君を唄う

マイリトルジョー

文字の大きさ
5 / 10

チョコをちょこっと

しおりを挟む
 「んー」
 私は悩んでいた。
 仕事の帰りに寄ってみたデパートのイベントフロアでは様々なチョコが並んでいた。

 最近はスタジオに入っているか、家で曲を作っているかの生活で、ろくに外出していなかったり、ニュースとかで情報も仕入れていなかった。

 ようやく一段落したこの日は、たまたまデパートに寄ってみていた。

 と、入口のところにある、
 『バレンタインフェア』
 と銘打たれたイベントの看板が目に入る。

 そういえば、そろそろか…

 迷ったけど、とりあえず見てみようと思った。
 エスカレーターを降りていくと、すぐに色々な種類のチョコが、たくさん並べられているフロアがあった。

 美味しそう…

 しかし、みんな中々高級で、ひとつ買うのにも勇気が必要だった。
 とりあえず、今日は下見ということで―。
 「あれ、えるさん?」
 聞き覚えのある声だ。横を見るとマネージャーが、袋をいくつも持って立っていた。

 「どうしたんですか?そんなに」
 「ん?あぁ、関係者の方々にね」
 そう言われて、ハッとする。誰にも何にも買ってない。
 いや、仕事で忙しかったし、それどころではなかったし、これから買えば間に合うよね。

 そんな私を見てか、マネージャーが笑っている。
 「すみません、見るからに焦ってるえるさんがおかしくて」
 私は恥ずかしくなって口をとがらせる。

 「えるさんは、気にしなくて大丈夫です。そういうことを考えるのが私の仕事でもあるんですから」
 マネージャは優しく、そして頼もしい表情だった。
 「あ、渡したい人がいるなら別ですけどね」
 意味深に微笑みながらマネージャーは去っていった。

  *******

 「はい、これ」
 数日後―。
 「なに、どうしたの」
 聞きながら中から取り出すと、可愛らしい包装の箱がでてきた。急になんだ…?

 あ、そういえば、今日は―。

 「義理だから!」
 何も言っていないのに、慌てたように、僕には何を言わせないように主張してくる。
 「も、もう帰るから!」
 「ちょっと待って」
 さっさと帰ろうとするえるを、このまま帰らせてしまうのはなんだか惜しいと思った。
 何かできる提案があるとしたら…。
 「ご飯だけでも食べていかない?」
 驚いた様子のえる。
 「いや、明日朝早いし…」
 「あ、じゃあなんか母親に言って―」
 どうにか食い下がっていたが、えるはカバンから袋を取り出した。
 「もうもらっちゃった」
 昼間来た時にさ、と申し訳なさそうに笑う。
 なんだか、こちらも申し訳なくて、ごめん、と言うと、
 「こっちこそ、なんかごめんね」
 変な沈黙が流れた後、
 「じゃあ帰るね」
 と歩いていくえる。

  
 何か言わないと―。
 「今度ライブ行くから」
 立ち止まって振り返ったえるが、
 「決まったら連絡するね!」
 と言って手を振った。

 また振り返って歩き出したえるの背中が見えなくなるまで、僕はずっと手を振り続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...