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#09:漫然に(準決勝)
しおりを挟む―ああっとぉー、重量級同士のまことに!! 迫力のある一番となりましたこの準決勝っ!! 新星ガンフとリング中央でがっぷり組み合うのは、カシュウ=ドォドォだぁー!! さすが大農場主の息子、立派な体躯は極東のオオハシよりも一回りも大きく見えますっ!! ガンフにとっては自分より大きい相手との初対戦、どう出る? ……ああーっ!! カシュウの方から仕掛けた!! ガンフをロープの方へと投げ飛ばしーっ、自分もロープへと飛んで!! 反動で勢いをつけて、その逞しい腕を水平に保ったまま、ガンフに食らわせるー……っとやはり読んでいたぞガンフっ!! その腕の下をするりとかいくぐり、再びロープへと体を預けたーっ!! 両者再びロープに弾かれっ!! リング中央で交錯するー、っと何だ!? ガンフ、相手の頭を腋に抱え込んでっ!! 逆さまに高々と抱え上げたぁーっ何という力っ!! そのまま勢い良く後ろへ倒れこみっ!! カシュウの巨躯をキャンバスに叩きつけたぁー!! 決まったか? いやこれは決まったぁー!! ガンフ、いよいよ決勝へと駒を進めました………
マスクの洗浄と補修は、とある業者に頼むことと相成ったらしい。とりあえずガンフ襲名云々は先送りとなったわけで。
「……お前さんに宿題を出しとく」
ようやく悪臭から開放されて一息つけた(でもまだ鼻の中がむずむずする)後、オオハシさんはまた箪笥から何やら色褪せたノートのような冊子を取り出して僕の前に置いた。見てみろと促されたので、ごわごわした質感のその大判を恐る恐る開いてみる。
「……」
新聞記事の切り抜きがたくさん貼ってあった。スクラップブックって奴だ。活字は……何だ? 英語っぽくない、いやアルファベットじゃない、これ。
「当時……ガンフが出た年のケチュラ関連のだ。大会は祭りが行われる9日間、毎日試合を組んでいて、まあ大盛り上がりだった。現地の新聞もテレビもこぞってそれを取り上げ、一大イベント……国民的行事になったっつーわけよ」
オオハシさんが僕の正面でどっこいせ、と胡座をかきながら言う。
「そんなにでしたか……それほどまでとは正直思っていませんでしたけど」
ぱりぱりと糊の剥がれる音がするので、僕は慎重にページを捲っていく。決して良くはない紙質が、さらに黄ばんで波打っているので見づらい事この上無いが、粗い白黒の写真には確かに、対戦相手と組み合って今まさに技を仕掛けようとしている、印刷では白っぽくなったマスクに顔を覆われた男の姿が見てとれた。意外にでっぷりとしたシルエットで僕に似ていなくもない。今のオオハシさんは少し腹周りが出ているだけで、そこまでのガタイをしているわけでも無いので、僕は少し驚く。
「30年前は、お前さんみたいな、いい身体つきをしてたんだがな。俺もトシだ。食ったところで肉にはならねえ」
そう言いますが、身のこなしとか軽やかで、とても若々しいと感じましたが。
「……宿題っていうのは」
「翻訳だ。その記事はドチュルマの言語で書いてあるわけだが、まあ難解でな。読めなかった。というか無いんだ辞書とかその辺のものが。30年ほったらかしにしておいたが、最近じゃネットで希少言語の翻訳が出来るっていうじゃねえか。俺はその辺りからっきしなんで、お前さんにそれを訳してもらいたいわけよ。それが宿題」
あるかなー、ドチュルマ語翻訳。そもそもこの文字をどう打ち込んだらいいものか判らないけど。
「まあ、ちょこちょこやっといてくれや。現地に飛ぶためのカネも工面しなきゃならねえから、あと2ヶ月は短期バイトだ。プラス実戦も兼ねたカネ回収もしなくちゃあならねえしな」
ん? どういうことだろう。「実戦」? 「カネ回収」?
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