【完結】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

麻田ゆま

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3.知らないもの同盟

嫌な予感がして振り向くと、案の定圭輔が登校してきたところだった。

気付かなかったが、すでに教室の中にはアイをはじめF組のクラスメイトは全員揃っていた。

佐山と無言で目を合わせる。……わかっている。静観、だろう。

「きた。裏切り者」

落ち着いた声色が、広い教室の中に放り出された。はじまりは、いつも彼女、アイ。

「そういえばF組がこうなってもたん、圭輔のせいやもんね」
沙穂ちゃん。

「そうや、ぜんぶ、圭輔がわるい……」
りっちゃん。

「ごめんなあ、でも、これも報いやろ?」

そう言って、那子は近くにあった花瓶から花を抜き、中の水を圭輔めがけてふっかけた。

「那子……!?」

咄嗟に叫んでしまい、はっと口を噤む。そんな、いきなりこんな……。

「彼らの話が見えませんね」

佐山が、椅子の背もたれに体重を預けながら囁いた。

一瞬目を見開いた圭輔は、水をかけられたのだと理解すると、すぐに表情をしまい込んだ。

「これ、いつの水? 汚いんやけど」

ワイシャツの裾をつまみながら、圭輔は気だるげに口を開く。

「……え?」

言葉を失う那子から視線を逸らすと、彼はそのまま自分の席に向かった。

「ちょっと圭輔、床、水浸しやろ、拭きよ!」

アイが苛立った口調で叫ぶ。しかし、圭輔は彼女の言葉などまるで聞こえていないかのように反応を示さない。
つまらなさそうに欠伸をして、今日もまた机に突っ伏す。

「つえー……」

隣で呟く佐山の、感心したような声色が意外だった。

「おらあ、席着けえ」

気が付けば、一時間目開始のチャイムは鳴っていた。
都留の、いかにもやる気のなさそうな声を合図に、俺たちは自分の席へと戻る。

「なんや、渋谷。お前なんでそないビショビショやねん」

特に気にする素振りも見せず、都留はさらりと爆弾を落とした。その瞬間、俺は無意識に息を止めた。

「ああ、なんか、いきなり那子が花瓶の水ぶっかけてきてさー。微妙に臭いし最悪やねんよな。ジャージに着替えていい?」

うっわー。心の中で、感嘆とも恐怖とも取れないような叫び声を上げる。
自分の状況、わかって言ってるんだよな? 信じられない。当事者でもないくせに俺は、縮こまりながら、その何ともいえない教室の雰囲気をやり過ごす。

「はあ? 立川が? お前なんでそんなことしたんや」

「え、ええ?」

那子が、珍しく焦りながら背筋を伸ばす。思ってもみなかった彼の言動に混乱しているらしい。

「ちゃうって、圭輔、変な言い方すんのやめや。那子が水変えようと花瓶持ってたところに、いきなり圭輔が教室入って来たから……」

「事故ってことか?」

都留の言葉に、そうそう、とアイが頷く。

圭輔は、アイを一瞥すると、ため息をつきながら机の中をまさぐり出した。
授業で使う教科書やノートを探しているらしい。

一瞬、彼が見せた冷たくて鋭い目つきが、脳裏に焼き付く。

「お前ら、呑気にすんのはええけど、来週からテスト期間なんわかっとうか? 中三の成績は高校に報告されるからな」

教科書を開くために落とした視線。いつもより静かな教室。俺たちの頭上に降りかかる、担任の説教。

――テスト、か。

俺たちは中三だけど、受験生ではない。村の高校への進学は約束されている。だから、テストに対してそこまでのモチベーションもない。

ふと、佐山のおかしな自己紹介を思い出す。嫌いなものは、教師……。

それって単に学校が嫌いなだけじゃないのか、と思ったけど、もしかしたら何か理由があったりするのかもしれない。

そんな疑問を浮かべながら、俺は今日も黒板に並ぶ数式をノートに書き写す。



「テスト勉強、ですか?」

スマホへ向けていた視線を俺に映して、佐山は首を傾げた。

「え、お前、テスト勉強したこと……」

「いや、ありますよ。一応、前まで進学校にいたんですから」

いつもの帰り道。小雨が降る中、傘を差すまでもないと判断して、相変わらずな田舎の景色を歩く。

「あ、そっか、私立から来たって言ってたな」

「あれ、言いましたっけ」

「言った言った。そういや、なんで転校してきたわけ? お前一人暮らしなんだろ。家の事情じゃ無しに転校してくる理由なんて俺、思いつかねんだけど」

「転校っていうか、まあ退学させられたんですよね、俺」

「……は?」

退学? 真顔になった俺を見て、佐山は苦笑した。

「簡単に言えば、とあるクラスメイトの人生をね、滅茶苦茶にしたんです。あー、あと、そいつのこと殴ったり」

「なぐ……、え、えーと、不良だった、ってこと?」

「まさか。優等生でしたよ。今と同じです」

今のお前は優等生じゃねえよ。そんなツッコミは口にしなかった。

一体お前に何があったんだ、とか。それにしたって、どうして転校先がよりによってこんな田舎なんだ、とか。
聞きたいことは山ほどあったけど、佐山の作り笑顔が、触れてくれるな、と言っていたから。俺はそのまま押し黙った。

「あ、テスト勉強の話でしたよね。一緒にやろうよっていうお誘いですか?」

「そんなわけあるか」

佐山の言葉を受け流しながら、こいつが人を殴っているところは想像できないなあ、と頭の端の方で呟いた。
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