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「……セシリア・ガーネット。あなたは、ただの噂通りの方ではないのでしょう?」
昼休み、人気の少ない中庭に向かったセシリアの背後から、涼やかな声がかかった。
振り返ると、そこには第三王子アレクシス・アラバスターの姿がある。
銀髪が柔らかく揺れ、優しげな緑の瞳がセシリアをまっすぐ捉えていた。
「……面白いことを仰るのですね。私のどこを見て、そう思われたのかしら?」
セシリアは冷たい表情を崩さずに返す。
しかしアレクシスは動じない。
むしろ穏やかに微笑み、その笑みがセシリアの心をかすかに揺らす。
「昨日の舞踏会でのあなたの振る舞い、どうにも不自然に見えました。まるで“そう演じている”かのように」
「演じている……? さぁ、何のことかしら」
そう答えながらも、セシリアの胸に冷や汗がにじむ。
彼女の“本当の姿”を感じ取る人物など、今までいなかったはずだ。
「あなたを責める気はありません。誰も知らない本心を、僕は少し知りたくなっただけです」
アレクシスの言葉は優しく、けれど掴みどころがない。
セシリアは視線をそらし、近くの薔薇に手を伸ばそうとするが、棘に触れてしまいかけて思わず手を引っ込める。
「……お優しいのですね、第三王子殿下は。私みたいな悪役令嬢にもご慈悲をくださると」
「“悪役令嬢”という言葉に、あなた自身が囚われているように見えます。王太子であるライナス兄上との婚約を破棄されたからといって、そんな言葉を自ら名乗る必要などないでしょう」
「誰かがやらねばならない役回りがあるものです」
セシリアの瞳が一瞬だけ哀しげに曇る。
けれど、それはほんの一瞬。
すぐに冷たく張り詰めた面差しに戻る。
「……それ以上、踏み込まないでいただけるかしら。私には、やるべきことがあるの」
アレクシスの瞳が痛々しいほど真っ直ぐで、セシリアはこれ以上見つめられるのに耐えられない。
彼女は軽く頭を下げ、踵を返す。
「待ってください、セシリア――」
伸ばされたアレクシスの手を、セシリアはやんわりと振り払う。
まるでこれ以上近づいてはならないかのように。
「何もないのです、殿下。私は生まれながらに傲慢で、王太子殿下に見限られるだけの存在。それで充分でしょう?」
投げ捨てるように言い捨てて、セシリアはその場を去ろうとする。
だが、アレクシスはなおも静かな声をかけた。
「本当に、そう思っているのですか?」
その問いかけは、セシリアの心を大きく揺さぶる。
だが、彼女の足は止まらない。
(私の弱さを見抜かないで……)
後ろを振り返れば、きっと何かが崩れてしまう。
冷たい顔を保ち続けることが、セシリアが選んだ道なのだから。
離れていく足音を聞きながら、アレクシスは寂しそうに目を伏せる。
けれど、彼は心の中で確信していた。
あの瞳には、悪役令嬢の冷酷さなど微塵も宿ってはいないと。
やがて中庭に一人残ったアレクシスは、あふれる想いを胸に呟く。
「……彼女は、なにを抱えているのだろう」
セシリアの背中は遠ざかっていく。
その姿を見つめるアレクシスの瞳には、まだ見ぬ真実への探究心が燃えていた。
昼休み、人気の少ない中庭に向かったセシリアの背後から、涼やかな声がかかった。
振り返ると、そこには第三王子アレクシス・アラバスターの姿がある。
銀髪が柔らかく揺れ、優しげな緑の瞳がセシリアをまっすぐ捉えていた。
「……面白いことを仰るのですね。私のどこを見て、そう思われたのかしら?」
セシリアは冷たい表情を崩さずに返す。
しかしアレクシスは動じない。
むしろ穏やかに微笑み、その笑みがセシリアの心をかすかに揺らす。
「昨日の舞踏会でのあなたの振る舞い、どうにも不自然に見えました。まるで“そう演じている”かのように」
「演じている……? さぁ、何のことかしら」
そう答えながらも、セシリアの胸に冷や汗がにじむ。
彼女の“本当の姿”を感じ取る人物など、今までいなかったはずだ。
「あなたを責める気はありません。誰も知らない本心を、僕は少し知りたくなっただけです」
アレクシスの言葉は優しく、けれど掴みどころがない。
セシリアは視線をそらし、近くの薔薇に手を伸ばそうとするが、棘に触れてしまいかけて思わず手を引っ込める。
「……お優しいのですね、第三王子殿下は。私みたいな悪役令嬢にもご慈悲をくださると」
「“悪役令嬢”という言葉に、あなた自身が囚われているように見えます。王太子であるライナス兄上との婚約を破棄されたからといって、そんな言葉を自ら名乗る必要などないでしょう」
「誰かがやらねばならない役回りがあるものです」
セシリアの瞳が一瞬だけ哀しげに曇る。
けれど、それはほんの一瞬。
すぐに冷たく張り詰めた面差しに戻る。
「……それ以上、踏み込まないでいただけるかしら。私には、やるべきことがあるの」
アレクシスの瞳が痛々しいほど真っ直ぐで、セシリアはこれ以上見つめられるのに耐えられない。
彼女は軽く頭を下げ、踵を返す。
「待ってください、セシリア――」
伸ばされたアレクシスの手を、セシリアはやんわりと振り払う。
まるでこれ以上近づいてはならないかのように。
「何もないのです、殿下。私は生まれながらに傲慢で、王太子殿下に見限られるだけの存在。それで充分でしょう?」
投げ捨てるように言い捨てて、セシリアはその場を去ろうとする。
だが、アレクシスはなおも静かな声をかけた。
「本当に、そう思っているのですか?」
その問いかけは、セシリアの心を大きく揺さぶる。
だが、彼女の足は止まらない。
(私の弱さを見抜かないで……)
後ろを振り返れば、きっと何かが崩れてしまう。
冷たい顔を保ち続けることが、セシリアが選んだ道なのだから。
離れていく足音を聞きながら、アレクシスは寂しそうに目を伏せる。
けれど、彼は心の中で確信していた。
あの瞳には、悪役令嬢の冷酷さなど微塵も宿ってはいないと。
やがて中庭に一人残ったアレクシスは、あふれる想いを胸に呟く。
「……彼女は、なにを抱えているのだろう」
セシリアの背中は遠ざかっていく。
その姿を見つめるアレクシスの瞳には、まだ見ぬ真実への探究心が燃えていた。
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