高嶺の花と紅蓮の子

西園寺司

文字の大きさ
9 / 41

夜の乾杯!

しおりを挟む
その夜。


「隊長!約束通り来ました!」


エミリオが元気よくリュードの部屋のドアを叩く。


「元気だな…。」


リュードが部屋のドアを開けると、グラスを持って満面の笑みを浮かべたエミリオがいた。
もう片方の手にはおしゃれな便箋が握られている。
リュードの視線に気付いたエミリオが口を開いた。


「はい!どうせ隊長、ろくな便箋持ってないだろうと思って、持ってきちゃいました!」
傍から聞けば立派な悪口だが、事実である。リュードには文通する相手などいない。ろくな便箋を持ってないどころか、そもそも便箋など持ち合わせていないのだ。

「ありがとう、助かった。」

「だと思いましたよ!じゃあ、おじゃましまーす!」


遠慮なく入り、部屋の真ん中を陣取って床に座るエミリオ。


「椅子に座ったらどうだ?」


リュードが勧めてきたのは備え付けの仕事机の椅子だ。


「結構です!椅子はそれひとつしかないので、隊長が座ってください!隊長が座らないなら僕も絶対座らないです!」


リュードの答えを見越してエミリオがここまで一息で喋った。


「分かった。」


リュードは椅子を戻し、エミリオの隣へと座る。
エミリオはいつの間にやら葡萄酒を開け、それぞれのグラスに注いでいた。


「じゃあ、隊長!乾杯しましょ、乾杯!」

「ああ。」

「乾杯!!」

「乾杯。」


元気の良いエミリオから向けられたグラスに、自分のグラスを合わせれば、チンとかわいい音がした。
口に含むと、口いっぱいに葡萄の味が広がる。濃厚な味わいだが、しつこくなく飲みやすい。


「うー――ん。これは良いものですね!」


エミリオがグラスに入ったワインをしげしげと眺めながら言う。


「分かるのか?」

「まあ、多少は。それなりに値の張るものだと思いますよ。」

「そうか。」


エミリオに言われてみても、普段あまり酒を飲まないリュードにとってはさっぱりだ。
グラスに入った残りを呷ってみても、「美味しい。」としか思わない。


「あ、隊長!手紙!エレーナ様からの手紙読みました?」


自分が持ってきた手元の便箋を見て、思い出したようにエミリオが問う。


「ああ、まだ読んでなかった。」

「僕は別に覗いたりしないので、今読んだらどうですか?お返事は早い方がいいでしょう?」

「そうだな。では読ませてもらう。」

「あ、僕ここでツマミ食べてるんで気にせずにゆっくり読んでください。」


エミリオの手にはどこから出てきたのか、干し貝柱が握られている。


「食べるなら手を洗ったほうがいい。タオルはそこにあるものを使ってくれ。」

「はーい!」


リュードは手を洗うように促しながら、手紙を読むべく仕事机に座った。

《ヴァルツ王国騎士団 第一番隊兼第二番隊隊長 リュード・ヴァンホーク様》

と表に書かれた封筒をペーパーナイフで慎重に切り開く。
中からは丁寧に折りたたまれた手紙が二枚出てきた。




突然の手紙を差し上げる失礼をお許しください。
私は先日王都の宮殿の庭で助けていただきました、エレーナ・ヨハネと申します。
あの時は大切な制服までお貸しいただいたのに直接お返しできず、また直接お礼も伝えずに大変申し訳ありませんでした。
お礼とお詫び申し上げたいと思い、お手紙を差し上げた次第でございます。先日は助けていただき、誠にありがとうございました。
 同封させていただきましたのは、領地の特産品の葡萄酒です。お礼になるかどうかわかりませんが、騎士団の皆さまにお楽しみいただければと思います。
 また、最後にお訊きしたいのですが、あの庭で押し花のしおりをお見かけにならなかったでしょうか?
 とても大切なもので、ずっとあの本に挟んで保管しておりました。
 大変厚かましいお願いではあるのですが、お心当たりございましたらご一報くださると幸いです。
 季節の変わり目、リュード様もお身体に気を付けてお過ごしください。
 
かしこ
エレーナ・ヨハネ




リュードはここまで時間をかけて読み切ると目を瞑って天を仰いだ。
普段から目を通している手紙といえば、事務連絡の手紙か報告書しかない。慣れない敬語ばかりの手紙を読んで、疲れるなというほうが無理である。


「たいちょー、読み終わりました?」


読み終わったのを察したエミリオが声を掛けてくる。

「ああ。」

「どんなかんじのことが書いてありました?」

「お礼とお詫びが書いてあった。」

「あれ?あの葡萄酒はどっちですか?」

「ああ、お礼として送ってくださったそうだ。」

「そうなんですね。」

「それと、失くし物をされたらしい。」

「失くし物?」

「大切なものらしい。」

「うー-ん。騎士たちに絡まれた時に落としちゃったんですかね?それかそいつらが盗んじゃったとか。考えられなくはないですよね。」

「そうだな。明日ルペルに手紙を出そう。」

「そうですね!あ、エレーナ様への手紙はどうします?」

「葡萄酒のお礼がまず第一。それと、申し訳なく思う必要はないという旨をお伝えしたいんだが、それは差し出がましいだろうか。」

「いやいや!言い方を気を付ければ大丈夫ですよ。」

「そうか。ありがとう。」

「じゃあ、エレーナ様への手紙。書いちゃいましょうか!」

「ああ、よろしく頼む。」

「はい!ビシバシ行きますよ!」


そう言ってリュードの前にどんっ!と置かれたのはメモ用紙。


「まずは文章から考えましょう、隊長!」


エミリオはにっこりと笑みを浮かべているが、その目は全く笑っていない。
ビシバシ行くというのは本当のようだ。


「ああ。まずは拝啓からか…。」


エミリオの指導の下、リュードは何とかその日中に手紙を書きあげることが出来たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...