【完結】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

麻田ゆま

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5.ふたりの六人目

だから、当然なんよ。そう優里は言った。
あのあと彼らが自分に失望したこと。口を聞いてくれなくなったこと。なぜかアイだけは最後まで優里の味方でいたらしいが。

「裏切ったのはうち。先輩たちが怖くて、クラスメイトを売ったんよ」

結局、学年主任は優里の言葉を信じなかった。だからF組の面々が罪を被ることはなかったが、彼らと優里の間には大きな溝が生まれてしまった。

「……」

俺は、何も言えなかった。正直な感想を言えば、悪いのは、優里だと思う。
だけど、目の前でぎこちなく笑う彼女を責める気は湧かない。
それどころか、なんとか慰めたいと思った。だけど、何を言えば優里の気持ちを軽くできるのか。

「……でも、みんなは、F組のあいつらは、優里を恨んでない、から」

「そんなはずないやん」

「3年経った今でも、優里を追い出した罪悪感に苦しんでる。アイがいじめをするのも、それを他のみんなが受け入れるのも。そうやって罰を受けなやってられんぐらい引きずってる」

優里は、何も言わず俺の目を見つめた。唇を噛みしめながら、苦しそうに眉の形を歪める。

「でも」

「那子が、きっかけなんか忘れたって言ってた。それは、恨んでない証拠にならんか?」

「わすれたって……」

「なあ、優里。俺は、お前がもう一度F組に戻って来てくれたら、きっとなにかが変わるって思っとる。
裏切った自分に耐えられんくて学校から逃げたっていうなら。悪いことしたって思うなら。もう一回、F組のなかに入って、あのクラスを立て直してくれんか」

優里は、驚いたように目を丸くした。 

「うちが……?」 

「優里なら、アイの暴走を止められるやろ」

酷なことを言っているのは、わかっている。
3年近く行っていなかった学校にいきなり行けだなんて。それも、現在進行形で彼女の存在が波紋を呼んでいるというのに。しかし、優里は俺の目を見つめてこくりと頷いた。

「……わかった。うちに何とかできる可能性があるなら、行く。圭輔がいじめられてるなんか聞かされて、黙ってるわけにはいかんし。
母親の説得もあるから今すぐは難しいけど……。それに、当事者のくせにいつまでも引きこもってられんもんな」

「まじで」

ぱっと顔を上げると、「でも」と、優里が声を落とした。

「裏サイトの件はどうすんの?」

「うらさいとって、……カレンのこと?」

「そう。だって、そいつを何とかせな万事解決ってわけには行かんのやろ」

優里の言葉に、「まあ」と呟く。それはそうだ。アイに協力する人間。そいつの目的も、そもそも正体も。まだ何ひとつ明らかになっていない。

「そのさ、裏サイトが出来たのっていつなん?」

「え? あー、確か、1年の春?」

口元に手を置きながら、思い出す。そんな俺を見ながら、優里は「あのな」と口を開いた。そしてベンチから立って、俺と向き合う。

「うち、思うんやけど。そのカレンが裏サイトを作ったタイミングって、うちが登校拒否になったときって言うよりは、森也が転校してきたときやない?」

「え?」

どきりと心臓が跳ねた。なにか、ものすごく怖いことを告げられるような気がしたから。

「だから、つまり。カレンの目的は、もしかしたら森也かもしらんよってね」

そう言って優里は、「はは」と笑った。本人は冗談のつもりらしい。だけど俺は、彼女の顔を見つめたまま動けなかった。



自室の布団のなかに潜り込みながら、考えを整理する。
裏サイトができたとき、俺以外のみんなはカレンを優里に結び付けた。それはパスワードのせいだ。
しかし、このパスワード設定がアイの助言によるものだとすれば。確かにカレンがF組のことを知らない人物であっても十分成り立つ。だけど、もしそうだとして。奴は何がしたいのかわからない。目的が俺、と言われても……。

「まさか。……ないって」

そんな恐ろしいこと、考えたくない。 

「圭輔は、カレンが優里やって信じてたから、自らいじめられに行ったんよなあ……」

ため息を漏らす。だってそれは全部、勘違いだ。カレンを優里に見せかけることによって、アイは教室の主導権を握っている。

「……めんどくさい」

だいたい、アイもおかしな奴だ。優里はクラスメイトに罪を被せようとしたと言っていた。そのクラスメイトのなかにはもちろん彼女も含まれている。
つまり、あいつは裏切られてなお、優里を崇拝していることになる。どう考えたって異常だ。

「しんちゃん……?」

「え?」

すっ、と部屋のふすまが開けられた。
驚きながら、枕に乗せていた首を持ち上げる。そこには、真っ青な表情で俺を見下ろすチカの姿があった。

「……どうした?」

慌てて布団から起き上がる。そんな俺を、チカの怪訝そうな目が見つめる。首を傾げると彼女は「まさか」と声をこぼした。

「しんちゃん、知らんの?」 

「なにが?」

「……ツイッターの……、いや、ううん。ごめん」

言葉を濁しながら、首を振るチカ。

「ついったー?」

眉根を寄せる俺に「忘れて」と言って、彼女は踵を返す。呼び止めようとしたが、チカはそのまま自分の部屋に入ってしまった。 

「ツイッターなんか、俺、やってないし……」

チカのただならぬ表情が、嫌な予感を呼び起こす。だけど、なにが起こっているのか見当もつかない。
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