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64. 放たれた想いの刃-9
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その医者は、俺が子供の頃から診て貰っている人で、父親の古くからの友人でもある。
腕は確かだ。ただ一つ、
「そうかそうか、あの敬介君が───……」
話好きだという難点を除けば、の話だ。
先程から幾ら待てど話が止まらない。自分の息子も医者となり片腕となってからは、時間にゆとりが出来たせいか、それとも歳故になのか。前にも増してお喋りに磨きがかかった先生が、やっと重い腰を上げたのは、診察が終わってから疾に一時間以上が過ぎてからだった。
「いやー、敬介君。すっかり話し込んでしまって申し訳ない」
「いえ、こちらこそ足を運んで貰ってすみませんでした」
「いや、構わんよ。また何かあれば直ぐ駆けつけるからね。敬介君だって体には気をつけないとな。来年からは忙しくなるだろうから」
……もう知ってるのか。
予測外の事を言われ、咄嗟に驚いた表情を浮かべていたのだろう。先生は見透かしたように目尻に深い皺を刻む。
「この前、お父さんに会ったんだよ。喜んでおられたぞ。表現力の乏しい奴だから分かり辛いけどな」
「先生、その話でしたら、今は教え子もいますし……」
慌てて口元に人差し指を立てると、「悪い悪い」と人の良い笑みを更に深め、
「いずれ祝いの酒でも飲もう」
俺の肩を二度ほど叩くと、漸くドアを開け帰って行った。
ドアが閉まるまで頭を下げ見送ると、さっきから気になって仕方がない方へと、窺うように目を向ける。
……聞こえてなかったよな?
それにしても、旨そうな匂いだ。廊下にまで漂ってきている。
運ばれてくる香りに吸い寄せられるように、キッチンへと足を踏み入れれば、大きな土鍋が火にかけられ、クツクツ蓋を揺らしながら白い蒸気を立ち上げている。その隣には、もう一つの鍋が置かれていた。
腹が刺激を受ける匂いの根源はそれらなのに、それよりも、少し前までは当たり前だった光景に目が奪われてしまう。
髪を無造作に纏め上げ手際良く動く奈央。一定のリズムで野菜を刻む音が、やけに心地よく感じる。
つい最近まで、こうして此処で料理を作っていたのに。そう遠い昔の話でもないのに。胸に温もりを覚えながら、何だが懐かしくすら感じた俺は「邪魔」と冷淡な声が向けられるまで、壁に凭れかかりながら、ずっとその姿を目の中に映し続けていた。
「莉央ちゃん、数日安静にしとけば元気になるって。良かったな」
返事はないと分かっていながら声をかけ、油断するとまた奈央を目で追ってしまいそうになるのを抑えて、二つの鍋へと意識を向ける。
「これお粥? こっちは煮魚か」
「そう」
火が止められている鍋の方の蓋を開ければ、味が良くしみ込んでいそうな煮魚。しかも、三切れもある。
「うわっ、いい匂い!」
「何だ、林田も匂いに誘われたか?」
「まあね」
莉央ちゃんの傍にいた林田が、カウンター越しから顔を覗かせる。だが、食い意地が張って顔を出した訳じゃないらしい。
「奈央の邪魔すんなよ? 叱られるぞ?」
「危険だね。包丁って武器も持ってるしね、こっちで大人しくしとくよ」
わざと軽口を叩き合う俺達に全く見向きもしない奈央から離れ、さり気なさを装ってキッチンを出た俺は、目くばせをしてきた林田と共にリビングへのソファーへと移動した。
揃って腰を下ろしたころで、林田が小声で話し出す。
「裕樹から電話あった。あと30分位で迎えに来るって。この場所も説明しておいた」
「随分と早いな」
「それがさ……」
林田は困ったように言葉を詰まらせた。
「何かあったのか?」
「うん、それが……裕樹だけじゃないみたいなんだよね。おじさんに連絡したら、仕事放り出してきたみたいで。おじさんも一緒に迎えに来るって」
「うん、そうか」
