【完結】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

麻田ゆま

文字の大きさ
30 / 67
4.泥棒ごっこ

「良い調子じゃないですか。やっぱりアイを選んで正解だ。でも、まだ足りませんね」

俺にだけ届けられた小さな声に反応して、また右隣に目をやる。小さくほくそ笑む佐山に、こくりと頷いてみせた。

「……次は二年でも狙おうか」

さすがに同じクラスで何度も盗難事件が起これば、犯人はF組の誰かです、と言っているようなものだ。
ここは他学年の誰かに犠牲になってもらおう。



アイの財布がなくなってから二日。

俺も前日になってから思い出したのだが、今日は亀之湖中の体育祭が行われる日だった。

すっかり忘れていた。というのも、うちの体育祭は何か月も前から練習を重ねてきた組体操を披露、などという大々的なものではない。リレーや玉入れを楽しむだけの、言ってみればただのお遊び会である。

そんな訳だから、本来こんなイベントは気楽に構えていれば良いはずだ。が、今回ばかりはそうもいかない。

全校生徒が一日中グラウンドに出ている、つまり、かなり長時間校舎に人が入ってこない、こんな機会そうそう無い。
お祭り騒ぎに乗じて財布を盗む絶好の機会なのだ。

「みんな競技に夢中だし、少しの間姿が見えないからと言って怪しまれることは無いでしょう」

「ああ。そろそろ行くか」

教師も全員参加で盛り上がる尻尾取りゲームで、俺たち二人はお互いの尻尾をさっさと奪い早々に離脱した。
グラウンドの中心から外れ、校舎の昇降口へと向かう。太陽がジリジリと照り付けるこんな日は体育祭日和と呼ぶのにふさわしい。

無駄に広いグラウンドで、五十人ほどの生徒たちが叫びながら駆け回っている。六人の男子生徒に追い掛け回されながら、我らが都留先生はさすがの瞬足を披露していた。

「楽しそう」 

「もっとまともに参加したかったですか?」 

「……なにを優先すべきかぐらいわかるよ」

俺たちにとって大事なのは、こっちだ。
上靴に履き替える。そういえば、あの都留狙いの六人のうち一人は村上くんだった。全力で楽しんでいる感じだったな。チカの彼氏はきっと良い子だ。

「クラスは決まってます? 確か、一年と二年はどちらもニクラスありましたよね」

「ここから一番近い二年一組の予定だけど」

俺と佐山以外誰もいない校舎の廊下。木造の空間が、俺たちと外の騒ぎ声を隔てる。時折沸き起こる歓声は、まるで別の世界で起きている出来事だった。

「そうですね。じゃあ、それで行きましょう。……それにしても、うち以外はクラス名、一組とか二組なんですね。三年だけF組って浮いてますよ」

「まあ、F組っていうのはアイツらが勝手に決めた学校非公認のやつだからさ」 

本当、なんでアルファベットにしてしまったのだろうか。小学生のとき決めたと言っていたが、当時のあいつらに文句を言ってやりたい。

二年一組の教室の扉を開けて、中に入る。F組より数の多い机たち。壁に貼り付けられた学年便りと、凝ったデコレーションが施された委員表。
俺たちの教室との違いなんて、本当に微々たるものだけど、やっぱり落ち着かない。ここは他人の空間だ。

「どの鞄を狙います?」

佐山が、教室の後ろに並ぶロッカーを眺めながら言った。

「派手な鞄だろ。キーホルダーとかいっぱい付いている感じの」

鞄を無駄に飾り付ける奴は、教室でも目立っていて賑やかなタイプの人間。これは俺のイメージだ。

俺たちの計画は、「財布が盗まれた」と騒いでもらってこそはじめて成立する。

「そうですね……、これで行きますか」

そう言って佐山はためらいも無く、鞄をひとつ引っこ抜いた。

「んん!?」

その鞄に付いているキーホルダーたちを見て、俺は思わず声を上げた。
野球のユニフォームやバットがモチーフのそれらは、フェルトで出来た、明らかに手作りと思われる物だった。

「おい、佐山……、その鞄ちょっと」

「はい?」

すでにチャックを空けて財布を探し始めていた佐山を慌てて止める。俺の記憶違いでなければ、これらのキーホルダーは全部、チカが必死になって作っていたもので、つまりその持ち主ということは……。

「え」

怪訝そうに俺を見ていた佐山の目が、突然見開かれた。俺はぎくりと動きを止めて、その場に立ち尽くした。やばい。足音がする。俺たち以外の誰かが、校舎の中に入って来たらしい。

「佐山、とりあえずその鞄ロッカーに戻せ」

「あ、はい」

鞄をいじくっているところを他人に見られるなんて言語道断だ。
しかし、それを誤魔化したところで危機が完全に回避されるわけではない。
他クラスの教室に侵入したことがばれるのは、それだけで非常にまずいのだ。

これであとあと誰かの財布が盗まれたとして、真っ先に疑われるのは俺たち二人に違いない。

これ以上財布を盗むことが不可能になるということは、つまり計画が台無しになることを意味する。

「机の裏に隠れましょう。足音の主がこの教室に入って来なければ、なんとかやり過ごせますよ」

「ああ」

佐山の言った通り、その場にあった机の後ろに屈んで身を隠す。

しかし、足音は着々とこの教室に近づいてきていた。じわり、と。汗が意地悪く額の輪郭を撫でる。佐山も、苦い顔で廊下の向こうを窺っている。

「!」

――嘘だろう。

終わった。足音の主は、遂に俺たちが潜む教室の扉を開けてしまった。

「……あれ?」


感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
ライト文芸
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。