【完結】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

麻田ゆま

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8.色遊びの切れ目

「俺さ、此処に来て救われたんだ」

ぽつりと言葉を落とした。

先ほどまで放心していた俺を、那子が心配そうに覗き込む。いつの間にか、佐山はいなくなっていた。

「もう、人と関わりたくなかった。どうせ失敗するから。
転校先が田舎だって聞いて、わざと髪を染めたんだ。悪目立ちして孤立してやろうって、そう思った」

吐き気はまだ残っていた。どうしようもなく水が飲みたかったが、我慢して話を続けた。

「それなのにお前らは、俺を笑顔で迎えてくれただろ? 俺、小細工なしの状態で受け入れてもらったの、あれが初めてだったんだよ」

適当に自己紹介を済ませて、さっさと席についた俺に、F組のみんなは嬉しそうに話しかけてくれた。
その平穏さに憧れた。仲間になりたいと思った。

「でも、やっぱり不安でさ。転校生としての物珍しさが無くなったとき、相手にされなくなるんじゃないか、とか。
小学校からずっと一緒に暮らしてきたみんなの、絆っていうの? そういうものに、俺はついて行けないんじゃないか、とか。ポジションを確立したかった。クラスの中に」

「森也がいつも、いさかいの種を取り除いてくれていたのは。つまり善意じゃなくて、計算やった。そう言いたいんやね」

返事の代わりに、黙って俯く。

「自分ばっかりが裏切り者やって言いたいんかもしらんけど。森也の信じた平和なクラスは偽物やったやろ? 
うちらだって、森也のこと騙しとったんよ。それに、アイは森也が例の『カメレオン』やってこと、始めから知ってたわけやし」

「……」

「前の学校で何があったのか、よく知らんけどね。うちは、おあいこやと思うんよ」

そっと、那子の顔を覗き見る。真剣な表情だった。 

俺が転校してすぐ、とある掲示板サイトでカメレオンの噂は広められていた。
佐山が管理しているツイッターのアカウントでは、その掲示板のスクリーンショットが晒されている。
あの噂は、俺に100パーセントの責任が押し付けられている点以外、すべてが事実だった。

那子はあれを見たくせに、それでも俺に偏った意見を持っている。

……同情を引いて味方につけることなど容易い。

「なあ、那子。信じてもらえるかわからんけど、聞いて欲しいねん」 

カメレオンと呼ばれていた頃の俺は、誰かを生贄にすることで自分の地位を保っていた。
それで失敗したから、F組では全員が安全である道を選び続けた。だけど、それが仇になった。

あのとき佐山を糾弾していれば良かった。沙穂ちゃんのメールが、偽物だと気付いたあの時点で。そうすれば、今の状態は免れていたかもしれない。

――今からでも間に合うだろうか。

「なにを……?」

「佐山の話はいつも、デタラメやってこと」

那子は虚を突かれたような表情を見せた。

ポケットの中から自分のスマホを取り出す。
もしものためにと残しておいて良かった。
カメラロールには、佐山が送った偽装メールの証拠がある。

スマホの画面を見つめながら、那子は手のひらで口を覆った。

「これって」

「そう。あいつは遊びでこういうことをする奴や」

これで佐山への信頼は崩れ落ちるだろう。

俺の噂だって、その信憑性は格段に低くなるはずだ。あとは、その空気を上手いように操ってしまえばいい。俺の得意分野じゃないか。

黙りこくる那子を見ながら、俺はひそかにほくそ笑んだ。

「悪い、那子。俺、ちょっと気分が悪くて。冷水機の方に寄りたいから、先に教室帰っててくれへん?」

「え、大丈夫? うちも一緒に行く」

「ええって。とっくに5時間目始まってるやろ? 今まで付き合ってくれてありがとうな。おってくれて助かった」

そう言って、微笑む。立ち上がって、トイレの戸を開けた。

「あ」

小さく声を上げた。目の前に、蓮が立っていた。

「……立ち聞き? 趣味の悪い奴だな」

苦笑する俺を、蓮の冷たい瞳が見つめる。

「また戻るのか?」

「……なにそれ。どこに?」

へらっと笑いながら歩き続ける俺に、蓮はついて来る。

「あの頃の、お前にだよ」

「戻るって何だよ。此処に来てからもずっと、俺はカメレオンのままだったさ。お前がずっと憎んでた相手だよ。邪魔してみる?」

「それが、俺の復讐になるって言いたいのか?」

「違うの?」

振り向く俺を出迎えたのは、沈黙だった。
蓮の表情が、悲しそうに曇って見えるのは気のせいだろうか。

いつだってこいつの考えていることは、いまいち掴めない。

蓮と俺の想像していたカレンの人物像にはかなりズレがある。
どちらかというと、カレンの言動は凛歌のそれに近い。恐らく彼女も協力者だろう。

だからこそ、こいつ自身の意思がどこに向かっているのかわかりづらい。

冷水機のペダルを踏む。噴出される水を思いっきり口に含んだ。喉が自然と動く。自分で思っていたよりも水分を欲していたらしい。

しばらくすると、5時間目終了のチャイムが鳴り響いた。

「今ので今日の授業終わり?」

「ああ、うん。今日は5時間目までだから」

裾で口元を拭い、再び蓮と向き直る。

「ま、鞄教室だから一旦戻るけど」

「ふうん。じゃあ俺も」

「は?」

「俺も教室行く」

「だから何でだよ。マジに不審者で捕まるぞお前」

行くところ行くところついて来やがって。大げさにため息をついて、上靴に履き替える。
蓮は外靴を脱いで、靴下のまま廊下を歩いた。

こんな、あからさまな部外者を連れて校舎内をうろつきたくない。

帰ろうとしている下級生たちが好奇の視線を向けてくる。




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