかのような俺は、極めて自然に投擲を始めていくわけで。
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