婚約破棄された悪役令嬢は、唯一無二の笑顔を知る

神楽坂ゆい

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「セシリア様、すみませんが校舎裏までお越しいただけませんか。マーガレット様がお呼びです」

 

ガーネット邸の“軟禁”状態から一時的に解放されたセシリアは、久々に学園へ足を運んだ。
それは父テオドールの決断によるものだったが、周囲の視線はなお冷ややかだ。
そんな中、取り巻きの令嬢の一人が不躾な口調で伝言を告げてくる。

 

(嫌な予感しかしないけれど……避けていても埒が明かないわ)

 

セシリアは渋々ながらも了承し、校舎裏へ向かう。
すると、そこにはマーガレットが待ち構えていた。

 

「まあ、ずいぶんと時間がかかったのね。噂の“悪役令嬢”セシリア・ガーネット様」

 

マーガレットの目は冷たく、口元には嘲笑が浮かんでいる。
取り巻き数人が囲むように立ち、まるで裁判にかけられる被告のような状況だ。

 

「用件は何ですか。私はあなたと遊んでいる暇はないの」

 

「そう急かさないで。あなた、最近はお母様の看病で学園に来られなかったそうね。……哀れだわ。そんな時に不正疑惑まで掛けられて」

 

セシリアはマーガレットを睨む。
確信犯的な物言いに、怒りがこみ上げるが、理性を保ち続ける。

 

「その不正疑惑、あなたが改ざんして広めたものですよね」

 

ついにセシリアが直接問い質すと、マーガレットは目を見開き、一瞬だけ動揺したように見えた。
しかしすぐに嘲るように笑って言葉を返す。

 

「まあ、そんな証拠でもあるのかしら。あなたのほうこそ、捏造などと根拠のないことを言っているのでは?」

 

「根拠ならあるわ。アレクシス殿下が手配して調べてくださった」

 

セシリアの言葉を聞いた周囲の令嬢たちがざわめく。
マーガレットの取り巻きも困惑気味に顔を見合わせた。

 

「アレクシス殿下……。まったく、あなたは王太子に捨てられただけでなく、第三王子まで巻き込む気なのね」

 

マーガレットは唇を歪めて吐き捨てるように言う。
だが内心の焦りは隠しきれず、声が少し震えていた。

 

「私を陥れることで、あなたは何を得たいの? 王太子殿下の寵愛? それとも公爵家を押さえつけてでも、権力を得たいの?」

 

「ふん、どちらでもいいわ。私が望むのは、あなたの存在が消えること。醜い悪評に溺れて沈んでしまえばいいのよ」

 

マーガレットは煽るように笑うが、セシリアは一歩も引かない。
むしろ、これまで内に溜め込んでいた感情が爆発しそうになるのを必死に抑えている。

 

「残念だけど、あなたの思惑は失敗するわ。アレクシス殿下が証拠を掴んだ以上、あなたの嘘はすべて暴かれる」

 

「証拠、証拠って……そんなもの、私の権力でいくらでも消せるの」

 

マーガレットが声を荒げた瞬間、廊下から複数の足音が聞こえてきた。
現れたのはアレクシス、オスカー、そして数名の騎士たち。
マーガレットは一瞬にして表情を凍らせる。

 

「こんにちは、バローズ嬢。先ほど“権力”などという言葉が聞こえましたが、国を支配する権力を持つのは王家です。あなたが持つのは単なる派閥の繋がりに過ぎません」

 

アレクシスの低く響く声に、マーガレットは明らかに動揺する。
手元に隠し持っていた書類を慌てて取り落としそうになり、取り巻きがそれを支える。

 

「そ、殿下……な、なぜここに」

 

「セシリアに用があって来たら、ちょうどいい場面に遭遇したようですね。あなたがセシリアを陥れようとしている話も、すでに調べがついています」

 

市場の書類改ざん、根拠のない噂の拡散。
アレクシスたちが握っている証拠の存在を示唆され、マーガレットは顔を青ざめる。

 

「……そ、そんなはずが……」

 

震えながら後ずさるマーガレット。
セシリアはその姿を見つめながら、複雑な感情が湧き上がる。
憎むべき相手ではあるが、ここまで必死に王太子に取り入ろうとしていた背景にはどんな事情があるのかと。

 

(それでも、私をここまで追い詰めた罪は重いわ)

 

そう考えながら、セシリアは強く瞳を引き締める。
ついにマーガレットの陰謀が表舞台にさらされようとしている。
次はライナスに真実を認めさせる番だ――そう決意しながら。
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