教師と生徒とアイツと俺と

本宮瑚子

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17. 理由なき理由-3

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    ──っん、痛ってぇ。

 腕には心地良い痺れと、少しだけ動かした頭には、強烈な痛みが押し寄せてきた。

 なんだよ、この痛みは。

 襲い来る激痛に俺の頭は悲鳴をあげる。まるで脳みそが揺れているようだ。
 激しい痛みと覚醒しきれない頭に逆らうように目を開けると、「寝顔は可愛いな」と、こんな状態でも思ってしまう自分に笑みが零れる。

 ………ん?……って、待てよ。可愛い? 落ち着け、俺。誰が可愛いんだ?

 今の状況を把握するのに数秒の時間を要した。

「うおーーっ!」

 な、何でだ? 俺は何をした?

 上半身を慌てて起こし、理解し難いこの状況と自分の大きな声で、更なる痛みを与えてしまった頭を両手で抱え込み蹲まる。

 ……ない。ないないない。

 頭の中の何処を突つついても、記憶と言う記憶が何処にもないッ! 何処に行った? 俺の記憶!

「おはよ、敬介」

 同じベッドで寝ていた奈央が……、数分前までこの腕で抱き包んでいた奈央が……、寝起きなのにも関わらず、大きな目をパチリと開ける。

「っ!……お、おはよ」

 つまりながらの挨拶が精一杯の俺は、激痛に耐えながら使い物にならない頭を必死で働かせていた。
 上半身裸の俺。奈央はバスローブ姿のままだ。少し肌蹴ているその胸元から視線を外して暫し考える。
 辛うじて、俺の下半身は薄い布で守られているが、それでも、「もしかして?」と、恐ろしい疑惑が俺の頭を占領する。

 まさか、教え子に手なんか……。

 いやいやいや、記憶がないほどなんだ。相当なアルコールを体内吸収していたはず。それほどまでに飲めば、いくらこの状態とは言え、おい、お前、無理だったよな? と、答えるはずのない下半身に問い掛けたくなる。

「敬介、覚えてないの?」
「……っ!」

 上体を起こした奈央は俯き、表情はサラサラの髪の毛で覆われ隠されてしまった。

 バカ息子、本当に何もしなかったか? 頼む、答えてくれっ!

 動揺を隠せないでいる俺の隣では、俯いてしまった奈央の肩が小刻みに震えている。

「ゴメン、奈央……俺……」

 覚えてないと言ったら、奈央を傷つけるだろうか?

 多分……何かしたんだよな?

 泣いてる様子の奈央に、俺の胸は鷲掴みされたように激しく痛んだ。

「奈央悪かった。いくら飲みすぎたとは言え、最低だよな。本当にごめん」

 表情を覆い隠している奈央の髪にそっと手を伸ばし、恐る恐る掻き上げる。

「…………あっ、おまっ!」

 掻き上げた髪の隙間から見えたその顔は、

「奈央、なに笑ってんだよ!」

 声を押し殺して笑っていた。

「だって敬介、真面目に謝ってるし、その顔が笑えて可笑しいんだもん!」

 ということは、だ。何も致してなかったのか? 俺は無実か?

「あのさ、奈央? 俺、何も──」
「何かいけない事したとでも思っちゃった?」
「そ、そりゃ、まぁ。お前泣いてるように見えたし」
「そんな簡単にさせるはずないでしょ! それに何かあったとしたって、それくらいで私が泣くはずないじゃない」

 身を守る事はいい事だと99%同意し、残りの1%で軽く傷付く。

 でもな、奈央。そんな事で泣くはずないとか、割り切った風に言うなよ。何かされたら、傷付いたって、泣いて喚けばいい。かと言って、俺は奈央を傷付けたくないし、嫌がる事もしたくないけど。

