悪役令嬢の長所はスタイルだけってあんまりですのよ!

神楽坂ゆい

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「王太子殿下がレナータ様を外へお連れになるって、本当ですか」

 

 マリアナが興奮気味に尋ねる。レナータは少し恥ずかしそうに頷いてみせる。どうやらジルベールが週末に馬車を手配して、郊外の離宮へ連れて行く計画を立てているらしい。

「私も詳しいことは聞いていないんだけど、どうやら二人でゆっくり話せる場所がいいんですって」

 

 それはまさにデートのような響きがあるが、レナータはあまり浮かれすぎないように自分を戒める。王太子としての義務感で動いている可能性もあるし、何を話すつもりなのか確信が持てないのだ。

「お嬢様が最近さらに輝いていらっしゃるので、殿下も惹かれずにいられないのでしょうね」

 

 マリアナは嬉しそうに微笑む。レナータは気恥ずかしさを振り払うように、「着替えの用意を頼むわ」と手配を進める。

 そして迎えた週末、離宮へ向かう馬車の中で、レナータは緊張に包まれていた。目の前にはジルベールが座っており、外の景色を眺めながら時折、彼女に笑顔を向ける。

「こうして二人きりで出かけるのは初めてだな。……なんだか新鮮だ」

 

「そうですね。殿下が私に直接話しかけるなんて、学園ではほとんどなかったことですし」

 

 レナータは苦笑交じりに答える。以前の二人は、婚約者とは名ばかりで距離を置くばかりだった。今になって初めて、お互いを知ろうとしているのだ。

「悪かった。俺はおまえのことを、きちんと見ようとしなかった。でも今は……こうして話がしたいと思っている」

 

 ジルベールの瞳は真剣だった。レナータはその視線に戸惑いを覚えながらも、なぜか心地よい温かさを感じる。

 やがて馬車が離宮に到着し、広々とした庭園へ降り立つ。静寂の中、花々が咲き誇り、小鳥のさえずりが聞こえる優雅な空間だ。

「ここは王族の静養用の離宮だ。訪れる者は限られているから、周囲を気にせず話せる」

 

 ジルベールはレナータを案内しながら、ゆっくりと敷地内を歩く。森の小径を進むと、湖が見える絶景スポットに行き着いた。

「綺麗……。こんな場所があったなんて知らなかったわ」

 

 レナータは感嘆の声を上げる。湖の水面に陽光が反射し、万華鏡のような輝きを放っている。ジルベールは立ち止まり、深呼吸をしてから口を開いた。

「レナータ。おまえと、これから先も一緒に歩んでいきたい。婚約者としてだけじゃなく、一人の男性として……おまえを支えたいと思っている」

 

 その言葉に、レナータの胸は高鳴る。彼が自分の意思で語っているのが伝わってきて、思わず目が潤む。

「殿下……。私、あなたが嫌いだったわけじゃないけれど、正直、どう思われているかがわからなかったの。私を避けているように見えて」

 

 ジルベールは眉をひそめて、小さくかぶりを振る。

「避けていたのは、王太子としての立場や責任から、おまえを巻き込むのが怖かったからだ。自分の弱さを認めたくなかった。でも今は、おまえを信じて共に歩む覚悟がある」

 

 言葉を紡ぐたび、レナータの心は柔らかくほどけていく。そしてジルベールは彼女の手をそっと握ると、低い声で囁いた。

「結婚を前提に、改めておまえに求婚したい。……どうか、俺の隣に立ってほしい」

 

 それはまさしく、王太子からのプロポーズだった。レナータは目を見開き、思わず息を止める。破滅フラグが消え、“悪役令嬢”のレッテルが外れた今、彼女に与えられた新たな選択肢だ。

「私……。いいのかしら。こんな私で」

 

 レナータの声は震えている。ジルベールは力強くうなずく。

「俺は、おまえだからいい。誰でもなく、レナータ・アロイスがいい」

 

 答えは決まっていた。涙がこぼれそうになるのをこらえながら、レナータは小さく頷く。噂に翻弄された日々を乗り越え、本当の想いを確かめ合えた二人。静かな湖畔で交わされる誓いは、これからの未来を大きく塗り替えていくはずだ。
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