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魔導探偵事務所

電書魔術

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「監禁…」

 ユラは驚いた。
 この事務所にそんな重大な依頼がくるなんて…。

 ユラがバイトをしている「魔導探偵事務所」、ここは様々な依頼を電書魔術を使って解決している探偵事務所である。
 電書魔術とは、タブレット端末に魔術書をインストールし、タブレットを操作して発動する魔術のことである。
 一般的な魔法といえば、物語に出てくるような魔法使いが使うものであるが、電書魔術はデジタル化した魔術をSIMチップを介して大気中のMANAと呼ばれる極小の装置に伝達、発動する。
 正しい使い方をすれば誰でも簡単に魔法が使えるというものである。
 この事務所ではその電書魔術を取り入れて、魔術絡みの依頼などをこなしている、というのは表向きにそうなっているだけで、実際はいなくなったペット探しに浮気調査、身辺調査など魔術を必要としない依頼が多い。
 特にユラはバイトなので、しょっちゅうペット探しをさせられている。
 そんな魔導と冠していながら実質的には魔術とは縁のない事務所である

 そんな魔導探偵事務所に監禁された少女の救出などという大事件が依頼されたのである。
 ユラは事の大きさをまだ理解しきれていなかった。

「それって警察に通報した方がいいんじゃないんですか?」
「いや…実は依頼人が警察ではなくうちがいいと依頼してきたんだ」
「頼めない?」

 テンカは悩んだ顔をして机の上にあったファイルを開いた。

「事件が起こったのは先週の月曜日、誘拐、監禁されたのはモノカ・レイジョウ、18歳。学校の帰り道に妙な黒服の男達に捕まって監禁された」
「犯人グループは何を要求してきたんですか?」
「要求?」
「だって誘拐ですよね、お金とか用意しろって言ってくるのが普通だと…」
「それが違うんだよユラくん」

 テンカはファイルを閉じるとため息を吐いた。

「犯人からは何も要求なし。それどころか被害者が誘拐された時側には被害者の母親がいたが、犯人を止めようともせずただ見ていたらしい」
「えっ依頼人って被害者の家族じゃないんですか?」
「違う。一応家族にも話を聞いたが、娘は誘拐なんてされてない。放っておいてくれ、だそうだ」
「じゃあ誰が依頼を…」
「依頼、と言っても良いのか…」
「どういう事ですか?」

 テンカは天井を見上げ、うーんとうなった。

「うちに電話がかかってきたんだけどね。相手はボイスチェンジャーで声を変えていて女性か男性か分からなかった。相手が言うには「少女が監禁されている。助けろ。金はいくらでも払う。断ったらお前と事務所の人間の命はないと思え」だと」
「それって脅迫じゃないですか」
「まあそうだね」
「やっぱり警察に…」
「警察を呼んでも殺されるみたいなんだ」
「じゃあこの依頼を受けるしかないんですね」
「ああ、君にはこんなヤバそうな案件本当はさせたくないんだけど、うちも人手不足でね」
「いえ、大丈夫です。丁度ペット捜索に飽きてきたところでした」

 では早速、とユラが立ち上がった時、テンカは待って、とユラを引き止めた。
 テンカは自分のデスクに向かうと、引き出しから何かを取り出し た。
 それはタブレット端末だった。

「本当はもっと電書魔術を学んでから渡そうと思ってたんだけどね」
「これ…!良いんですか?」
「今回の依頼には絶対に必要だ。持っていきなさい」

 ただし、とテンカは言葉を続けた。

「タブレットを扱うプロセスがあるんだ。めちゃくちゃに扱って魔術が誤作動を起こさないためのね。教えるから絶対に忘れてはいけないよ」

 ユラがはい、と応えると、テンカはうんうんと頷いた。

「アオイくんは物分かりが良くて結構。では早速だが…」

 テンカからタブレットの基本操作と電書魔術の発動の仕方、誤作動防止のプロセスを学んだユラは、タブレットをポーチに入れて監禁少女探しに向かった。
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