 まだアルコールの抜け切っていない脳は、支離滅裂に思考をめぐらす。

「でも敬介。セクハラ行為は多々受けたから」

 嫌がる事をしたくないと思った傍から、奈央の言葉が突き刺さる。
 しかし、反論の余地はない。事実、裸で奈央を抱きしめ寝ていたわけだし。

「とにかく、その間抜けな顔を何とかした方がいいよ。シャワー浴びてきなよ。朝食用意してあげるから」

 セクハラを受けた割には、その顔に怒った様子は見えない。寧ろ、楽しそうに笑み崩して奈央はベッドルームを出て行った。
 その数分後。奈央の部屋のバスルームに俺の雄叫びが木霊した。

 アイツが笑ってた意味って……。間抜けな顔って……。あの女っ! 笑ってた原因はこれかよ!





 手際よく奈央がテーブルに並べていく軽めの朝食。そこには、昨夜、俺がやったと思われる残骸もポツリと置かれていた。

「敬介、あまり食欲ないでしょ?」
「うん、かなり」
「なら、これだけでも飲めば?」
「あぁ、サンキュ。頂きます」

 奈央が勧めたのは、しじみの味噌汁だ。ムカついた胃に、熱さが優しく染み渡る。

「ところで奈央? 俺は何であんな顔をしていたんだろうな?」
「私がやったから」
「……だよな」

 いくらなんでも、酔っていたからって自らやるとは思えない。

「何で、そんなことした?」
「大人しくされるがままだったから」
「そうか。楽しかったか?」
「うん」

 普段なら怒るところだろうが、裸で奈央を抱きしめていた事実と、セクハラをしてしまったらしいことを考えると、ここは強気に出られない。
 例え、瞼が青色に塗られていようとも……、頬がうっすらオレンジ色に染まっていようとも……、唇が、ツヤツヤピンクに仕上げられていようとも、だ!
 お陰で風呂場では絶叫する羽目になったが、文句を言う資格がないのは明らかだ。

「本当に何も覚えてないの?」

 あまり食欲がないのか箸を置いた奈央は、ハーブティーを飲みながら聞いてきた。

「……覚えてない」
「呆れた」
「ごめんなさい……それより、お前も食欲ないのか?」

 立場がなくて話を逸らすつもりが、これを引き金に次々と明らかにされていく昨夜の失態。
 奈央はもしかするとチャンスを待っていたのかもしれない。今か今かと話す機会を窺っていたのか、ハーブティーまで置いて身を乗り出してきた。

「そうなの食欲ないの。胃がもたれちゃって」
「まさか、俺が酔ったのを良い事に、お前も飲んだんじゃねーだろうな?」
「違う。最後まで酔っ払いに阻止されて飲めなかったから」
「じゃ、どうしたんだ?」
「聞きたい?」

 小悪魔の笑顔になった奈央を見て、嫌な予感が走る。

「いやいい。別に聞きたくない」
「それはね、夜中に敬介に無理矢理食べさせられたから」

 聞きたくないと断ったはずの俺の意見は通らないらしい。

「チキンも結構食べたって言うのに、『奈央ちゃ~ん、これも食べて~』って、嫌がる私の口にケーキを無理矢理押し込んできたの、敬介が」
「…………」
「しかも、頬にクリームをわざと付けられて、舐められたの、敬介に」
「っ!」

 何をやってんだ、俺は!

「私にミニスカサンタになれ! とも言ってたっけ、変態は」
「あっ、そ、それは多分、そんな格好をしろって意味じゃないと思うぞ? 少しは愛想良くしろって意味だと……」
「悪かったわね、無愛想で」

 ピシャリと怒られ、黙って味噌汁を啜る。

「その無愛想な女に『奈央ちゃん、今日は香水の匂いしないから』って、意味不明な理由で抱きついてきたのは、目の前の変態エロ教師だけど」

 出来るならば今すぐどこかに、この身を隠してしまいたい。

「その後に、何故だかこんな風にしたの」

 そう言って、奈央はテーブルの上に置いてあった残骸を指差した。
 奈央が指差すそれは、画面が蜘蛛の巣の如くひび割れたスマホだ。どうやら酔っ払った俺は破壊行為に出たらしい。

