【完結】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

麻田ゆま

文字の大きさ
12 / 67
2.にせものの噺

「あはは、圭輔。それ、ええねえ。今までずっと沙穂が一位やったもん」

「なるほど。一位奪われたらどんな顔するんやろ」

「わあ、楽しみになってきたー」

少し前まではぎこちなかった言葉たちが、今はサラサラと流れては、沙穂ちゃんに刺さっていく。

悪口が板についてきたF組の面々は、また賑やかさを取り戻した。
きゃらきゃらと笑うみんなに合わせて、俺は無理やり口角を上げる。
黒幕の佐山は、依然として何を考えているのかわからない顔に、薄い笑みをのっけている。


昼休み。煮豆を箸でつまむことに奮闘していると、アイが突然椅子から立ち上がった。何事かと、俺たちは弁当から彼女へ視線を移す。

「そやそや。みんなに自慢しよう思って持って来たんよ。昨日ママに買ってもらったポスカ」

彼女は、箱入りのカラフルなサインペンを自慢げに掲げた。

「……それがどうしてん?」

まるで興味が無い、という風に圭輔が聞く。

「なによ、ポスカ可愛いやろ?」

「はあ? マジックが可愛い?」

「発色がええの」

ふうん。圭輔が適当な相槌を打つ。まあ、男子にとっては何の面白みも無い話題だろう。俺も、ペンの発色なんて気にしたことないし。

でも、そういえば一昔前、スクールバックにポスカで落書きするのが流行っていた気もする。

「試してみる?」

悪戯っ子のように笑いながら、アイは赤色のペンを圭輔に握らせた。 

「試す?」

首を傾げる圭輔に、アイはこくりと頷いた。彼女は教室の端まで歩くと、ピタリと立ち止まる。

「ここに書いてみて。紙じゃなくても書けるのが、ポスカの魅力やから」

そう言って彼女が指さしたのは、

「……え」

沙穂ちゃんの机だった。そこに今現在、弁当を広げていた机の持ち主が、のろのろと首を持ち上げる。しかし、位置的に俺たちに背を向けているため、表情は見えない。

「待てって、アイ。マジックで机に落書きなんかしたら、いくらなんでも都留にばれるやろ」

煮豆を噛みながら、俺が言う。

「ああー、そっかあ。残念。あ、じゃあ筆箱とかどう?」

アイが、机の上に置いてあったらしい、プラスチック製の箱型ペンケースを持ち上げる。

鮮やかなライトグリーンのそれは、シンプル好きの沙穂ちゃんが今年新調したものだった。

「書きがいあるわ、これ絶対」

アイは、何のためらいも無く、そのプラスチック素材にペンを走らせた。
満足そうに頷くと、今度はそのペンケースを圭輔に差し出す。

「ほらな。最高の発色。お試しあれ」

まるで実演販売の真似事みたいだ。

「…………」

無言で受け取った圭輔は、そのまま赤いペン先を、ライトグリーンに押し付けた。

「じゃあ、森也は青とかどう?」

「えっ」

にゅっと、視界のど真ん中にサインペンが現れた。その奥で、アイが目を細める。

「……ああ」

受け取らないわけには、いかなかった。

「那子は何色が良いー?」

「黄色―」

「おっけい。りっちゃんピンクどう?」

「ええ、緑がいい……」

「じゃあピンクは佐山くんな」

「俺、興味ないんだけど」

ため息をつきながら、それでも佐山はあっさりとペンを掴んだ。

手渡されたペンケースには黒色の丸文字で、「ないしん点女」、赤色の荒っぽい文字で、「ねこかぶり」と書かれていた。……メールの冤罪は晴れていない。彼女に対する勘違いは続いている。

もしかしたら、気付いていながら何もしない俺が一番悪いのかもしれない。
第二のターゲットを生んでいじめが暴走することを防ぐ、そのために放置するというこの選択肢は、果たして正しいのだろうか。
ただ黒幕に味方しているだけではないのだろうか。

だけど、どっちにしろ俺は、この空気に逆らって状況をかき乱す勇気がない。

サインペンのキャップを取り外す。ケースの端っこで小さくペン先を回す。文字でも絵でもないただのぐちゃぐちゃ。

そのあと他の面子が何を書いたのかは知らない。最後に佐山が、落書きまみれになったペンケースを沙穂ちゃんの机の上に返した。

「ちょっ」

佐山が慌てたように声を上げる。払いのけられたペンケースから、シャーペンや定規がばらばらとこぼれ落ちた。
それを拾おうともせず、沙穂ちゃんは立ち上がり、教室の外に出ていった。どんな顔をしていたのか、ここからじゃ見えない、けど。
肩が震えていたから、多分泣いていたんだと思う。

「……ま、こんなもんか」

アイが、抑揚の無い声で呟くのが聞こえた。



「森也、今日釣りせん?」

「つり? 亀之湖大池?」

圭輔がこくりと頷いた。放課後、近所の池で釣りをするのが、俺たちの娯楽のひとつである。
べつに田舎だからって遊び相手が自然のみってわけではない。
家に帰ればパソコンだってゲーム機だってある。だけど釣りには、そのどれとも違う楽しさがあった。
とはいえ、専門的な知識があるわけじゃないので、竿は圭輔のお父さんのお下がりを借りて、適当にやっている。結果はまあ、釣れたり釣れなかったりだ。

「佐山も誘ったんやけど、そんな生臭い遊びしたくないってさ。失礼しちゃう」

潔癖症のあいつらしい反応だ。ちなみに、りっちゃんは魚が怖いという謎の理由で毎回参加していない。

「結局、いつも通り圭輔と二人か」

「なにその不満そうな言い方」

「卑屈やな。そんなつもり全然ないのに」

ああ、そうですかー。と、圭輔が舌を出す。釣り、ねえ。魚がかかるのを待っている間に色々考え込んでしまいそうだなあ、と思いつつ、それは真っ直ぐ家に帰っても一緒のことだと思い直した。
学校指定の紺色鞄を肩にかけて、教室を出る。

あれから沙穂ちゃんは、授業の直前に教室に戻ってきた。散らばった筆記用具をてきぱきと拾い集め、彼女は空のペンケースを鞄の底にしまい込んでいた。
シャーペンや消しゴム、定規など、筆記用具一式が裸の状態で机の上に乗っている光景は違和感のあるものだったが、都留は気付かなかったらしい。いつも通りに授業は進んだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
ライト文芸
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。