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6.嘘つきヒーロー
⑧
「人を丸め込む天才だからな。
俺たちが手を組んだ当初もお前悩んでたよな。なんとかして亀裂を作ろうとしても全部、森也が回収しちまうから進まないっつって」
珍しく楽しそうに話す蓮。
そうか。アイがたまに攻撃的な態度を取っていたのは、本来の性格ではなく、この教室をかき乱すためだったのか。
「せっかく新しい転校生のおかげで念願の復讐も順調に進んでたのに。そうか。やめたのか。つまらねえなあ」
……妙だ。
「蓮、お前、なんでそんな話をここでするんだよ。みんなに聞かせて、黒幕アピールでもしているつもりか?」
腹の底からじわりと沸き起こる気持ちの悪さに耐えかねて、蓮に向かって言葉を投げた。
「はあ? みんなって誰だよ。お前のクラスメイトにどう思われようが興味ないっての。
それより、ここのおかしな空気はなんだよ。お前、何やってんの。もしかして、はぶられてんの?」
気付いていたのか。言葉に詰まる。
「どういうつもりだよ。なあ、森也。お前ならいくらでも回避できるはずだ。なんで放置してんだよ。また何か企んでんのか?」
蓮は、悪い方向で俺を買い被っているようだった。
やはり、そうあっさり納得して帰るほど簡単ではないらしい。
「べつに。回避できるもんならしてるよ」
「出た出た。そうやって油断させておいて、お前は突然牙を向くんだよ。
クラスメイトさんも気いつけな。知らないうちに、こいつはクラスの空気を操ってるんだ」
なるほど。わざわざ大声で話すのは忠告も兼ねているわけだ。
みんなは何も言わない。傍観に徹することを決め込んでいるようだった。
俺と蓮との関係を図りかねているらしい、混乱も伝わってくる。
「それで。東京からわざわざ来た蓮くんは、俺たちにどうして欲しいわけ?」
後ろの壁にもたれかかりながら、佐山が発言する。
やはりこの状況で堂々としているのは彼だけだ。
圭輔は眉間にしわをよせたまま固まっている。他の面子は揃って、怯えたように蓮を見るだけだ。
「……お前、俺にダイレクトメールを送って来た奴だろ。転校生の、確か、ユウタ」
「そうだけど。質問の答えになってないな」
そう言って、にこりと微笑む佐山。
蓮は彼が噂の転校生であることに確信を持っているらしかった。
身長差コンビとして話題に上がることの多い圭輔ととりっちゃんを除いた消去法だろうか。
もしくは、彼の持つ独特の雰囲気があのメールと結び付いたのだろうか。
「俺がこうして欲しいっつったら、お前、その通りに動くのかよ」
「はは、そんな義理ないよ」
「……想像通り気持ちの悪い奴だ」
「そう毛嫌いしないでよ、蓮くん。俺は結構きみを歓迎しているんだ。
義理はないけど、場合によっては全力で応援させてもらうよ」
蓮が佐山を睨んだ。
奴の言葉を真に受けるつもりはさらさら無いにしても、なぜそんなことを言うのかと警戒しているようだった。
実際、佐山の発言の意図は俺もわからなかった。
いったい、どういう場合なら彼は蓮の味方をするというのか。
蓮から佐山に視線を移した俺は、はっと息を呑んだ。
彼の顔つき、それはまるで久々の獲物を前に興奮しているような異様さを放っていた。蓮もそれに気付いたらしい。
彼は表情を収めて佐山から目を逸らした。
「ああ、もうすぐ授業が始まる。蓮くんもとりあえず帰りなよ。またお話ししてくれると俺は嬉しいな」
勢いを失った蓮の様子を面白がるように、佐山はくすくすと笑って見せた。
その日の昼休み。昼食の前に手を洗おうと、トイレに向かう。
あれから、蓮はふらりとどこかへ行ってしまった。どこで何をしているんだろう。
この何もない村では、暇つぶしも難しい。
……まあ、俺が心配するもんでもないし。
「うっ?」
突然、大きなカタマリが激突してきた。
肩に強烈な衝撃を食らい、バランスが崩れる。こけそうになるのを、なんとか踏みとどまった。
誰かとぶつかったのだ。それだけは理解できた。
……こいつ、どんだけ勢いよく走ってんだよ。顔を上げた俺は、そのまま固まった。
「あ……」
「おにいさ……」
そこにいたのは、目を大きく見開いた村上くんだった。
途端、どこかに姿を隠したい羞恥心に襲われる。
少なくとも、ほんの少し前までは慕ってくれていた相手。だけど、蓮が全てをぶちまけてしまったであろう今、彼の目に映っている俺は……。
何を言っていいのかわからなかった。いっそのこと無視して、そのまま通り過ぎてもらいたい。そう願う。
「満華、見ませんでした!?」
「……はっ?」
予想外の言葉に反応が遅れる。
俺に対しての失望とか、嫌悪とか、そんなものなど眼中に無いかのように、ただ彼は、焦っていた。
そのただならぬ形相に気圧されてしまう。いや、待て。いま、満華って……。
彼の言葉が、頭の中でだんだん意味を成していく。
「チカが、どうしたって……?」
今日初めて、まともに村上くんの目を見た。切羽詰まったかのように揺れる瞳。
「さっき、野球部の後輩が俺のとこ来て、満華が連れて行かれたって……」
連れて行かれた?
背中が冷える。一瞬、蓮の顔が浮かんだ。
「だれに……?」
「クラスの女子です……。俺、知っとったのに、何も出来んかった……!
満華は、あいつは一部の女子にずっと疎まれとった、僻まれてたんです、あいつの、悩みなんか何もないって言うような性格とか、何でも簡単にこなす所とか。気に入らん転校生やって!」
「そんな……」
転校生だから、疎まれていた……?
