高嶺の花と紅蓮の子

西園寺司

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墓荒らしと弔いの日

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翌日。


「また、墓荒らしか…。」

「もう!警備隊の騎士達は何してるんでしょうね!」


執務室で静かに考えるリュードの隣で、エミリオは少し苛立っているようだ。


「昨日アイガスに手紙を出したから少しは変化があると思うが。」

「国の外から中から次々と…!僕達はまず、国境警備で国の外を気にしてなきゃいけないのに…!」

「エミリオ、落ち着け。」


エミリオの言いたいことも分かるが、焦っても何も良いことはない。


「…はい。落ち着きます。」


胸に手を置いて何回か深呼吸を繰り返すエミリオ。


「でも、国の外を警戒しててもここ1ヶ月何もないですよね。」

「ああ。」


嵐の前の静けさともまた違う。本当に何もないのだ。


「あまり、口に出したくないが。本当に大変なのは現在の国王が亡くなられたときか。」


現在の国王は床に臥せっている。それも数年前からだ。体の容体が芳しくないことなど容易に想像できる。


「……まあ、そうなりますよね。国王様の病状もここのところ良くないって聞きましたから。」

「そうなのか?」

「ええ、風の噂でそう聞きましたよ!」


何故エミリオが国王の症状を知っているのか謎ではあったが、風の噂ならば仕方がない。リュードはあまり駐屯所の外に出ないし、エミリオは明るくて社交的なので噂話も耳に入ってくるのだろう。


「でも、フルーウェ国も王位継承の決着がついたばかりなのに。国内のことを放って隣国にちょっかいを出すなんて不思議ですよね。僕らと刃を交えることになっても、国内が安定してないんじゃ充分な部隊も作れないじゃないですか。」


腑に落ちないのか、うーんと首を捻るエミリオ。


「まだフルーウェ国がやったと決まった訳じゃない。」

「まあ、そうですけど。」


焦って結論づけるのも、先入観を持つのもあまり良いことではない。
リュードはエミリオを諭すと、チラリと時計を見て身支度をし始めた。


「エミリオ、少しの間ここを任せられるか?」

「え、え?はい、大丈夫ですけど……?」

「少し出てくる。」

「え?こんな時間から?もう夕方ですよ?」


エミリオの言う通り執務室の外はうっすらとオレンジ色に染まっている。


「ああ!夜勤の騎士達の様子でも見に行くつもりですか?ダメですよ!隊長の勤務時間はもう終わってます!有事の際には飛んでいかなきゃいけないんですから、休める時に休んでください!」

「勤務時間じゃないから行くんだ。」

「え?どこに?」

「死者を弔いに。」

「あ…。」


虚をつかれたように固まるエミリオ。
リュードはそんなエミリオに気づかないフリをして、身支度を終わらせてしまう。


「すぐに帰る。それまでよろしく頼んだ、エミリオ。」

「はい……。お任せください、隊長。」


ささっと執務室の扉を開けて、出て行ってしまうリュード。
エミリオは悲しげにその背中を眺めていた。


「そういえば今日がそうでしたね。あ、花買うお金とかちゃんと持ってったかな隊長。」


13年前の今日。後にリュードが紅蓮の子と呼ばれる原因となる事件が起こった。
今日はリュードが他国の兵を大量に殺した日。そして、リュードが大切なものを失った日だ。
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