36 / 40
36
しおりを挟む
「王太子殿下、彼女の言葉をもう少し詳しく聞かせてはいただけませんか」
高齢の公爵家当主が静かに手を上げ、口を開いた。それをきっかけに、会場の空気はやや落ち着きを取り戻し始める。
「……レナータ・アロイスの普段の学園での行いや、講習会での態度など、実際に接した者から報告を受けたい。悪評を鵜呑みにするのではなく、真実を知るために」
すると、傍らに控えていたクリストファーやアメリアが進み出る。学園での様子を公平に伝える役目を買って出たのだ。
「私は学園にてレナータ様の講習会に何度か参加しましたが、そこに陰湿ないびりや悪意は一切見受けられませんでした。むしろ多くの生徒を助ける姿が印象的で……」
アメリアが、レナータの誠実さや周囲を思いやる言動を具体的に語ると、会場の人々は驚いたように耳を傾ける。クリストファーも客観的な視点で、レナータが盗難に関わっていないと考える理由を論理的に説明した。
「なるほど……。となると、今までの噂が過剰に誇張された可能性も高いな」
「伯爵令嬢が美容に熱心という話は聞いていたが、それが悪役行為だと思い込んでいた節があるかもしれない」
高官たちがひそひそと話す。そのうち、先ほどの公爵家当主が再び口を開く。
「どうやら、私たちは噂や先入観に囚われていたようだ。王太子殿下がおっしゃる通り、レナータ嬢は正当に評価されるべきなのかもしれない」
その言葉に、レナータは安堵の息をついた。破滅フラグと呼ばれていた運命が少しずつ遠ざかるのを感じる。ジルベールも、横でホッとした様子だ。
「しかし、盗難事件はまだ解決していない。いずれ真犯人が明らかになるだろうが、少なくともレナータ嬢に疑いをかける根拠は消えたと考えてよい。……よって、婚約を破棄する理由は見当たらないと言えよう」
会議に出席していた大半の貴族が同調する形で、この場はまとまりを見せる。かつてレナータを悪く言っていた者たちも、大勢の前で言い返すことはできず、しぶしぶ黙り込んだ。
「レナータ・アロイスの婚約は、当面そのままとする。再検討は不要と考える」
王族関係者がそう結論づけ、会合は事実上の終了を迎える。破滅フラグの噂は、この時点で大きく崩れ去ったといっていい。
「やったわ……」
レナータは思わず胸に手を当て、振り返ってラウルや両親と目を交わす。彼らも口々に「良かったな」と喜びを噛みしめている。
「お疲れさま、レナータ。これでようやく、おまえが不当な扱いを受ける心配は少なくなる」
ジルベールが近づき、低い声でそう囁く。レナータは一瞬胸が詰まる思いだったが、笑みを浮かべて静かにうなずいた。
「ありがとう、殿下。あなたが大勢の前で私を信じると言ってくれたから、ここまで来られたの」
破滅の未来などではなく、今ここにあるのは幸福感と開放感だ。まだ完全に問題が消えたわけではないが、少なくとも“悪役令嬢”として葬られる運命だけは回避されたのだ。
「さあ、伯爵家に戻って休むといい。今日はさぞ疲れただろう」
ジルベールが優しい眼差しで勧めると、レナータは微笑んで一礼する。こうしてついに、長らく彼女を苦しめてきた破滅フラグは霧散し、彼女の未来に明るい光が差し込み始めた。
高齢の公爵家当主が静かに手を上げ、口を開いた。それをきっかけに、会場の空気はやや落ち着きを取り戻し始める。
「……レナータ・アロイスの普段の学園での行いや、講習会での態度など、実際に接した者から報告を受けたい。悪評を鵜呑みにするのではなく、真実を知るために」
すると、傍らに控えていたクリストファーやアメリアが進み出る。学園での様子を公平に伝える役目を買って出たのだ。
「私は学園にてレナータ様の講習会に何度か参加しましたが、そこに陰湿ないびりや悪意は一切見受けられませんでした。むしろ多くの生徒を助ける姿が印象的で……」
アメリアが、レナータの誠実さや周囲を思いやる言動を具体的に語ると、会場の人々は驚いたように耳を傾ける。クリストファーも客観的な視点で、レナータが盗難に関わっていないと考える理由を論理的に説明した。
「なるほど……。となると、今までの噂が過剰に誇張された可能性も高いな」
「伯爵令嬢が美容に熱心という話は聞いていたが、それが悪役行為だと思い込んでいた節があるかもしれない」
高官たちがひそひそと話す。そのうち、先ほどの公爵家当主が再び口を開く。
「どうやら、私たちは噂や先入観に囚われていたようだ。王太子殿下がおっしゃる通り、レナータ嬢は正当に評価されるべきなのかもしれない」
その言葉に、レナータは安堵の息をついた。破滅フラグと呼ばれていた運命が少しずつ遠ざかるのを感じる。ジルベールも、横でホッとした様子だ。
「しかし、盗難事件はまだ解決していない。いずれ真犯人が明らかになるだろうが、少なくともレナータ嬢に疑いをかける根拠は消えたと考えてよい。……よって、婚約を破棄する理由は見当たらないと言えよう」
会議に出席していた大半の貴族が同調する形で、この場はまとまりを見せる。かつてレナータを悪く言っていた者たちも、大勢の前で言い返すことはできず、しぶしぶ黙り込んだ。
「レナータ・アロイスの婚約は、当面そのままとする。再検討は不要と考える」
王族関係者がそう結論づけ、会合は事実上の終了を迎える。破滅フラグの噂は、この時点で大きく崩れ去ったといっていい。
「やったわ……」
レナータは思わず胸に手を当て、振り返ってラウルや両親と目を交わす。彼らも口々に「良かったな」と喜びを噛みしめている。
「お疲れさま、レナータ。これでようやく、おまえが不当な扱いを受ける心配は少なくなる」
ジルベールが近づき、低い声でそう囁く。レナータは一瞬胸が詰まる思いだったが、笑みを浮かべて静かにうなずいた。
「ありがとう、殿下。あなたが大勢の前で私を信じると言ってくれたから、ここまで来られたの」
破滅の未来などではなく、今ここにあるのは幸福感と開放感だ。まだ完全に問題が消えたわけではないが、少なくとも“悪役令嬢”として葬られる運命だけは回避されたのだ。
「さあ、伯爵家に戻って休むといい。今日はさぞ疲れただろう」
ジルベールが優しい眼差しで勧めると、レナータは微笑んで一礼する。こうしてついに、長らく彼女を苦しめてきた破滅フラグは霧散し、彼女の未来に明るい光が差し込み始めた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転生してチートを貰ったけど、家族にハメられて敵国の捕虜になったら敵国の王子に求婚されました。
naturalsoft
恋愛
私は念願の異世界転生でチートをもらって旅立った。チートの内容は、家事、芸術、武芸などほぼ全ての能力がそつなくプロレベルに、こなせる万能能力だった。
しかし、何でも1人でやってしまうため、家族に疎まれて殺されそうになりました。そして敵国の捕虜になったところで、向こうの様子がおかしくて・・・?
これは1人で何でもこなしていた弊害で国が滅ぶ寸前までいったお話です。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。
そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。
そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。
彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。
ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。
それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる