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十三
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「リンゼイ、お前はどう考えている」
シリウスから話しを聞いた国王がリンゼイに問いかけた。王妃や宰相も視線をリンゼイに向けている。
リンゼイは目を閉じて息を吐くと、国王を真っ直ぐに見て
「私は、婚約を白紙に戻したいと考えています」
落ち着いた声で話し始めたリンゼイの言葉を遮る事なく、国王達は黙って聞いている。
「妃教育が進んでいないだけならば、少し延期をする事も仕方はないと思っていましたが、このような事実が出てきたとあれば、このまま婚約を続ける事は出来ないと思っています」
「それで、いいのか?」
リンゼイは、自分がマリアンヌを気にいっていると国王が思っているのかと疑問に感じた。
「父上は、私がマリアンヌを望んでいるのだとお考えでしたか?」
「いや、まあ関係は悪くなかったと思っていたが。·····違うのか?」
「私は、この国の王妃に相応しい者であれば、拒否する事はありません。マリアンヌも、父上と母上が相応しいと思って決めたのであれば、良い関係が築ければと思ってきました。別に清廉潔白な純粋さを求めるわけではありませんし、多少の不出来に目を瞑る事もします。ですが、両親の行動の影響であったとしても、結局は自ら進んで人を虐げるような者との婚姻は遠慮したいと思います。私との婚姻は、いずれ王妃となり国母となっていく事になります。他者を虐げる事に疑問も抱かないような者に務まるとは思えませんので。父上と母上は、このような報告を見てもマリアンヌが相応しいと、今でも思っていらっしゃるのですか?」
はっきりと正論を述べて疑問を突きつけたリンゼイに、国王夫妻は目を瞠り二人で顔を見合わせる。
リンゼイは自分の行動はそんなにもマリアンヌを想っているように見えていたかと不思議に思った。
確かにマリアンヌが会いに来れば拒絶する事もなかったし、誕生日にはプレゼントも送っていた。お茶会などにも揃って参加していたが、それは婚約者としては最低限の事でしかない。
両親の目にはどのように映っていたのか疑問でしかない。
「わたくしは時折マリアンヌとお茶をしているでしょう?」
と王妃が話し始めた。リンゼイは頷くと黙って耳を傾ける。
「いつもマリアンヌが嬉しそうに貴方の話しをしているのよ。出来るだけ毎日会いに来て欲しいとリンゼイ様が仰ってくださったので、会いにいっております。と嬉しそうに言われれば、妃教育の時間に中断して貴方の所に行っていることも咎められないでしょう?毎日会いに行っているのを貴方がとても喜んでいる、と聞いていたから、マリアンヌの教育が少し遅れてでもと貴方が望んでいるのであれば、と陛下と話していたのよ」
「私が、毎日会いに来て欲しいと言ったと?マリアンヌに?」
「ええ」
「··········」
「·····リンゼイ?」
黙り込んでしまったリンゼイに王妃が声を掛ける。
「違う、みたいね·····」
先程の話しからして、そして黙り込んでしまった息子に、話し始めた時から恐らく違うのだろうとは察していた王妃が溜め息を零した。
「ええ、私はそんな事は一言も言っていませんよ。毎日のようにマリアンヌが来ていた時は順調に教育が進んでいるのだと思っておりました。優秀だとの触れ込みでしたから、早くに終わって時間が空いているのだと。ですから母上から教育が遅れていると聞いた時には疑問に思っていたのです」
部屋に沈黙の時間が流れる。
「リンゼイと、マリアンヌ嬢との婚約は、解消という事にしよう。虚偽があったのであれば、継続は不可能であろう」
国王が重い口を開いた。
宰相も頷いて首肯した。
「リンゼイとマリアンヌ嬢の婚約解消については異議は全くないが、スカーレット侯爵家に関しては少し待って貰いたい」
シリウスはリンゼイとマリアンヌの事には口を挟むつもりはないが、スカーレット侯爵家についてはセレリアの事があるので口を開いた。
「スカーレット侯爵家にも処罰は免れないかと思いますが」
宰相も怪訝な表情を浮かべて口を開く。
今回の婚約解消に関してはマリアンヌの資質への疑惑だけではなく、スカーレット侯爵家への疑惑が取りだたされるのは間違いないからである。
「分かっている。だが、スカーレット侯爵家に関してはセレリアの事がある。あの子の立場は今微妙なところにある。先ずは、あの子の立場をしっかり固めてやりたい」
生まれた時から存在を否定されてきたが、セレリア自身に問題があったわけではない。セレリアが何かをしたわけではないのだ。
今侯爵家が処罰されれば、何の非もなかったセレリアにも疑惑が掛けられ厳しい目を向けられる事になるかもしれない。
シリウスは、先ずセレリアに非がない事を証明してからセレリアの立場をしっかりと示してやりたいと考えている。
その為には暫く時間が欲しいのだ。
「分かった。リンゼイとマリアンヌ嬢の婚約解消は告げるが、それ以外は今暫くは黙っていよう」
国王は決断すると、宰相もそれに従うと納得した。
