婚約破棄された悪役令嬢は、唯一無二の笑顔を知る

神楽坂ゆい

文字の大きさ
32 / 35

32

しおりを挟む
「セシリア……今さらだが、すまなかった」

 

王宮の一室に呼ばれたセシリアが通されると、そこには深い溜息をついたライナスが立っていた。
先日も謝罪の言葉をもらったが、今日はさらに正式な場を設けているらしい。

 

「ライナス殿下、もうお気になさらなくて構いません。私自身も、当時の態度には問題があったかもしれませんし」

 

セシリアが落ち着いた口調で返すと、ライナスはその顔をまっすぐ見つめる。
かつての傲慢な雰囲気は消え、どこか陰のある表情だ。

 

「確かに、おまえの言動に腹が立ったことはあった。だが、根底にはマーガレットらが流した悪意ある噂があった。それを確かめずにおまえを切り捨てたのは余の責任だ」

 

ライナスは一度言葉を切り、苦々しげに続ける。

 

「結果的に、余は王太子としての信用を落としてしまった。セシリア、おまえを傷つけた上に、周囲にも迷惑をかけた。こんな醜態をさらすとは、自分でも情けない」

 

そう言うと、ライナスは深く頭を下げた。
王太子が頭を下げるというのは、よほどの決意だとセシリアは思う。

 

「殿下……顔をお上げください。私も、ずっと殿下を誤解していた部分があるのかもしれません」

 

「おまえは悪くない。おまえは誰よりも家門を大切にしていただけだろう。悪役を買って出たのも、そのためだと聞いた」

 

ライナスの声が少し震える。
彼は、自分の誤断がセシリアを追い詰め、さらにマーガレットらを増長させた事実を重く受け止めているようだ。

 

「ならば、私からも一つお願いがあります。どうか、これから先はもっと周りの声に耳を傾けてください。先入観だけで人を裁くのではなく、真実を見極める努力を」

 

セシリアの柔らかな言葉に、ライナスは少しだけ目を見開き、そして小さく苦笑する。

 

「そうだな。おまえの言う通りだ。余は王太子として、もっと成長しなければならない。……本当にすまなかった。ありがとう」

 

ライナスはもう一度深く頭を下げ、そのまま背筋を伸ばした。
傍らの側近たちもホッとしたような表情を浮かべる。

 

「……セシリア、今後おまえがどのような道を歩むかは自由だ。ガーネット家も安泰になるだろうし、余としても協力を惜しまないつもりだ」

 

「ありがとうございます。殿下のお言葉、ありがたく頂戴いたします」

 

セシリアは微笑んで礼をし、その場を辞する。
部屋を出ると、まるで重荷から解放されたように息をつく。

 

(終わった……本当に)

 

胸の奥に広がる開放感。
これでようやく、悪役の仮面を完全に下ろせる。
そして、自分の人生を自分の意志で切り開いていける――。
そんな思いを抱きながら、セシリアは王宮の廊下を歩いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...