「いいの? こんなにしちゃって」
「別にいい」

 どうせくだらない付き合いの電話しか登録されちゃいない。新しいのにして番号も変えればばいいだけの話だ。

「香水の彼女と連絡取れなくて困るんじゃない?」

 …………そうきたか。

「俺、そう言うのもう止めたから。くだらねぇ時間だって分かったし。だから、お前も止めとけよ。俺の経験上のアドバイスだ。いつか後悔する時が来ると思う。いや、必ず来る」
「本当なんだ。昨夜もそんなこと言ってたけど、どうせ酔っ払いの戯言だろうと思ってたんだけどね」
「んな事しても、何にも埋まんねぇんだよ」

 身を乗り出し話していた奈央は、体勢を元に戻すと、またカップを口につけ黙って飲んでいる。
 何も言わない奈央に、どうしても約束させたくて、ついしつこく確認してしまう。

「ちゃんと分かったのか? そういう事はするべきじゃないって言ってんだぞ? 聞いてんのかよ」
「煩いな。この距離にいるんだから、イヤでも聞こえる」
「じゃ、分かったんだな?」
「私、昨夜も答えたんだけどね。隣りに面白いおもちゃ見つけたから、そんな遊びはもうしていないし、しないって」
「分かればいい。って、おもちゃって、俺か?」
「他に誰がいんのよ。黙ってお化粧までさせてくれるバカな大人が」

 俺だって、もうされたかない。それにしても、俺をおもちゃとは……。

「化粧はもう止めろよ。風呂場で鏡に映った姿見て、あまりのショックに心臓止まりそうになったじゃねぇか」
「私だって死ぬかと思ったわよ。『奈央ちゃんと寝る~!』って言って聞かないバカな大人にバカ力で抱きしめられて、絞め殺されるかと思った」

 俺はいくつだよ。酒に飲まれたからって、こんな事する奴だったか?

 自分でも知らない一面をこの年になって気付かされて、恥ずかしさと情けなさが込み上げてくる。

「わ、悪かったよ。あんなに記憶失くすほど酔うなんて滅多にないんだけどな。風呂に入って気付いたけど、腕には痣あざもあるしよ、何やってたんだか全く思い出せねぇ」
「あー、それね。それなら多分私のせい。シャワー浴びたいのに纏わり付いて離れないから、一発殴っといた」

 殴ったのか、痣が出来るほど思いっきり。どっちがバカ力だ。

「沢山の彼女と別れを決めたから、自棄酒でもしちゃった?」

 ポツリ奈央が呟く。
 冗談じゃない。見当違いもいいところだ。奈央といると落ち着けて楽でいられて、嬉しいあまりについつい飲んじまっただけだ。
 そんな俺の思いにブレーキを掛けるかのように、奈央が放つ次の言葉で、胸に痛みが走った。

「どちらかに特定の人が見つかるまでは遊んであげるから、元気出したら?」

 奈央は気を遣ったつもりなのかもしれない。でもその言葉の中に、奈央も特定の人を作る気があるのを知りショックを受けていた。

「へぇ、奈央も恋人作る気あんだ」
「…………作るよ」

 どっかで期待していた。そんなの馬鹿馬鹿しいって、まだそんなの考えられないって、そう言ってくれることを。なのに奈央は、先を見越しているかのように作ると言いきった。
 その言葉に違和感を持ちつつも、それ以上触れなかったのは、自分が傷付くのを恐れたのと、変えられない現実があるからだ。
 ──俺は教師でコイツは生徒。
それを理由に、俺は気付きかけていた自分の想いにそっと蓋をした。
 今が楽しければそれでいいんだと。奈央も楽しめればいいんだと。時間を共有することに、それ以上の理由を持つ必要はない。
 何も求めず、何も望まず。唯一許されるのならば、この2人の時間が少しでも長く続けばいい、そう願っていた。
 奈央が描いていたシナリオなど、何一つ知らないままに……。

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