高嶺の花と紅蓮の子

呼び出しの訳

「ふあああああ。お疲れさまだな、リュード。」

「ああ。」


会議が終わって部屋を出てしばらくすると、ルペルが大きく伸びをした。
対策会議はひどく退屈なものだったからだ。
国境の警備を強化するということはすんなり決まったのだが、リュードが人員の増員と臨時で予算をつけて欲しいと申し出ると会議が紛糾。警備を強化するのに、人員と金銭を少しくらい回してもらわねばこちらとて立ち行かない。


「だが、騎士団長も金を出すのを渋ったのは意外だったな。」

「ああ。賛成していただけるものと思っていた。」


リュードが申し出たのは増員した分の騎士の食糧費や馬の飼育費など、必要最低限の額でささやかなものである。
ルペルはもちろん大賛成、アイガスもやはり必要という判断から賛成していた。
騎士団長はその半分の額でいいだろうと言い出したのだ。それから貴族達がそれに乗り出し…。結局、宰相殿の鶴の一声でリュードが申し出た最初の額を回すことが決まった。


「何故、半分に削ろうとされたのかイマイチ分からないな。」


ルペルは未だに腑に落ちない、という顔をしていた。


「まあ、申告した額回していただけたから問題はない。」


結局は申告した額回してもらえたので、リュードとしては問題はなかった。


「おい。そこの二人。」


苛立ちげな声に振り返ると、そこには腕を組んだアイガスが。


「「アイガス。」」

「今の警備隊の大隊長は僕ですよ？何人回せばいいんです？まさか新人隊から回そうとしてるんじゃないでしょうね？」


嫌味ったらしく言ってくるが、仕事は仕事でしっかりやってくれるようだ。


「そうですね、欲を言えば20人。最低でも10人は欲しいところです。」

「20は無理です。15でいかがですか？」

「それでも嬉しいです。ありがとうございます。」

「では、こちらで15人選出してリスト共にそちらに行かせます。出来るだけ即戦力になるような者を送るつもりですが、メンツに文句は言わないでくださいね。こちらにも色々ありますから。」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」

「明日には出立させましょう。では、僕はこれで。」


アイガスは嵐のように去っていった。


「…話がまとまって良かったな？リュード。」

「あ、ああ。というか見送ってくれなくても良いんだが。」

「見送る？ああ、すまん。もう少しだけこっちにいてもらうぞ。」

「？？？私は早く駐屯所に帰りたい。」

「本当に少しだけだ。エレーナ嬢に会いに行くだけだ。」


ルペルがリュードを宮殿に呼び出したのはこれが理由らしい。


「俺が謝罪に行った時、お前に直接お礼もできなかったと大層気にしてらっしゃったようでな。それに、これ知ってるか？あいつらの制服の隙間から出てきたんだが。」


そう言ってルペルが取り出したのは押し花の栞。


「それは、エレーナ嬢のものだと思う。手紙を頂いたんだが、それにそう書いてあった。」

「そうか！ならこれはお前が届けてくれ。」

「何故？それによくそんな早く謝罪に行けたな。」

「それについては深く聞かないでくれ…。３年くらい寿命が縮んだよ。」

「？？？」


少し顔色の悪くなるルペル。
あの時エレーナが待ち合わせをしていたのが、彼女の父である宰相シュベルクだったのだ。
これ以上ないくらい神妙な面持ちで、新人隊の訓練場に訪れたシュベルクの顔をルペルはずっと忘れられない。

「さ、さあ。早く行こう。お前も急いで駐屯所に帰らないといけないしな。」
「ああ。」

リュードは少し元気の無いルペルとともに馬でヨハネ家へと向かったのだった。