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5.ふたりの六人目
⑩
だから、当然なんよ。そう優里は言った。
あのあと彼らが自分に失望したこと。口を聞いてくれなくなったこと。なぜかアイだけは最後まで優里の味方でいたらしいが。
「裏切ったのはうち。先輩たちが怖くて、クラスメイトを売ったんよ」
結局、学年主任は優里の言葉を信じなかった。だからF組の面々が罪を被ることはなかったが、彼らと優里の間には大きな溝が生まれてしまった。
「……」
俺は、何も言えなかった。正直な感想を言えば、悪いのは、優里だと思う。
だけど、目の前でぎこちなく笑う彼女を責める気は湧かない。
それどころか、なんとか慰めたいと思った。だけど、何を言えば優里の気持ちを軽くできるのか。
「……でも、みんなは、F組のあいつらは、優里を恨んでない、から」
「そんなはずないやん」
「3年経った今でも、優里を追い出した罪悪感に苦しんでる。アイがいじめをするのも、それを他のみんなが受け入れるのも。そうやって罰を受けなやってられんぐらい引きずってる」
優里は、何も言わず俺の目を見つめた。唇を噛みしめながら、苦しそうに眉の形を歪める。
「でも」
「那子が、きっかけなんか忘れたって言ってた。それは、恨んでない証拠にならんか?」
「わすれたって……」
「なあ、優里。俺は、お前がもう一度F組に戻って来てくれたら、きっとなにかが変わるって思っとる。
裏切った自分に耐えられんくて学校から逃げたっていうなら。悪いことしたって思うなら。もう一回、F組のなかに入って、あのクラスを立て直してくれんか」
優里は、驚いたように目を丸くした。
「うちが……?」
「優里なら、アイの暴走を止められるやろ」
酷なことを言っているのは、わかっている。
3年近く行っていなかった学校にいきなり行けだなんて。それも、現在進行形で彼女の存在が波紋を呼んでいるというのに。しかし、優里は俺の目を見つめてこくりと頷いた。
「……わかった。うちに何とかできる可能性があるなら、行く。圭輔がいじめられてるなんか聞かされて、黙ってるわけにはいかんし。
母親の説得もあるから今すぐは難しいけど……。それに、当事者のくせにいつまでも引きこもってられんもんな」
「まじで」
ぱっと顔を上げると、「でも」と、優里が声を落とした。
「裏サイトの件はどうすんの?」
「うらさいとって、……カレンのこと?」
「そう。だって、そいつを何とかせな万事解決ってわけには行かんのやろ」
優里の言葉に、「まあ」と呟く。それはそうだ。アイに協力する人間。そいつの目的も、そもそも正体も。まだ何ひとつ明らかになっていない。
「そのさ、裏サイトが出来たのっていつなん?」
「え? あー、確か、1年の春?」
口元に手を置きながら、思い出す。そんな俺を見ながら、優里は「あのな」と口を開いた。そしてベンチから立って、俺と向き合う。
「うち、思うんやけど。そのカレンが裏サイトを作ったタイミングって、うちが登校拒否になったときって言うよりは、森也が転校してきたときやない?」
「え?」
どきりと心臓が跳ねた。なにか、ものすごく怖いことを告げられるような気がしたから。
「だから、つまり。カレンの目的は、もしかしたら森也かもしらんよってね」
そう言って優里は、「はは」と笑った。本人は冗談のつもりらしい。だけど俺は、彼女の顔を見つめたまま動けなかった。
自室の布団のなかに潜り込みながら、考えを整理する。
裏サイトができたとき、俺以外のみんなはカレンを優里に結び付けた。それはパスワードのせいだ。
しかし、このパスワード設定がアイの助言によるものだとすれば。確かにカレンがF組のことを知らない人物であっても十分成り立つ。だけど、もしそうだとして。奴は何がしたいのかわからない。目的が俺、と言われても……。
「まさか。……ないって」
そんな恐ろしいこと、考えたくない。
「圭輔は、カレンが優里やって信じてたから、自らいじめられに行ったんよなあ……」
ため息を漏らす。だってそれは全部、勘違いだ。カレンを優里に見せかけることによって、アイは教室の主導権を握っている。
「……めんどくさい」
だいたい、アイもおかしな奴だ。優里はクラスメイトに罪を被せようとしたと言っていた。そのクラスメイトのなかにはもちろん彼女も含まれている。
つまり、あいつは裏切られてなお、優里を崇拝していることになる。どう考えたって異常だ。
「しんちゃん……?」
「え?」
すっ、と部屋のふすまが開けられた。
驚きながら、枕に乗せていた首を持ち上げる。そこには、真っ青な表情で俺を見下ろすチカの姿があった。
「……どうした?」
慌てて布団から起き上がる。そんな俺を、チカの怪訝そうな目が見つめる。首を傾げると彼女は「まさか」と声をこぼした。
「しんちゃん、知らんの?」
「なにが?」
「……ツイッターの……、いや、ううん。ごめん」
言葉を濁しながら、首を振るチカ。
「ついったー?」
眉根を寄せる俺に「忘れて」と言って、彼女は踵を返す。呼び止めようとしたが、チカはそのまま自分の部屋に入ってしまった。
「ツイッターなんか、俺、やってないし……」
チカのただならぬ表情が、嫌な予感を呼び起こす。だけど、なにが起こっているのか見当もつかない。