俺たちが手を組んだ当初もお前悩んでたよな。なんとかして亀裂を作ろうとしても全部、森也が回収しちまうから進まないっつって」
珍しく楽しそうに話す蓮。
そうか。アイがたまに攻撃的な態度を取っていたのは、本来の性格ではなく、この教室をかき乱すためだったのか。
「せっかく新しい転校生のおかげで念願の復讐も順調に進んでたのに。そうか。やめたのか。つまらねえなあ」
……妙だ。
「蓮、お前、なんでそんな話をここでするんだよ。みんなに聞かせて、黒幕アピールでもしているつもりか?」
腹の底からじわりと沸き起こる気持ちの悪さに耐えかねて、蓮に向かって言葉を投げた。
「はあ? みんなって誰だよ。お前のクラスメイトにどう思われようが興味ないっての。
それより、ここのおかしな空気はなんだよ。お前、何やってんの。もしかして、はぶられてんの?」
気付いていたのか。言葉に詰まる。
「どういうつもりだよ。なあ、森也。お前ならいくらでも回避できるはずだ。なんで放置してんだよ。また何か企んでんのか?」
蓮は、悪い方向で俺を買い被っているようだった。
やはり、そうあっさり納得して帰るほど簡単ではないらしい。
「べつに。回避できるもんならしてるよ」
「出た出た。そうやって油断させておいて、お前は突然牙を向くんだよ。
クラスメイトさんも気いつけな。知らないうちに、こいつはクラスの空気を操ってるんだ」
なるほど。わざわざ大声で話すのは忠告も兼ねているわけだ。
みんなは何も言わない。傍観に徹することを決め込んでいるようだった。
俺と蓮との関係を図りかねているらしい、混乱も伝わってくる。
「それで。東京からわざわざ来た蓮くんは、俺たちにどうして欲しいわけ?」
後ろの壁にもたれかかりながら、佐山が発言する。
やはりこの状況で堂々としているのは彼だけだ。
圭輔は眉間にしわをよせたまま固まっている。他の面子は揃って、怯えたように蓮を見るだけだ。
「……お前、俺にダイレクトメールを送って来た奴だろ。転校生の、確か、ユウタ」
「そうだけど。質問の答えになってないな」
そう言って、にこりと微笑む佐山。
蓮は彼が噂の転校生であることに確信を持っているらしかった。
身長差コンビとして話題に上がることの多い圭輔ととりっちゃんを除いた消去法だろうか。
もしくは、彼の持つ独特の雰囲気があのメールと結び付いたのだろうか。
「俺がこうして欲しいっつったら、お前、その通りに動くのかよ」
「はは、そんな義理ないよ」
「……想像通り気持ちの悪い奴だ」
「そう毛嫌いしないでよ、蓮くん。俺は結構きみを歓迎しているんだ。
義理はないけど、場合によっては全力で応援させてもらうよ」
蓮が佐山を睨んだ。
奴の言葉を真に受けるつもりはさらさら無いにしても、なぜそんなことを言うのかと警戒しているようだった。
実際、佐山の発言の意図は俺もわからなかった。
いったい、どういう場合なら彼は蓮の味方をするというのか。
蓮から佐山に視線を移した俺は、はっと息を呑んだ。
彼の顔つき、それはまるで久々の獲物を前に興奮しているような異様さを放っていた。蓮もそれに気付いたらしい。
彼は表情を収めて佐山から目を逸らした。
「ああ、もうすぐ授業が始まる。蓮くんもとりあえず帰りなよ。またお話ししてくれると俺は嬉しいな」
勢いを失った蓮の様子を面白がるように、佐山はくすくすと笑って見せた。
その日の昼休み。昼食の前に手を洗おうと、トイレに向かう。
あれから、蓮はふらりとどこかへ行ってしまった。どこで何をしているんだろう。
この何もない村では、暇つぶしも難しい。
……まあ、俺が心配するもんでもないし。
「うっ?」
突然、大きなカタマリが激突してきた。
肩に強烈な衝撃を食らい、バランスが崩れる。こけそうになるのを、なんとか踏みとどまった。
誰かとぶつかったのだ。それだけは理解できた。
……こいつ、どんだけ勢いよく走ってんだよ。顔を上げた俺は、そのまま固まった。
「あ……」
「おにいさ……」
そこにいたのは、目を大きく見開いた村上くんだった。
途端、どこかに姿を隠したい羞恥心に襲われる。
少なくとも、ほんの少し前までは慕ってくれていた相手。だけど、蓮が全てをぶちまけてしまったであろう今、彼の目に映っている俺は……。
何を言っていいのかわからなかった。いっそのこと無視して、そのまま通り過ぎてもらいたい。そう願う。
「満華、見ませんでした!?」
「……はっ?」
予想外の言葉に反応が遅れる。
俺に対しての失望とか、嫌悪とか、そんなものなど眼中に無いかのように、ただ彼は、焦っていた。
そのただならぬ形相に気圧されてしまう。いや、待て。いま、満華って……。
彼の言葉が、頭の中でだんだん意味を成していく。
「チカが、どうしたって……?」
今日初めて、まともに村上くんの目を見た。切羽詰まったかのように揺れる瞳。
「さっき、野球部の後輩が俺のとこ来て、満華が連れて行かれたって……」
連れて行かれた?
背中が冷える。一瞬、蓮の顔が浮かんだ。
「だれに……?」
「クラスの女子です……。俺、知っとったのに、何も出来んかった……!
満華は、あいつは一部の女子にずっと疎まれとった、僻まれてたんです、あいつの、悩みなんか何もないって言うような性格とか、何でも簡単にこなす所とか。気に入らん転校生やって!」
「そんな……」
転校生だから、疎まれていた……?
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