リンゼイはもとより反対するつもりもなく、王妃も頷くと、それを決定事項として頷きあった。
シリウスから話しを聞いた国王がリンゼイに問いかけた。王妃や宰相も視線をリンゼイに向けている。
リンゼイは目を閉じて息を吐くと、国王を真っ直ぐに見て
「私は、婚約を白紙に戻したいと考えています」
落ち着いた声で話し始めたリンゼイの言葉を遮る事なく、国王達は黙って聞いている。
「妃教育が進んでいないだけならば、少し延期をする事も仕方はないと思っていましたが、このような事実が出てきたとあれば、このまま婚約を続ける事は出来ないと思っています」
「それで、いいのか?」
リンゼイは、自分がマリアンヌを気にいっていると国王が思っているのかと疑問に感じた。
「父上は、私がマリアンヌを望んでいるのだとお考えでしたか?」
「いや、まあ関係は悪くなかったと思っていたが。·····違うのか?」
「私は、この国の王妃に相応しい者であれば、拒否する事はありません。マリアンヌも、父上と母上が相応しいと思って決めたのであれば、良い関係が築ければと思ってきました。別に清廉潔白な純粋さを求めるわけではありませんし、多少の不出来に目を瞑る事もします。ですが、両親の行動の影響であったとしても、結局は自ら進んで人を虐げるような者との婚姻は遠慮したいと思います。私との婚姻は、いずれ王妃となり国母となっていく事になります。他者を虐げる事に疑問も抱かないような者に務まるとは思えませんので。父上と母上は、このような報告を見てもマリアンヌが相応しいと、今でも思っていらっしゃるのですか?」
はっきりと正論を述べて疑問を突きつけたリンゼイに、国王夫妻は目を瞠り二人で顔を見合わせる。
リンゼイは自分の行動はそんなにもマリアンヌを想っているように見えていたかと不思議に思った。
確かにマリアンヌが会いに来れば拒絶する事もなかったし、誕生日にはプレゼントも送っていた。お茶会などにも揃って参加していたが、それは婚約者としては最低限の事でしかない。
両親の目にはどのように映っていたのか疑問でしかない。
「わたくしは時折マリアンヌとお茶をしているでしょう?」
と王妃が話し始めた。リンゼイは頷くと黙って耳を傾ける。
「いつもマリアンヌが嬉しそうに貴方の話しをしているのよ。出来るだけ毎日会いに来て欲しいとリンゼイ様が仰ってくださったので、会いにいっております。と嬉しそうに言われれば、妃教育の時間に中断して貴方の所に行っていることも咎められないでしょう?毎日会いに行っているのを貴方がとても喜んでいる、と聞いていたから、マリアンヌの教育が少し遅れてでもと貴方が望んでいるのであれば、と陛下と話していたのよ」
「私が、毎日会いに来て欲しいと言ったと?マリアンヌに?」
「ええ」
「··········」
「·····リンゼイ?」
黙り込んでしまったリンゼイに王妃が声を掛ける。
「違う、みたいね·····」
先程の話しからして、そして黙り込んでしまった息子に、話し始めた時から恐らく違うのだろうとは察していた王妃が溜め息を零した。
「ええ、私はそんな事は一言も言っていませんよ。毎日のようにマリアンヌが来ていた時は順調に教育が進んでいるのだと思っておりました。優秀だとの触れ込みでしたから、早くに終わって時間が空いているのだと。ですから母上から教育が遅れていると聞いた時には疑問に思っていたのです」
部屋に沈黙の時間が流れる。
「リンゼイと、マリアンヌ嬢との婚約は、解消という事にしよう。虚偽があったのであれば、継続は不可能であろう」
国王が重い口を開いた。
宰相も頷いて首肯した。
「リンゼイとマリアンヌ嬢の婚約解消については異議は全くないが、スカーレット侯爵家に関しては少し待って貰いたい」
シリウスはリンゼイとマリアンヌの事には口を挟むつもりはないが、スカーレット侯爵家についてはセレリアの事があるので口を開いた。
「スカーレット侯爵家にも処罰は免れないかと思いますが」
宰相も怪訝な表情を浮かべて口を開く。
今回の婚約解消に関してはマリアンヌの資質への疑惑だけではなく、スカーレット侯爵家への疑惑が取りだたされるのは間違いないからである。
「分かっている。だが、スカーレット侯爵家に関してはセレリアの事がある。あの子の立場は今微妙なところにある。先ずは、あの子の立場をしっかり固めてやりたい」
生まれた時から存在を否定されてきたが、セレリア自身に問題があったわけではない。セレリアが何かをしたわけではないのだ。
今侯爵家が処罰されれば、何の非もなかったセレリアにも疑惑が掛けられ厳しい目を向けられる事になるかもしれない。
シリウスは、先ずセレリアに非がない事を証明してからセレリアの立場をしっかりと示してやりたいと考えている。
その為には暫く時間が欲しいのだ。
「分かった。リンゼイとマリアンヌ嬢の婚約解消は告げるが、それ以外は今暫くは黙っていよう」
国王は決断すると、宰相もそれに従うと納得した。
リンゼイはもとより反対するつもりもなく、王妃も頷くと、それを決定事項として頷きあった。
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