アッサラーム!アライくん

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Ally-11:意外なる★ARAI(あるいは、魁!!テン×トリ×三ツ輪リプライぜすッ!?)

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 今しがたまでは、じめついた屋外プール(夏前のこの季節は水を入れ換えていないから藻がそこらの湖沼よりも繁殖している)のほど近くに面した湿度高い系の場所に位置する、献立のしょぼさを誤魔化さんとばかりに照明を間引いて絞っているかのような薄暗さの学生食堂にて、真逆の、せいの、聖なる混沌とも呼ぶべき事態が巻き起こっていたのだけれど、

「ぬえっへっへっへ……」
「……フッフッフ」

 今や、それを相殺せんばかりの、負の、邪なる混沌と呼ぶしかない、それでいて僕にはだいぶ肌に馴染んできつつあるそんな不穏感が膨張し始めている空気を感じる……

 その中心にいるのは、ふたつの人影。ひとつは縦横のガタイ幅が立てた黄金長方形のような、あくまで比率的には美しいが、かと言ってその原人じみた筋肉で鎧われた肉体は文明人の網膜が直視を避けるレベルの野卑さであり、その上に乗った平たい頭に口の部分だけが見事に張り出しているという猿人ヅラは、我らホモサピエンスがはっきり敵と認識できるほどに根源的な恐怖を醸し出している。そして学校指定の制服ブレザーでは無く、所々が擦り切れた学ランぺたんこの学帽そして下駄履き……完璧パーフェクトに尋常じゃない人物を目の前にするも、しかして意外に僕は凪いでいた。普段から尋常の無さというものには慣れさせられているからかも知れない。

 そしてもう一人はうっとおしいほどに量の多い安い金色の長髪を、これでもかと顔面の前に垂らして簾よりも簾すだれしている細身長身の男……体にフィットした真っ黒なスーツに黒いシャツ黒いネクタイ……果たしてお洒落なのかあるいは喪に服し過ぎているのか、ファッションセンスゼロの僕には皆目分からなかったものの、尋常でないという一点だけは脊髄で把握は終えていた。

 それにしても誰だこいつら……後からしゃしゃり出てきて我らの天使みつわさんに、たかろうとしている虫めらなのか……? ならばそれ以上近づくことまかりならんッ!!

 なんて心中では威勢よくそう思えるけど、それを外に出すことはやっぱり僕には無理なわけで。とか腰引けたまま逡巡していたら。

「何どぉぁッ!! 貴様きさんどろぁうがあッ!!」

 我らが満腹な団長殿が今日もブレない角度で斬り込んでいってくれる。

 でも大丈夫かなアライくん……その振り切れた外見はともかくとして、あまり腕力とか無さそうと見受けられるけど……ここは脂肪量に一日の長がある僕が行くべきだろうか……

「……そこの三ツ輪のは、もうぁらが軍門じゃがきにッ!! あとんからちっと、しゃしゃりなりぜおぅらッ!!」

 でも啖呵は一級品だよね……うん、この勢いで何とか乗り切れるかも。よぅし僕はその間に先生を呼んで来よう……と、早々に場から離脱を図ろうとした。

 しかし、だった。

「あ、おいやぁ、違うぜぇ、アライくんッ!!」
「ふふふ……我ら君のファン、だったりする意外性状況……」

 そこに漂うは、戦闘の雰囲気では無かった。アライくんと対峙した途端に、なぜか阿吽の呼吸で相好を崩す謎のコンビだったのだけれど。何かもう今日は入れ食いフィーバー状態じゃのいこ……何だろう、でも何らかの力で曲がりに曲がって僕にその皺寄せが来るのは多々あることだから、気は抜いちゃダメだッ。はたして。

「な、何ちょらぁ? ファンがばちょち、我ぁは有名人ゆーみーずんっつぁ無え、っつうだが、にだ、げ、ゲカカカカカカッ!! はんまらもちぃこつ、言うとぉがにゃにじゃじよぉう……なちょこ? うんどれらも我ぁらが『団』に入りたいちょよ?」

 まあ、そうなるよね。そういうのに飢えてたものね……にわかに「何とか団」が「団」らしくなりつつある……でも何かその趣旨から脱輪しかけている感があるな……でも僕の言うことなんて毛ほども聞く余地は無さそうだし……とかまたも傍観的立場で佇むばかりの僕だったけど。

 刹那、だった……

「だ、だめぇッ!!」

 意外にも、それを制止したのは聖天使みつわさんの天上のさざめき(どんなのだろう)の如くの声だった。心なしか慌てて上ずっているけれど、それももちろん神々しく可憐に響く……

「なんで、出て、くるのっ、どっか行きなさいっ」

 そして三ツ輪さんは御みずから、両手を使ってその謎の二人を向こうの方へと押しやろうとしている……知り合いなのですかぁ? どこにも接点が見いだせないのですが。

「何だよ、おめえだけ抜け駆けしてんじゃねえよぉ」
「フフ……我が姉シアン……それは酷というもの……」

 何か噛み合ってるんだかよく分からない会話が三人の間で飛び交っているけど、「姉」? その語句ワードに反応してしまう。そうだッ!!

 聞いたことがある……!! 「三ツ輪三姉弟きょうだい」の話を……

「もぉぉ……ほら、行って!! 行けぇぇぇぇぇぇ……」

 三ツ輪さんは、「三つ子」。そんな話を確かに聞いたことがある。え、でも実際見てみないと実感は湧かないなあとか思ってたけど、この大柄猿人と細身長髪がそれですと言われても却って実感は湧かないことに気づく。

 でもそれより何より、普段清楚な美天使が、身内に使う少しぞんざいな口調とか態度とかって……

 ……萌えますよなぁ。

 自然に浮き上がってしまう微笑を抑えきれないまま、ふと周りの男子生徒たちを見回すと、同志よ分かっておるコポォ、といった感じの同じ笑みの深い頷きがあちこちから……嗚呼、僕にはまだ帰る場所があるんだ……

 のちに知る、三ツ輪さんの三つ子の弟の名前は、真然汰マゼンタ伊右衛朗イエロウ。どう考えても梓杏シアンが先にありきの、数合わせの出涸らしのような名前だけれど、生後七日くらいで、もうその行く末は名付け親には分かってしまっていたのだろうね……

 とても同じDNAを有しているとは思えないこの三人だけれど、多分男ふたりの方は、生命の神秘を嘲らんばかりに遺伝子仕事しろレベルの途轍もない頻度での転写ミスでもあったのだろう……あるいは三ツ輪さんの方が奇跡なのかも知れない……地上に舞い降りた天使だしね……

 ともかく。

「まままま、三ツ輪のも、そう邪険にすっがこつもながにぃ……皆で仲良ながよぅやりんしゃいっ!! てな、ゴカッカッカッカ……」

アライくんは意外とこういう時、御老公ばりの鷹揚さにて構えている(意外でもないか)。

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