16 / 16
#16:決着(大団円に)
しおりを挟む―え!! ……軽蔑だなんて。僕は、オオハシさんに感謝しているんです。前にも言いましたが、僕は子供の頃からのいじめられっこで、家族からも見放され、邪魔に思われてきました。
人生は勝たないとクソになる、って初めの頃、言ってくれましたよね。それを聞いて思ったんです。僕に足らなかったもの、それは勝とうとする意志、勝つための努力をすることだったんだと。ケチュラは僕にとっての救世主です。この僕に、勝つためのきっかけを、チャンスを与えてくれたのですから。
モトツグさんの姿を重ね合わせてくれたことは、光栄です。僕は人からそんな風に何かを期待されたことなんて無かった。無視されるか、見下されるか。天国のモトツグさんは、そんな僕を見かねて、オオハシさん、あなたという名セコンドに引き合わせてくれたんじゃないでしょうか。だから僕らはモトツグさんが決めたベストマッチングなんですよ。
改めて言います。僕は軽蔑も同情もしません。僕は誇りと自信を持って、ただ勝つためだけのために、ケチュラのリングに上がります。オオハシさんから叩き込まれた、格闘の全てと、モトツグさんから受け継いだ、このマスクに込められた熱意を持って。
そうそう、僕が何でマスクを新調しないで、このモトツグさんのガンフマスクを修繕して戦いに臨むか、言いますね。僕、『豆巻 丸夫』は音読みにすると、『トウ・カン・ガン・フ』……そう、僕もまた、『ガンフ・トゥーカン』なんです!! これはもうモトツグさんの思し召しですって。こんなに心強いことはないです!! だから僕と一緒に戦ってください。皆さんで一緒に僕と戦ってくださいっ!! ……あ、三郎太はジョリーさんに預けないとですけどね………
<ガンフとオスカー、共に相手を見合ったまま動かないっ!! いや動けないのかぁー!? これまでリングで数々の対戦相手を秒殺で沈めてきたその女帝も、この極東からのマスクマンに対しては正直かなり、手こずっているっ!! 凱旋記念のこのケチュラのリングがっ!! 思わぬ形でオスカーを苦しめているのかっ!? 珍しく苛立つような仕草と表情だっ!!>
オスカー選手は、この試合、おそらくお遊び程度にしか考えていなかったはず。軽い蹴り一発で伸せる相手たちばかりだろうと。でもあいにく僕は異常に打たれ強いんだ。この2か月足らずの間にみっちり鍛え上げてきたし、幼い頃から謂われない暴力を耐えてきたから。心が折れない限り、体は動く。
そして、「ケチュラマチュラは体重無差別。よってガタイの大きさはイコール強さへ繋がる」。オスカー選手のしなやかだけど細身の体格からすると、どう考えても50キロは無いはず。倍くらいの僕の、この脂肪と筋肉がほどよく付いた体に効率よくダメージを与えるには、接近して腰を入れた蹴りが必要だ。先ほどからあまりやる気はないのか、舐められているのか、それともこんな所で怪我をするのを恐れているのか、見た目の派手さとは逆に、あまり芯に響くキックは食らっていない。
……その隙をつければあるいは。
<ガンフ突進だぁぁぁぁっ!! 打撃か? 組み合いか? オスカーはまたしても右ローでその出鼻を挫こうとするがっ!! 何とガンフ、両手両足を広げて大の字で跳躍っ!! 覆いかぶさるようにしてオスカー選手に体当たりだっ!! これは不意を突かれたか? オスカー体を捻じるが、ガンフの巨体に飲み込まれるぅぅーっ!!>
僕が会得したかった技。相手のアキレス腱を手首の骨で圧迫し、激痛を与えるこの技。痛みは凄いけど、足へのダメージはそれほど無いはずだから、この国民的英雄相手に使うにはうってつけだ。やはりガンフ・トゥーカンの名を継ぐ者、最後は渋いプロレス技で決め (極め)たいっ!!
<ああーっとお!! ガンフの両腕にオスカーの右足が巻き込まれた瞬間っ!! オスカー苦悶の形相だあぁぁぁーっと、降伏っ!! 降伏の意っ!! け、決着ぅぅっ!! 何!! という結末ぅぅぅ!! 第48回ケチュラマチュラ・ハヌバヌーイ・シラマンチャス優勝者はっ!! 極東からの鋼鉄のオオハシっ!! ガンフぅぅ、トゥぅぅぅぅぅぅカぁぁぁぁぁぁンン、Ⅱ世っ!! だっ!!>
凄まじい怒号だか歓声だかが、リングの上の、僕の周りを覆いつくす。
うるさすぎて却って静寂にも感じるその真っただ中で、
僕は両手を突き上げて勝利を、勝つことの意味を噛み締める。
振り返ったコーナーポストには、オオハシさんの姿が。
笑っているんだか、泣いているんだか、よく分からないけど。
その両手には、モトツグさんと聡子さんの位牌が力いっぱい握られていて。
高々とそれらが掲げられるのを見て、僕も笑いたいのと泣きたいのが同時にこみ上げてきて、ぐちゃぐちゃの、人には見られたくないような変な表情になってしまう。
マスクをつけてて良かったね。
(完)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる