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7.追想のカメレオン
⑪
「釜西くん。お友だちよ」
ベッドの上で野球ボールを握っていた蓮が、こちらを振り向いた。
目が合った瞬間、彼は驚いたように俺を凝視した。
「は?」
蓮の第一声は、それだった。
あちらこちらに包帯が巻いてあるものの、彼自身は思ったより元気そうだった。
生きていてくれて良かった。心からそう思う。
だけどすぐに、どの立場で安堵しているんだ、と背徳感に襲われる。
そもそも彼に死なれて困るのは、単に自分の罪が重くなるからじゃないだろうか。
それを否定することが、今の自分には出来ない。
いつの間にか看護師さんはいなくなっていた。
「蓮、俺、謝りたくて……」
「いらねえよ」
低い声が落とされる。顔を上げる俺を、蓮の冷たい目が見つめる。
「許せないのに謝られたって、気分が悪いだけだろ」
当たり前のことを言われただけなのに、俺の心はひどく傷ついた。
同時に、自分の甘さを再確認させられる。
「あんた、どういう神経してたら当日にのこのこやって来れるわけ? 謝りたいって、そんなの自己満足でしょ? 蓮が嫌な思いをするとか、何も考えなかったの?」
凛歌が、蓮に寄り添いながら俺を睨む。
「……蓮、お前、担任に嘘ついたろ?」
蓮の眉がぴくりと動いた。
――はしゃいでたら、誤って落ちた。
「なんで、あんなこと言った?」
全部俺のせいにする方が、蓮の気も晴れるだろうに。
許されない。謝ることすら。それなのに、心のどこかで期待している。嘘をついたのは、俺を庇うためだったのかもしれない、と。
「俺が、自分で復讐したかったから」
「え?」
視界が、悪くなる。言葉の意味が飲み込めない。
まるで表情も変えずに、さらりと落とされた言葉は、その邪悪な響きだけを俺の心臓に植え付ける。
「これからお前がどう生きていくのかは知らないけど、森也が楽しく過ごしていくなんて、許さないから」
このとき、俺は知った。蓮の心を完全に壊してしまったことを。
それから、俺は学校に通うことを放棄した。
正確には、まともな学校生活を送れるような精神状態ではなかった。
登校拒否になってすぐ、例の一件はすべて俺ひとりの責任にされたらしい。
知らないうちに、両親は俺と妹の分の転校手続きを済ませていた。
俺は、逃げるようにあの地を離れた。
――わたしたちの噂学校 掲示板サイト
「噂の人殺しカメレオンが、転校した件@鷹谷」
――コメント
「ヒカリ:ああ、Kを自殺させた奴?」
「ヨシイ:そうそう」
「ミナト:死んでないだろ?」
「リンカ:未遂よ。とっくに復帰してる」
「ヒカリ:3階から飛び降りたんだよね? めっちゃ騒がれてた」
「リンカ:で、どこ行ったの? 転校先は?」
「ミナト:亀之湖中学校ってところらしい。兵庫の田舎」
「ヨシイ:次の被害が出るな、気の毒すぎるわ」
「アイ:待って。自分、亀之湖の生徒なんですけど」
「ミナト:え? まじで?」
「アイ:うん。ていうか、最近クラスに転校生来たんやけど、もしかして、あれが?」
「ヨシイ:うわー。クラスメイトきたー」
「ミナト:気をつけろよ。そいつ、本気でヤバいヤツだから」
「アイ:やばいって?」
「リンカ:Kの件以外にも何かあったの?」
「ミナト:教師を一人、やめさせたんだよ」
「アイ:めっちゃ危ないやつやん」
「カレン:アイさん。詳しく話を聞きたいので、ダイレクトメールを送ってもいいですか? 伝えたいこともありますし」
「ヨシイ:誰だお前。ここで聞けばいいだろ、コソコソすんな」
「アイ:カレンさん。大丈夫ですよ。待ってい|
ベッドの上で野球ボールを握っていた蓮が、こちらを振り向いた。
目が合った瞬間、彼は驚いたように俺を凝視した。
「は?」
蓮の第一声は、それだった。
あちらこちらに包帯が巻いてあるものの、彼自身は思ったより元気そうだった。
生きていてくれて良かった。心からそう思う。
だけどすぐに、どの立場で安堵しているんだ、と背徳感に襲われる。
そもそも彼に死なれて困るのは、単に自分の罪が重くなるからじゃないだろうか。
それを否定することが、今の自分には出来ない。
いつの間にか看護師さんはいなくなっていた。
「蓮、俺、謝りたくて……」
「いらねえよ」
低い声が落とされる。顔を上げる俺を、蓮の冷たい目が見つめる。
「許せないのに謝られたって、気分が悪いだけだろ」
当たり前のことを言われただけなのに、俺の心はひどく傷ついた。
同時に、自分の甘さを再確認させられる。
「あんた、どういう神経してたら当日にのこのこやって来れるわけ? 謝りたいって、そんなの自己満足でしょ? 蓮が嫌な思いをするとか、何も考えなかったの?」
凛歌が、蓮に寄り添いながら俺を睨む。
「……蓮、お前、担任に嘘ついたろ?」
蓮の眉がぴくりと動いた。
――はしゃいでたら、誤って落ちた。
「なんで、あんなこと言った?」
全部俺のせいにする方が、蓮の気も晴れるだろうに。
許されない。謝ることすら。それなのに、心のどこかで期待している。嘘をついたのは、俺を庇うためだったのかもしれない、と。
「俺が、自分で復讐したかったから」
「え?」
視界が、悪くなる。言葉の意味が飲み込めない。
まるで表情も変えずに、さらりと落とされた言葉は、その邪悪な響きだけを俺の心臓に植え付ける。
「これからお前がどう生きていくのかは知らないけど、森也が楽しく過ごしていくなんて、許さないから」
このとき、俺は知った。蓮の心を完全に壊してしまったことを。
それから、俺は学校に通うことを放棄した。
正確には、まともな学校生活を送れるような精神状態ではなかった。
登校拒否になってすぐ、例の一件はすべて俺ひとりの責任にされたらしい。
知らないうちに、両親は俺と妹の分の転校手続きを済ませていた。
俺は、逃げるようにあの地を離れた。
――わたしたちの噂学校 掲示板サイト
「噂の人殺しカメレオンが、転校した件@鷹谷」
――コメント
「ヒカリ:ああ、Kを自殺させた奴?」
「ヨシイ:そうそう」
「ミナト:死んでないだろ?」
「リンカ:未遂よ。とっくに復帰してる」
「ヒカリ:3階から飛び降りたんだよね? めっちゃ騒がれてた」
「リンカ:で、どこ行ったの? 転校先は?」
「ミナト:亀之湖中学校ってところらしい。兵庫の田舎」
「ヨシイ:次の被害が出るな、気の毒すぎるわ」
「アイ:待って。自分、亀之湖の生徒なんですけど」
「ミナト:え? まじで?」
「アイ:うん。ていうか、最近クラスに転校生来たんやけど、もしかして、あれが?」
「ヨシイ:うわー。クラスメイトきたー」
「ミナト:気をつけろよ。そいつ、本気でヤバいヤツだから」
「アイ:やばいって?」
「リンカ:Kの件以外にも何かあったの?」
「ミナト:教師を一人、やめさせたんだよ」
「アイ:めっちゃ危ないやつやん」
「カレン:アイさん。詳しく話を聞きたいので、ダイレクトメールを送ってもいいですか? 伝えたいこともありますし」
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