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Scene7 宝探しスタート

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「エルガド様!?お待たせしました。一体どうなさったのですか?」

ミーリエルがそう尋ねると、マーカスは眩しい笑顔を向けた。

「やあ、突然悪かったね。ただ何か手伝えることがあるかと思ってね・・・ごめん、ガッカリさせてしまったみたいだね。アリアナじゃなくて・・」

マーカスの言葉に驚いたミーリエルは、思わず頬を押さえた。

(やだ・・私、アリアナじゃなくて残念な顔しちゃった?何て失礼なことしてんの!?こんな直球ど真ん中、どストライクのイケメンを前に!)

ミーリエルは、自分の態度に猛省していると、マーカスが優しく微笑んで言った。

「リンドン嬢は、あの会議の時も妹に羨望の眼差しを送っていたからね。兄として、妹がこんなに可愛らしい女性から好かれているというのは、嬉しい反面少し嫉妬していまうかな」

(ヒョォォォ!眩しい。イエメンの笑顔、ナイスです!ご馳走様です!でも、眩しすぎて倒れそう・・・)

イケメンスマイルを前にミーリエルは失神寸前の意識を必死に抱え込む。

「エルガド様、嫉妬だなんて。私はエルガド様のこともお慕い申し上げておりますよ」

ミーリエルの言い訳に「・・・その“慕う”の意味が気になるところだけどね」と呟いたマーカスの言葉は、イケメンスマイルにやられているミーリエルの耳には届かなかった。

それから話は、本題へと入る。マーカスの訪問の目的は、ミーリエルの手伝いを申し出るためだった。

「ありがとうございます。とても嬉しいのですが、殿下には一人でやることが条件だと言われておりますよ」

「確かに殿下は、一人で城を探せと仰っしゃられた。だけど他人の手を借りるなとは、条件を出さなかった。これは城の捜索時は一人だが、他では協力してもいいととれるよね?」

あっけらかんとそう話すマーカスの様子に、ミーリエルはクスッと笑いをもらす。

「まさかエルガド様の口からそんな屁理屈が出てくるとは、思いませんでしたわ。でも、お言葉に甘えさせていただきます」

そう言ったミーリエルにマーカスは、破顔した。

それからミーリエルは、宝石の場所までは分からないので、魔導コンパスで探す計画であると相談すると、マーカスから思いがけない言葉をもらう。

「魔導コンパスなら持ってきた。他にも透明マントに万能鍵、それから・・」

「えっ!?エルガド様!ちょっとお待ちください」

次々と魔導具を鞄から取り出すマーカスに、呆気にとられたミーリエルは待ったをかける。しかしマーカスは、「これでは足りなかったかな?」と返した。

(足りたいどころじゃないよ。その小さな鞄にどうやってこれだけの道具入れてたの!?それにしても想像して文字にした道具が、こうして目の前にあると、感慨深いものがあるなぁ)

「いえ!十分すぎるほどです。ですが、こんなに使いこなせません。それにこんな高価な魔導具をどうなさったのですか?」

「うん?私のコレクションだよ。私は、こういうものに興味があってね。ただ平和な王国では、使う機会がないんだ。いい機会だから、君に使ってもらおうと思って」

魔導具というのは、大変高価な物が多い。これほどの数を集めるとは、さすが公爵家だとミーリエルは感心した。

テーブルに並ぶのは、どれも小説に出てきたものばかりだ。魔導コンパス同様、遠征で使われたものもあったが、名前だけのものもある。ミーリエルはそれらに興味が引かれないわけではなかったが、今は宝石を一刻も早く見つけ、妃の座から、そして拷問から逃げなければならない。

ミーリエルは、「エルガド様、ありがとうございます。でも私に魔力はありませんので、コンパスだけお借りしますね」と言って、手を伸ばした。しかしコンパスに添えたミーリエルの手にマーカスもまた手を重ねる。そして、こう言った。

「マーカスだ・・」

「えっ?はい、存じ上げております」

「だからエルガドではなく、マーカスと呼んでほしい。それがこれを貸す条件だ」

あの会議で初めて会った男性に、しかも公爵家嫡男に恐れ多い気もしたが、小説ではミーリエルは彼と結ばれる。それなら名前で呼ぶくらい問題ないだろうと考えたミーリエルは、自然と頬を染めて言った。

「はい、マーカス様。ありがたくお借りしますね」

(はぁぁ、カッコいい・・・・って、見惚れてる場合か!?マーカスは、もうこの段階でミーリエルに好意を持ってるの?早いな。この好意無駄にはできぬ!!拷問宣言した変態王子よりイケメンとの未来に私の幸せはある!絶対に宝探しコンプリートしてみせる!)

小説から大きく逸れた展開に動揺していたミーリエルだったが、マーカスからの好意は彼女に一筋の光を指していた。


◇◇◇◇◇


翌日から城での捜索を始めたミーリエル。失敗の先にある罰ゲームさえなければ、宝探しゲームのようで楽しそうだと思い、ワクワクしていた。

とりあえず、地図を片手に城の入口でコンパスをかざしてみるが、針に動きはない。仕方がないので、城の中心あたりでコンパスをかざすことにした。

ミーリエルが城を奥へと進んでいると、「よお!」と声がした。振り返ると、オーウェンがこちらへ歩いてくる。ミーリエルは、その姿に内心辟易した。

「俺様が応援に駆けつけてやったんだ。お前は、ひざまずいて感謝するべきだな」

(応援?とんでもない。邪魔しに来たんでしょうが!)

ミーリエルは時間がもったいないので、適当に挨拶だけすると、止めた足を進める。しかしオーウェンは何故かミーリエルの後を追ってきて、ゴチャゴチャと話しかけてきた。

「しかし色気のない格好だな。侯爵家の女ならドレスだろうが」
 
「これから動き回るのに、ドレスでは動けません。ドレスが見たいのでしたら、パーティーでも開かれたらいかがですか?」

(アンタの主催パーティーじゃ誰も来たがらないけどね)
 
「パーティーは、女どもがうるさくて好かん。王子なら誰でもいい女ばかりで困ったもんだな」

(なぁに言っちゃってるの。本当にバカ王子。うるさいのは、アンタの愚痴大会になってるからだろうがぁ!)

いい加減、意味もなくついてくるオーウェンにキレそうになっていたミーリエルだったが、その時オーウェンを呼ぶ声がどこかでした。オーウェンはそれに舌打ちすると、「ふんっ・・まあせいぜい励むことだな」と捨てゼリフを忘れずに残していくと、姿を消した。

しかし安堵したのもつかの間。ミーリエルがホッとして息を吐くと、突然手を引っ張られ、大柱の陰に連れ込まれたのだ。

驚いたミーリエルが見上げると、そこにはイタズを仕掛ける男の子のような笑顔を浮かべたマーカスが見下ろしていた。
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