アッサラーム!アライくん

gaction9969

文字の大きさ
41 / 42

Ally-41:窮極なる★ARAI(あるいは、天上!スカーレット/カオスゲイザー)

しおりを挟む

「ジローくんっ、良かった、来れたね」

 背後からそのような、天上のサラトガが如くの(意味略)言葉がかかる。ああ何か良かった、このまま二人で登校しても何か間がもたなそうだったから。ぃやあご心配おかけしまして……みたいに少しおどけた感じで振り返った僕であったものの。

 息せき切って駆けてきた天使は、何日か振りに見てもやはり可憐という概念を具現化したかのような美しさを煌き放ってきていたけれど、その焦げ茶色の髪は何故か御大同様の純然たる聖子ちゃんカットを具現していたわけで。

 あれぇ、僕もしかして1985年にタイムスリップしちゃったのかなあ……と、まさかのW聖子に挟まれ、往時の正輝もかくやと思わせるほどの此処が正に聖輝末せいきまⅡ(意味略)な次元に落とされたのかと錯覚したのも束の間、

「え……誰その女」

 感情の無い声が天使から放たれる……それはまるであのリコ御姉様ののっぴきならない時に似た、諸刃のゴシック体の角が尖る「不穏」という文字がフオンフオンと回転しながらこちらの首を刈らんと飛んでくるような恐怖を突きつけてくるものの。

 あ、何だアライくんか……セーラー似合ってる!! えでも何でその髪型……私それにするって言ったよね……とその正体に気付いてなお、能面のような顔で唇をあまり動かさなくなった天使が無感情に問うているのが本当に怖いんだけれど。

アラ「我《ワ》ぁは前髪トサカば固めんとこんばになるんよ……本当ほんくらじゃじ、決してシアンのと張り合おうとかそういう意図とか魂胆は無いのです……」

シア「ジローくん、ジョリーヌさんに例の嘘つくと全身がエビ反るレベルの電流が放たれるソファって発注できないかな……ジローくんがこの髪型が好き過ぎて異常に劣情を抱くってアライくんから聞いたからこれにしてきたのにこの仕打ち……ちょっとおかしくない……」

ジロ「待って待って!! 二人ともおかしいですぞッ、それにそもそも僕にそんな性癖は無いってば!! な、なぁにを世迷言を言ってるんだねアライくんはぁ~」

アラ「ジローの方を座らせた方がいいがばかいねぇ……いつかだったんげか食い入るように見ちょったがげに。ま、ぁは、あの夜、あんちょげた事もあったばじ、ジローの好むば格好にしちゃだげがによぉ」

シア「え? 『あの夜』ってなに? 『あんちょげた』ってなに? 二人に何がアッタッテイウノ……?」

ジロ「待ってよ!! おかしいよ何も無かったよ!! 何で今日は徹頭徹尾、虚構で固めようとしてくるのッ!? コラ、顔を赤らめそして目を伏せ逸らさないッ!! そして三ツ輪さんも落ち着いてヒトの表情と感情を戻していこうッ!? 誓って言うけど僕は潔白だッ!!」

 混沌の羅撫籠らぶこめ的時空間の中に、答え①……答え①……という謎の空耳がこだまするが、何だろうとか思っている暇は無い。せっかく今日が祭りの初日だというのに、団員内に禍根を残しては駄目だっ!! そう、いま僕がやらなければならないことは、この身の清廉を証明することに他ならぬッ……!! 落ち着け。顧みてやましい事など何も無い……ならば毅然とぉッ!! 僕は一回大きく息を吸い込み丹田に力を込めると、姿勢を正し、高らかに揺るぎない真実の言葉を紡ぎ出していく。

「僕は水曜の夜、アライくんを家の近場まで送っていっただけでありッ!! でも途中から体の震えが止まらなくなったアライくんを放っておくことも出来ずにッ!! お金も無かったから近くの公園にて自販機で買った『あったかコンポタ』を分け合いつつ飲みながらッ!! 落ち着くまでベンチに二人並んで座って手を握ってあげていた、ただのそれだけの事なんだよぉぁッ!! 『あんちょげた』ことなんて皆目何も無かったって、分かってくれるよねッ!? 三ツ輪さんッ!! 」

 無辜なる魂の言の葉たちはしかし、

「……ぇぁ?」

 という、日本人が苦手であるところの発音である「æ」を、とても綺麗にそして無感情に、さらに表情が抜け落ちてがらんどうになった顔で放った、いてつく波動が如くの天使の言葉にかき消されていくのであって。瞬間、僕らの周囲半径五メートルくらいの空間に、空気と熱とが奪われ去ったかのような、真空のような絶対零度のような場が展開していくようであって。

 あっるぇ~、また僕なんかやっちゃいました~?

 今まで生きてきた中でいちばんのっぴきならない空気を感じて、すかさず、ぼ僕何だかおなか痛くなってきちゃったから駅のトイレ借りてから行くね、と踵を返してその場から逃げ去ろうとするものの。

「うおいおいおい、皆そろってどうしたんだって、おろ? またジローくんだけカッコが」
「フッ……我が同志たち……みなそれぞれに個性ある聖子……」

 まさかの金髪タイプの聖子と猿人タイプの聖子に退路を塞がれてしまい、進退窮まった僕は適当な高さの植え込みの段差を見繕うと、それによいしょとよじ登ってから、

「せ、聖子ハーレムエンドなんて、ま、まっぴら御免だってばよぉぉぉぉぉぉぉうッ!!」

 とうっと高らかにジャンプ。そして最高到達点でこれでもかのキメ顔&キメポーズ。これ以上ない見事なシメを放ったものの、現実はそこで「終」の字が出て来ることもなく、ただ僕はコンマ一瞬出来たみんなの空白の時間を掠めとるようにして脱兎の如く学校へ向かって駆け出し逃げていくのであった……

 そして、祭りが始まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...