婚約破棄された悪役令嬢は、唯一無二の笑顔を知る

神楽坂ゆい

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「セシリア、よろしければ少し散歩に付き合ってください」

 

王宮の庭園で、アレクシスがセシリアを誘う。
日の光が柔らかに差し込む午後のひととき。二人は誰もいない緑の小道をゆっくりと歩き出す。

 

「こうしてのんびり歩くのは、初めてかもしれませんね」

 

セシリアが微笑むと、アレクシスもどこか照れくさそうに笑みを返す。
悪役令嬢の仮面を外したセシリアは、以前よりも柔らかい雰囲気を纏っていると彼は感じていた。

 

「最近は騒動も落ち着いて、学園でもあなたを慕う声が増えています。孤児院のことや慈善活動のことも、ようやく正しく評価されてきた」

 

「ええ。本当なら、こっそり支援していただけなのに、こんなに広まってしまうなんて……少し恥ずかしいくらいです」

 

セシリアが頬を染める姿に、アレクシスは心を奪われそうになる。
そして、意を決したように口を開いた。

 

「セシリア。あなたに伝えたいことがあるんです」

 

「はい。……私も、殿下に聞いてほしいことがあるんです」

 

二人は立ち止まり、見つめ合う。
セシリアの青い瞳が、アレクシスの緑の瞳をしっかりと捉えていた。

 

「あなたが苦しんでいた時、僕は無力でした。もっと早く手を差し伸べられていれば、あなたをあんなに辛い目に遭わせずに済んだかもしれない」

 

「そんなこと……私は殿下のおかげで救われました。あのまま誰にも頼れずにいたら、きっと私は壊れていたと思います」

 

セシリアの言葉に、アレクシスは表情を緩める。
そして、静かに彼女の手を取り、その手の温もりを感じながら続ける。

 

「僕はあなたを助けたい、守りたいと思った。それは単なる義務感ではなく、個人的な想いでした。……あなたの笑顔を守りたい、あなたと未来を歩みたいと」

 

セシリアの胸が高鳴る。
アレクシスはまっすぐに言葉を紡いでいる。
その瞳には一点の曇りもなく、ただ純粋な愛情が宿っていた。

 

「私も……あなたを信じてよかった。あなたがいなければ、きっと私は悪役令嬢として人生を終えていたかもしれない。そう思うと、感謝してもしきれません」

 

「感謝だけではなく、あなたの気持ちを聞かせてください。あなたは、僕のそばにいてくれますか?」

 

アレクシスの問いかけに、セシリアは小さく息を詰まらせる。
だが、もう仮面はない。素直な自分の想いを告げるべきだと決意した。

 

「はい。私……あなたと共に歩んでいきたいです。殿下としてではなく、一人の男性としてあなたを――」

 

セシリアの言葉が終わる前に、アレクシスは彼女の手をもう一度しっかりと握りしめる。
想いは伝わった。
言葉にならなくても、二人の目には確かな愛が映し出されていた。

 

その瞬間、春の風が庭園を通り抜け、草木を揺らす。
まるで二人の新たな門出を祝福するかのように、淡い花びらが舞い落ちてきた。

 

「ありがとうございます、セシリア。あなたとの未来を築くためにも、僕はさらに努力します」

 

「私もです。あなたの力になりたい……もう、独りで頑張りすぎたりはしません」

 

二人は手を繋いだまま、再び歩みを進める。
やわらかな日差しの中で、セシリアの笑顔が優しく輝いていた。
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