「そうかって、奈央と会わせるの?」
声を張れない代わりに、林田は目を見開いて身を乗り出してくる。
「多分、知ってて来るんだろうからな」
裕樹の事だ。事前に奈央がいる事も伝えているはずだ。
それを踏まえて迎えに来ると言うのなら、会わせるとか、会わせないとか、俺が口を挟むべきものでもない。
あの三者面談の時がそうであったように、会えば今以上に気持ちが乱れるかもしれないが、きっと全て承知した上で父親も来ると決めたのだろうから。
それに実の親子なのに、何年も会わない方が不自然な話だ。
例え、奈央の知らないところで交わされた約束があったとしてもだ。奈央の意思をまるで無視したそれに、少なからずとも俺は疑問も感じていた。
お互いに本音を言える良いチャンスとも言える。向き合わなきゃ分からない事だってある。
俺がそうであったように……。
「由香」
キッチンから届く突然の奈央の声に、ビクッと反応した林田は、
「はいはい」
何事もなかったようにカウンターに向かうと、突き出されたトレイ。その上には、ゆらゆらと湯気が立ち上る莉央ちゃんの食事が並べられていた。
「あの子に食べさせてあげて」
「奈央が食べさせてあげればいいのに」
カウンターの向こう側にいる奈央の顔色を窺いながら、遠慮がちに言う林田の意見を受け流した奈央は、
「多めに作ったから、由香も先生と後で食べて」
方向性の違う返答でかわす。
「私はいいから、沢谷と奈央で一緒に食べなって」
「洗い物が済んだら帰るから」
林田は、素っ気無く返す奈央を探るように見ていたが、これ以上言っても無駄だと判断したのだろう。トレイを持って莉央ちゃんがいる部屋へと向かった。
奈央の閉じこもった殻を突き破るのは容易ではないと覚悟はしていたが、またもや先生呼びの上に、俺が言ったことは完全になかったことにされては面白くない。
そう簡単に諦めるつもりはないのにまだ分からないのかと、モヤモヤしたものを抱えながらソファーから立ち上がると、洗い物をしている奈央へと近づいた。
「俺の分も作ってくれたんだな。すげぇ嬉しいんだけどさ、勿論一緒に食うよな?」
「……」
「俺が夕飯誘ったの忘れたわけじゃねぇだろ?」
「……」
「おい、無視だけはすんな」
掴むように奈央の肩に手を置き、手を止めさせ、自分と向き合わせる。
「作ったのは誘いを断るため。一緒に食べるつもりはない」
「どうしてだ」
肩を持ち上げ俺の手を振り落とすと、無表情の目でジッと俺を見据えた奈央は、僅かの間を置いてから当然のように言葉に乗せた。
「その質問可笑しいでしょ。前のような付き合いなら解消したはずだけど」
「そうだったな」
俺だって、そんなもの望んでいない。前の関係に戻りたいわけじゃない。
「だったら聞くまでもないじゃない」
「そうだな、今はな。二人きりになったらゆっくり話せばいいだけだし、明日の約束は前倒しさせて貰うから。メシ食うにしても食わないにしても、時間だけは空けとけよ」
「……勝手だよね。そう言うのが疲れるって、さっきも言ったじゃない。それに……」
また洗いものを始めた奈央は、「同情ならいらない」と、蛇口から流れ出る水音に混じり、低い声で吐き捨てた。
「お前、ムカつくな」
これの何処が同情なんだよ。
無意識に目で追って、気付けばお前の事ばかり考えて、下手すりゃ胸まで痛んで眠れなくて。それはお前が苦しんでる時に限らず、笑ってるお前を見ても、意志とは別に反応するこの気持ちの一体何処が同情なんだ。
同情なら一人胸の内で哀れんで、あとはやり過ごして終わらせるところだ。
「ムカつくから、これだけは今言っておく。そんな感情、お前に欠片も持ち合わせちゃいないからな。そんな目で見られる俺に、少しはお前が同情しろ」
俺が言い切ると直ぐに水を止め、手を拭った奈央は、
「だったら……何でよ」
聞き取るのがやっとなほど、小さな声だった。
「何でって、何がだ?」
「…………帰る」
はっ? 『何でよ』の続きくらい聞かせろ!
