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3.知らないもの同盟
⑤
「アイは何を考えてんのかね……」
畳の上に寝っ転がりながら、深いため息を吐く。ため息が癖になってる。
幸せが逃げるから、吐いたら急いで吸え。そんなことを言っていたのは誰だっただろうか。あんまり記憶にないけど、圭輔だろうな。
「わあ、しんちゃん何してんの?」
死体が転んでるのかと思った。と、物騒な言葉が落とされた。視線を持ち上げると、体操着姿のチカが俺を見下ろしていた。部活帰りか。ご苦労なことですな。
「何もしてない。クラスメイトが何考えてんのかわからんくて悩んどっただけ」
「クラスメイトって女子?」
「いちおー」
アイは沙穂ちゃんに恨みでもあるのかと思っていたけど、今回の状況を見る限り、そういうことではないらしい。
だとすると、彼女はもしかして単に誰かをいじめたかっただけなのではないだろうか。
「へえ。ほう。浮いた話ですか」
「……」
何やら勘違いをしながら、気持ち悪い笑みを浮かべる妹。本日何度目かわからないため息が出る。
「逆。沈んだ話」
「ふーん? フラれたん?」
「違うわ。なんでもかんでも恋愛に結び付けよってからに」
チカは、最近彼氏が出来たとかで、なにかと恋バナをしたがる節がある。
今回もそうだ。俺の悩みを聞くふりをしながら、本当は自分の話がしたいだけ……。
「ていうか、チカもさあ、なっちゃんが、あ、なっちゃんってチカの彼氏やねんけど」
ほらな! 予想通りすぎる展開に心の中で突っ込みを入れる。
妹だから許すんだぞ、この自分中心女子め。
別にチカに話を聞いてもらう気なんて毛頭ないが、この心理状態で妹のノロケは厳しい。
それよりも。いじめがアイの単なるお遊びだとすると、周りのあの反応はおかしいよな。那子も、圭輔も、状況を受け入れていた。
「ちょっとしんちゃん、聞いとる?」
「聞いとらん」
「……もしかして、しんちゃんホンマに何かやばいん?」
「は?」
伏せていた顔をもう一度持ち上げると、そこにはチカの真剣な顔があった。
「……何でもないって。はよ着替えて来いよ、汗臭い」
しっしっ、と手で追い払う仕草をする。
「もう、心配してんのにー」
チカは不満げに頬を膨らませてから、その場を去った。
「……明日、学校行きたくないなあ」
チカが居なくなったのを確認してから、ひっそりと弱音を吐く。
でも、ひとりってわけじゃ、ないんだよな。まさか、あの不気味な転校生が心の支えになろうとは。不本意だ。
しかし俺は次の日、佐山に感謝したことをさっそく後悔することになる。
**
「……えーと、りっちゃん?」
朝。教室には、佐山と那子とりっちゃんと、そして今さっき扉を開けたばかりの俺。
問題のアイと圭輔が来ていない分、殺伐さは感じられない。はずなのだが。
挨拶を投げかけた俺を、りっちゃんが凝視する。彼の意図がつかめず、苦笑いのまま固まる俺。
「……森也」
「なんでしょうか……」
「僕が邪魔なん?」
「はい?」
何言ってんの、この子。俺を見上げるりっちゃんの、ただならぬ気迫。那子が首を傾げてこっちを見ている。
佐山は、あ、読書中だわ。無関心を装うことが上手いやつめ。
「りっちゃん、ちょっと来てくれる」
彼のワイシャツを掴んで引っ張り、教室を出る。それから近くの男子トイレに押し込むと、俺はようやくりっちゃんと向き合った。
「なんなん、どないした?」
「昨日僕を置いて二人で帰ったやろ、佐山くんと」
……ええー。なに、つまり、拗ねていらっしゃると?
「ちゃうやん? ほら、昨日は圭輔と色々あって気が動転してたっていうか。佐山、あいつが一緒に帰りましょうとかほざくから、俺はその通りにしただけで、つまり、りっちゃんをのけ者にしたとか、そういうのは全然なくて」
何しどろもどろになってんだろ。りっちゃんは俺の彼女か何かなのか。
「嘘ばっかり。僕、佐山くんに聞いたんやから。僕は頭が悪くて二人の会話についていけんから邪魔やって」
「はああ!?」
あんのボケ! 今度は何のつもりだ。散々、俺の味方だと言っていたくせに。
固まった俺を、泣きそうな顔が見つめる。
「もう、いいよ……。僕、アイたちと一緒に過ごすことにしたから……」
「は? ちょっとまてよ、それって圭輔のいじめに加担するってこと……」
「いじめ? 何言ってんの、森也。悪いのは圭輔やんか……」
そう言って、りっちゃんは踵を返した。
教室に向かって走っていく彼の後姿に、俺はもう一度「待てって」と声をかけたが、それは届かなかった。
先程の言葉を反芻する。「悪いのは圭輔」? 違うよ、りっちゃん。それは口実だ。
「さーやーまーくーん?」
「なんですか、怖い顔して」
「なんですか、とちゃうわ! おまえ、いい加減にせえよ、毎回毎回、わけのわからんことしやがって、この」
佐山の机を両手で叩いた。「やめてくださいよ、壊れる」と冷静に言い放つ目の前の男に余計腹が立つ。机はそんなに脆くねえ。
「だって、俺にとってはこの方が都合よかったんですもん。あんなポヤポヤした奴、敵ならラクですけど味方にしたら邪魔でしかない」
なんて言い草だ。最低だ、こいつ。りっちゃんに土下座しろ。
「もー、良いじゃないですか。実際あの子どもがこっちサイドに居たって足引っ張られますってー」
「同い年だ馬鹿野郎!」
丸めた教科書で彼の頭を殴る。ぎゃーぎゃーと言い合っていると、心底鬱陶しそうにしていた佐山の顔が突然真顔になった。
「え? なに?」
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