悪役令嬢の長所はスタイルだけってあんまりですのよ!

神楽坂ゆい

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「王太子殿下、彼女の言葉をもう少し詳しく聞かせてはいただけませんか」

 

 高齢の公爵家当主が静かに手を上げ、口を開いた。それをきっかけに、会場の空気はやや落ち着きを取り戻し始める。

「……レナータ・アロイスの普段の学園での行いや、講習会での態度など、実際に接した者から報告を受けたい。悪評を鵜呑みにするのではなく、真実を知るために」

 

 すると、傍らに控えていたクリストファーやアメリアが進み出る。学園での様子を公平に伝える役目を買って出たのだ。

「私は学園にてレナータ様の講習会に何度か参加しましたが、そこに陰湿ないびりや悪意は一切見受けられませんでした。むしろ多くの生徒を助ける姿が印象的で……」

 

 アメリアが、レナータの誠実さや周囲を思いやる言動を具体的に語ると、会場の人々は驚いたように耳を傾ける。クリストファーも客観的な視点で、レナータが盗難に関わっていないと考える理由を論理的に説明した。

「なるほど……。となると、今までの噂が過剰に誇張された可能性も高いな」

「伯爵令嬢が美容に熱心という話は聞いていたが、それが悪役行為だと思い込んでいた節があるかもしれない」

 

 高官たちがひそひそと話す。そのうち、先ほどの公爵家当主が再び口を開く。

「どうやら、私たちは噂や先入観に囚われていたようだ。王太子殿下がおっしゃる通り、レナータ嬢は正当に評価されるべきなのかもしれない」

 

 その言葉に、レナータは安堵の息をついた。破滅フラグと呼ばれていた運命が少しずつ遠ざかるのを感じる。ジルベールも、横でホッとした様子だ。

「しかし、盗難事件はまだ解決していない。いずれ真犯人が明らかになるだろうが、少なくともレナータ嬢に疑いをかける根拠は消えたと考えてよい。……よって、婚約を破棄する理由は見当たらないと言えよう」

 

 会議に出席していた大半の貴族が同調する形で、この場はまとまりを見せる。かつてレナータを悪く言っていた者たちも、大勢の前で言い返すことはできず、しぶしぶ黙り込んだ。

「レナータ・アロイスの婚約は、当面そのままとする。再検討は不要と考える」

 

 王族関係者がそう結論づけ、会合は事実上の終了を迎える。破滅フラグの噂は、この時点で大きく崩れ去ったといっていい。

「やったわ……」

 

 レナータは思わず胸に手を当て、振り返ってラウルや両親と目を交わす。彼らも口々に「良かったな」と喜びを噛みしめている。

「お疲れさま、レナータ。これでようやく、おまえが不当な扱いを受ける心配は少なくなる」

 

 ジルベールが近づき、低い声でそう囁く。レナータは一瞬胸が詰まる思いだったが、笑みを浮かべて静かにうなずいた。

「ありがとう、殿下。あなたが大勢の前で私を信じると言ってくれたから、ここまで来られたの」

 

 破滅の未来などではなく、今ここにあるのは幸福感と開放感だ。まだ完全に問題が消えたわけではないが、少なくとも“悪役令嬢”として葬られる運命だけは回避されたのだ。

「さあ、伯爵家に戻って休むといい。今日はさぞ疲れただろう」

 

 ジルベールが優しい眼差しで勧めると、レナータは微笑んで一礼する。こうしてついに、長らく彼女を苦しめてきた破滅フラグは霧散し、彼女の未来に明るい光が差し込み始めた。
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