あのあと彼らが自分に失望したこと。口を聞いてくれなくなったこと。なぜかアイだけは最後まで優里の味方でいたらしいが。
「裏切ったのはうち。先輩たちが怖くて、クラスメイトを売ったんよ」
結局、学年主任は優里の言葉を信じなかった。だからF組の面々が罪を被ることはなかったが、彼らと優里の間には大きな溝が生まれてしまった。
「……」
俺は、何も言えなかった。正直な感想を言えば、悪いのは、優里だと思う。
だけど、目の前でぎこちなく笑う彼女を責める気は湧かない。
それどころか、なんとか慰めたいと思った。だけど、何を言えば優里の気持ちを軽くできるのか。
「……でも、みんなは、F組のあいつらは、優里を恨んでない、から」
「そんなはずないやん」
「3年経った今でも、優里を追い出した罪悪感に苦しんでる。アイがいじめをするのも、それを他のみんなが受け入れるのも。そうやって罰を受けなやってられんぐらい引きずってる」
優里は、何も言わず俺の目を見つめた。唇を噛みしめながら、苦しそうに眉の形を歪める。
「でも」
「那子が、きっかけなんか忘れたって言ってた。それは、恨んでない証拠にならんか?」
「わすれたって……」
「なあ、優里。俺は、お前がもう一度F組に戻って来てくれたら、きっとなにかが変わるって思っとる。
裏切った自分に耐えられんくて学校から逃げたっていうなら。悪いことしたって思うなら。もう一回、F組のなかに入って、あのクラスを立て直してくれんか」
優里は、驚いたように目を丸くした。
「うちが……?」
「優里なら、アイの暴走を止められるやろ」
酷なことを言っているのは、わかっている。
3年近く行っていなかった学校にいきなり行けだなんて。それも、現在進行形で彼女の存在が波紋を呼んでいるというのに。しかし、優里は俺の目を見つめてこくりと頷いた。
「……わかった。うちに何とかできる可能性があるなら、行く。圭輔がいじめられてるなんか聞かされて、黙ってるわけにはいかんし。
母親の説得もあるから今すぐは難しいけど……。それに、当事者のくせにいつまでも引きこもってられんもんな」
「まじで」
ぱっと顔を上げると、「でも」と、優里が声を落とした。
「裏サイトの件はどうすんの?」
「うらさいとって、……カレンのこと?」
「そう。だって、そいつを何とかせな万事解決ってわけには行かんのやろ」
優里の言葉に、「まあ」と呟く。それはそうだ。アイに協力する人間。そいつの目的も、そもそも正体も。まだ何ひとつ明らかになっていない。
「そのさ、裏サイトが出来たのっていつなん?」
「え? あー、確か、1年の春?」
口元に手を置きながら、思い出す。そんな俺を見ながら、優里は「あのな」と口を開いた。そしてベンチから立って、俺と向き合う。
「うち、思うんやけど。そのカレンが裏サイトを作ったタイミングって、うちが登校拒否になったときって言うよりは、森也が転校してきたときやない?」
「え?」
どきりと心臓が跳ねた。なにか、ものすごく怖いことを告げられるような気がしたから。
「だから、つまり。カレンの目的は、もしかしたら森也かもしらんよってね」
そう言って優里は、「はは」と笑った。本人は冗談のつもりらしい。だけど俺は、彼女の顔を見つめたまま動けなかった。
自室の布団のなかに潜り込みながら、考えを整理する。
裏サイトができたとき、俺以外のみんなはカレンを優里に結び付けた。それはパスワードのせいだ。
しかし、このパスワード設定がアイの助言によるものだとすれば。確かにカレンがF組のことを知らない人物であっても十分成り立つ。だけど、もしそうだとして。奴は何がしたいのかわからない。目的が俺、と言われても……。
「まさか。……ないって」
そんな恐ろしいこと、考えたくない。
「圭輔は、カレンが優里やって信じてたから、自らいじめられに行ったんよなあ……」
ため息を漏らす。だってそれは全部、勘違いだ。カレンを優里に見せかけることによって、アイは教室の主導権を握っている。
「……めんどくさい」
だいたい、アイもおかしな奴だ。優里はクラスメイトに罪を被せようとしたと言っていた。そのクラスメイトのなかにはもちろん彼女も含まれている。
つまり、あいつは裏切られてなお、優里を崇拝していることになる。どう考えたって異常だ。
「しんちゃん……?」
「え?」
すっ、と部屋のふすまが開けられた。
驚きながら、枕に乗せていた首を持ち上げる。そこには、真っ青な表情で俺を見下ろすチカの姿があった。
「……どうした?」
慌てて布団から起き上がる。そんな俺を、チカの怪訝そうな目が見つめる。首を傾げると彼女は「まさか」と声をこぼした。
「しんちゃん、知らんの?」
「なにが?」
「……ツイッターの……、いや、ううん。ごめん」
言葉を濁しながら、首を振るチカ。
「ついったー?」
眉根を寄せる俺に「忘れて」と言って、彼女は踵を返す。呼び止めようとしたが、チカはそのまま自分の部屋に入ってしまった。
「ツイッターなんか、俺、やってないし……」
チカのただならぬ表情が、嫌な予感を呼び起こす。だけど、なにが起こっているのか見当もつかない。
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