聞く隙すら与えず、奈央は俺の横を足早にすり抜けて行く。
「おい、待てって」
素直に止まってくれれば苦労はしないが、生憎、そう思い通りにはいかない。
当然、奈央が止まるはずもなく、ダイニングテーブルに置いていたキーケースに手を伸ばそうとした所で、その細い腕を掴んだ。
「離して」
「お前な、言いたい事あるならハッキリ言え!」
今日この部屋に来て初めて、力のこもった目で俺を睨み上げてくる。
「私もムカつくの。敬介と話してると頭がおかしくなる」
言い放った奈央の声を拾ったのか、「ちょっと、どうしたの?」と茶碗とスプーンを持ったままの林田が、驚いた様子でリビングに飛び込んで来た。
「悪いな、何でもない。莉央ちゃんにメシ食わせてやって」
林田に話している間に、力の緩んだ俺の手は振り払われる。
「奈央、帰るの?」
心配そうに見つめる林田に返事もせず、キーケースを握り、踵を返し出て行こうとしたのに、
「……おねえちゃん」
俺では反応しなかったその足は、可愛い声が聞こえた途端、ぴたりと動きを止めた。
「……ごはん……ありがとう」
たどたどしい声の元へとゆっくり振り返った奈央は、林田の背後に隠れるように佇む莉央ちゃんを見てから、そっと背を向けた。
「……大きくなったら、あまり咳も出なくなるから」
そう告げてリビングを後にした奈央が、「私もそうだった」と溢した小さな呟きは、きっと俺にしか聞こえてはいなかっただろう。
「林田、悪い。もしインターフォン鳴ったらロック解除しといて」
「分かった」
「莉央ちゃん、一杯食べて早く元気になって、大きくなろうな」
莉央ちゃんの頭を一撫でしてから、急いで奈央の後を追い掛けた。
腕は確かだ。ただ一つ、
「そうかそうか、あの敬介君が───……」
話好きだという難点を除けば、の話だ。
先程から幾ら待てど話が止まらない。自分の息子も医者となり片腕となってからは、時間にゆとりが出来たせいか、それとも歳故になのか。前にも増してお喋りに磨きがかかった先生が、やっと重い腰を上げたのは、診察が終わってから疾に一時間以上が過ぎてからだった。
「いやー、敬介君。すっかり話し込んでしまって申し訳ない」
「いえ、こちらこそ足を運んで貰ってすみませんでした」
「いや、構わんよ。また何かあれば直ぐ駆けつけるからね。敬介君だって体には気をつけないとな。来年からは忙しくなるだろうから」
……もう知ってるのか。
予測外の事を言われ、咄嗟に驚いた表情を浮かべていたのだろう。先生は見透かしたように目尻に深い皺を刻む。
「この前、お父さんに会ったんだよ。喜んでおられたぞ。表現力の乏しい奴だから分かり辛いけどな」
「先生、その話でしたら、今は教え子もいますし……」
慌てて口元に人差し指を立てると、「悪い悪い」と人の良い笑みを更に深め、
「いずれ祝いの酒でも飲もう」
俺の肩を二度ほど叩くと、漸くドアを開け帰って行った。
ドアが閉まるまで頭を下げ見送ると、さっきから気になって仕方がない方へと、窺うように目を向ける。
……聞こえてなかったよな?
それにしても、旨そうな匂いだ。廊下にまで漂ってきている。
運ばれてくる香りに吸い寄せられるように、キッチンへと足を踏み入れれば、大きな土鍋が火にかけられ、クツクツ蓋を揺らしながら白い蒸気を立ち上げている。その隣には、もう一つの鍋が置かれていた。
腹が刺激を受ける匂いの根源はそれらなのに、それよりも、少し前までは当たり前だった光景に目が奪われてしまう。
髪を無造作に纏め上げ手際良く動く奈央。一定のリズムで野菜を刻む音が、やけに心地よく感じる。
つい最近まで、こうして此処で料理を作っていたのに。そう遠い昔の話でもないのに。胸に温もりを覚えながら、何だが懐かしくすら感じた俺は「邪魔」と冷淡な声が向けられるまで、壁に凭れかかりながら、ずっとその姿を目の中に映し続けていた。
「莉央ちゃん、数日安静にしとけば元気になるって。良かったな」
返事はないと分かっていながら声をかけ、油断するとまた奈央を目で追ってしまいそうになるのを抑えて、二つの鍋へと意識を向ける。
「これお粥? こっちは煮魚か」
「そう」
火が止められている鍋の方の蓋を開ければ、味が良くしみ込んでいそうな煮魚。しかも、三切れもある。
「うわっ、いい匂い!」
「何だ、林田も匂いに誘われたか?」
「まあね」
莉央ちゃんの傍にいた林田が、カウンター越しから顔を覗かせる。だが、食い意地が張って顔を出した訳じゃないらしい。
「奈央の邪魔すんなよ? 叱られるぞ?」
「危険だね。包丁って武器も持ってるしね、こっちで大人しくしとくよ」
わざと軽口を叩き合う俺達に全く見向きもしない奈央から離れ、さり気なさを装ってキッチンを出た俺は、目くばせをしてきた林田と共にリビングへのソファーへと移動した。
揃って腰を下ろしたころで、林田が小声で話し出す。
「裕樹から電話あった。あと30分位で迎えに来るって。この場所も説明しておいた」
「随分と早いな」
「それがさ……」
林田は困ったように言葉を詰まらせた。
