ショートショート集

島根砂丘

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憎しみ

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 ある国と、彼の国で戦争が起こった。負けた国は、勝った国の下に置かれ、官僚が数えるのが嫌になる程、互いの村や町が焼かれてしまった。ある一つの村に、一人の坊主が骸の片づけに来ていた。
 
 陽が眩しく、夕餉前なのにも関わらず、カラスの鳴き声が聴こえ、ここの日常が変わってしまった事を告げている。ここらは、風が弱い土地だから、かなり経ってるはずなのに、よくない臭いがずっと残っている。燃え尽きた家の隣にある、1本の柳の木がまるで、ここは黄泉の国だと主張しているようだった。悲しく大変な事が起きてしまった。そう坊主は思った。
 
 道を歩んでいると、一人の男がいた。倒れた木に座り、薄い鼠色の服を着て、腕には刀。殺気立っていた。坊主に気づくと、
「お前は切らない。もうここに死体はない。帰れ。」そう言った。坊主はこの者が苦しんでると察した。彼の横に座り問いかけた。
「一体何があったのだ?」
 
 男は、口を閉じ、話さない素振りを見せていたが、二刻三刻過ぎても、諦めない坊主に負けて、話し始めた。
 
 戦が起こり、戦いに出ていった子供達は皆死んだ。知らせを聞いてすぐ、村に奴らが来た。妻は取られ、私は、命からがら野山に逃げ出した。村の連中は死んだり、人買いに取られたりしたよ。卑怯者一人、骸の山の中生き残った。野草を食べ、草についた朝露を布につけ、それを啜り、恐怖でおかしくなりそうになりながら、生きながらえた。
 幾日か経って、恐怖心が引いた頃。家に戻るとそこには何もなく、ただ、灰が積み重なっていた。人を埋めるための坊主が幾人、また、彼の国の兵士が一人いた。話し合っていた。私は、衝動的に、彼の元へ駆け寄り、思い切り頭を殴ってやった。彼は驚きながら、刀を引こうとした。だが、私は、その腕に噛みつき、させなかった。そうして、彼の顔を殴り続けた。我に帰り、彼の顔を見ると、死んでいた。坊主は、みんな逃げて、ただ、一つの死体があって、風が吹いていた。
 それから、何度か彼の国の兵士が来た。奴ら勝ち戦を続けてるから、馬鹿みたいに、弱かったさ。命ごいした奴もいたけど、みんな切っちまった。多分また来るだろう。また切ってやるさ。 男はこの様な事を言った。
 
 風がただ吹き、啄むものを探しに来たカラスの声が響いた。日の落ちる色で辺りが染まり、柳のこうべを垂れる姿が、みっともなく見えた。少なくとも、男はそう感じた。
   
 坊主は、ひとしきり話を聞いて、頷き、こう説いた。
「憎しみは、何も生み出さない。貴方をただ苦しめ続けるだけ。そんなものは、今すぐ捨てなさい」優しい顔をしてそう言った。
 
 あぁ、憎しみが何も生まないのならば、憎しみしかない私は一体何者なのだ。憎しみさえ、私から取っていくのなら。
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