悪役令嬢の長所はスタイルだけってあんまりですのよ!

神楽坂ゆい

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「殿下、ここから先は行かれないのですか」

 

 講習会の様子を少し遠目に眺めながら、ジルベールは口をつぐんだまま動こうとしない。クリストファーはその態度に少し苦笑を浮かべている。

「……今さら、どんな顔で話しかければいいかわからない。彼女、あんなに頑張っていて、俺は傍観者のままだった」

 

 ジルベールの声には後悔がにじむ。レナータがどれだけ悪い噂に傷ついていたのか、どれほど努力していたのか、彼は気づくのが遅すぎた。

「でも、あなたはまだ動けます。婚約者として支える権利も義務もある。それなのに躊躇しているのは、どうしてです」

 

 クリストファーの問いかけに、ジルベールは視線を落とす。自分がレナータを避けていた理由。それは王太子としての責任を強く意識しすぎたからだろうか。

「ひょっとして、あなたは彼女への感情が単なる義務以上のものだから、迷っているのでは?」

 

 突き刺すようなクリストファーの言葉に、ジルベールはドキリとする。気づけば、レナータが他の男性と談笑している光景だけで胸が締め付けられる。この気持ちは何なのか。

「……それは、俺にもまだ整理がつかない」

 

 ジルベールは苦々しげに唇を噛む。王太子である以上、家柄や政治的立場を優先すべきという思考が、自分の心を縛り付けているのかもしれない。

「あなたがどう決断するかは、あなた自身の問題です。ただ、このまま何もせずにいれば、レナータ様は遠くへ行ってしまうかもしれませんよ」

 

 クリストファーの言葉に、ジルベールは小さく息をのむ。遠くへ行ってしまう――まるで婚約破棄や破滅の未来を暗示するかのように響く。

「俺は、そうはさせたくない。……確かに、あいつの存在が俺にとって特別だとしたら」

 

 そう口にすると、胸がわずかに痛む。だが、その痛みがどこか心地よくさえ感じられた。

「なら、行動を起こすしかありません。彼女が願うのは、ただ正当な評価と、真実を知ってもらうこと。あなたならそれを叶えられるはずです」

 

 ジルベールは深く息をつき、意を決したようにうなずく。自身の立場を守るだけではなく、レナータを想う気持ちを優先したい。それが何より大切なのだと、ようやく気づき始めていた。

「ありがとう、クリストファー。俺は……レナータのために、そして自分のために、やれることをやってみる」

 

 その表情には、少し前までの迷いが消えかかっている。ジルベールの胸の内に芽生えた決意が、やがて“悪役令嬢”と呼ばれた少女の運命を大きく変える鍵となるのだろう。  
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