「何かあったのか?」
「うん、それが……裕樹だけじゃないみたいなんだよね。おじさんに連絡したら、仕事放り出してきたみたいで。おじさんも一緒に迎えに来るって」
「うん、そうか」
「そうかって、奈央と会わせるの?」
声を張れない代わりに、林田は目を見開いて身を乗り出してくる。
「多分、知ってて来るんだろうからな」
裕樹の事だ。事前に奈央がいる事も伝えているはずだ。
それを踏まえて迎えに来ると言うのなら、会わせるとか、会わせないとか、俺が口を挟むべきものでもない。
あの三者面談の時がそうであったように、会えば今以上に気持ちが乱れるかもしれないが、きっと全て承知した上で父親も来ると決めたのだろうから。
それに実の親子なのに、何年も会わない方が不自然な話だ。
例え、奈央の知らないところで交わされた約束があったとしてもだ。奈央の意思をまるで無視したそれに、少なからずとも俺は疑問も感じていた。
お互いに本音を言える良いチャンスとも言える。向き合わなきゃ分からない事だってある。
俺がそうであったように……。
「由香」
キッチンから届く突然の奈央の声に、ビクッと反応した林田は、
「はいはい」
何事もなかったようにカウンターに向かうと、突き出されたトレイ。その上には、ゆらゆらと湯気が立ち上る莉央ちゃんの食事が並べられていた。
「あの子に食べさせてあげて」
「奈央が食べさせてあげればいいのに」
カウンターの向こう側にいる奈央の顔色を窺いながら、遠慮がちに言う林田の意見を受け流した奈央は、
「多めに作ったから、由香も先生と後で食べて」
方向性の違う返答でかわす。
「私はいいから、沢谷と奈央で一緒に食べなって」
「洗い物が済んだら帰るから」
林田は、素っ気無く返す奈央を探るように見ていたが、これ以上言っても無駄だと判断したのだろう。トレイを持って莉央ちゃんがいる部屋へと向かった。
奈央の閉じこもった殻を突き破るのは容易ではないと覚悟はしていたが、またもや先生呼びの上に、俺が言ったことは完全になかったことにされては面白くない。
そう簡単に諦めるつもりはないのにまだ分からないのかと、モヤモヤしたものを抱えながらソファーから立ち上がると、洗い物をしている奈央へと近づいた。
「俺の分も作ってくれたんだな。すげぇ嬉しいんだけどさ、勿論一緒に食うよな?」
「……」
「俺が夕飯誘ったの忘れたわけじゃねぇだろ?」
「……」
「おい、無視だけはすんな」
掴むように奈央の肩に手を置き、手を止めさせ、自分と向き合わせる。
「作ったのは誘いを断るため。一緒に食べるつもりはない」
「どうしてだ」
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これの何処が同情なんだよ。
無意識に目で追って、気付けばお前の事ばかり考えて、下手すりゃ胸まで痛んで眠れなくて。それはお前が苦しんでる時に限らず、笑ってるお前を見ても、意志とは別に反応するこの気持ちの一体何処が同情なんだ。
同情なら一人胸の内で哀れんで、あとはやり過ごして終わらせるところだ。
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「だったら……何でよ」
聞き取るのがやっとなほど、小さな声だった。
「何でって、何がだ?」
「…………帰る」
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当然、奈央が止まるはずもなく、ダイニングテーブルに置いていたキーケースに手を伸ばそうとした所で、その細い腕を掴んだ。
「離して」
「お前な、言いたい事あるならハッキリ言え!」
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「私もムカつくの。敬介と話してると頭がおかしくなる」
言い放った奈央の声を拾ったのか、「ちょっと、どうしたの?」と茶碗とスプーンを持ったままの林田が、驚いた様子でリビングに飛び込んで来た。
「悪いな、何でもない。莉央ちゃんにメシ食わせてやって」
林田に話している間に、力の緩んだ俺の手は振り払われる。
「奈央、帰るの?」
心配そうに見つめる林田に返事もせず、キーケースを握り、踵を返し出て行こうとしたのに、
「……おねえちゃん」
俺では反応しなかったその足は、可愛い声が聞こえた途端、ぴたりと動きを止めた。
「……ごはん……ありがとう」
たどたどしい声の元へとゆっくり振り返った奈央は、林田の背後に隠れるように佇む莉央ちゃんを見てから、そっと背を向けた。
「……大きくなったら、あまり咳も出なくなるから」
そう告げてリビングを後にした奈央が、「私もそうだった」と溢した小さな呟きは、きっと俺にしか聞こえてはいなかっただろう。
「林田、悪い。もしインターフォン鳴ったらロック解除しといて」
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