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魔法省で臨時メイドになりました
整理するだけで効率って上がるよね
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少し急ぎ目に、でも和やかな食事を終えて片付けていると、顔が見えないくらい高く積み上げた書類を持ったルーカスさんがやって来た。
後ろには何故かヴィオラさんもいる。同じようなてんこ盛りの書類も一緒だね……え、あれ全部仕事なの?
「お待たせしました」
「え、ええ……あの、これ全部仕事ですか?」
「はい、今のところの分ですね。とりあえず一度片付けば、あとは帰宅できる程度になるはずなんですよ」
あ、ルーカスさんも帰れてないんだ。そうだよね、レオナール様もロザンナさんたちも帰れないくらいなら、次席代理のルーカスさんも当然帰れないよね。
「長は高齢ですので泊まり込みこそありませんが、多忙なのは同じです。書類整理が得意な者ばかり休んでしまっているので、それも仕事が多い理由のひとつです」
近くの机に書類を置いたルーカスさんはひとつため息を吐くと、ヴィオラさんにも書類を置くように示す。
「ヴィルヘルム殿もここで仕事させますので、よろしくお願いしますね」
「……目を離すとサボるから?」
「いえ、誰彼構わず辛いものを食べさせようと人的被害を与えに走るからです」
あ、ルーカスさん真顔だ。怖い。これ完全にお怒りですね、刺激しないようにしよう……私は何も見なかった、うん。
「とりあえずお茶を淹れますね。それから私が何をすればいいのか指示をお願いします」
急いで四人分新しくお茶を淹れる。温度はさっきよりやや低めに、すぐに飲めるようにしてっと。
あれだけ書類運んだあとなら、きっと喉が渇いてるもの。すぐに飲めたほうがいいよね。
「どうぞ」
「ありがとうございます……うん、美味しい」
「よかった。ヴィオラさんもどうぞ、喉が乾いていませんか?」
「ええ、ありがとう」
くたびれたと全身で語るようなヴィオラさんに苦笑しつつ、改めて運ばれた書類の山を見る。
うん、本当にこれじゃあ帰れないわ。凄い量……頑張ってお手伝いしよう。
「リリー殿、申し訳ありませんが、書類の仕分けをお願いできますか? 城の文書とその他の文書に分けて、城のは銀印と朱印、署名で分けてください。その他の方は地域別に分けていただけると助かります」
「わかりました」
今ルーカスさんが言ったのは、書類の種類。銀印は財務省といったそれぞれの省でも重要な文書として出されたもので、偽造防止に銀色の特殊な粉が印にまじっている。朱印は朱色の判子が押された公的文書、署名はいわゆるサインで、公的じゃないけど書類を出すに当たって誰が責任を持つか示してる。
当然ながら銀印が最優先だけど、署名も公的文書を出せない立場の――例えば騎士団だと公的に書類を出せるのは隊長だけで、副隊長は署名だったりする――場合があるから、気をつけておかないとだよね。
とりあえずまずは紙と記名を見て城とその他に分けるっと。城で出される文書は全部同じ紙を使用するから、こういう時は便利だね。
「……早い」
ひょいひょいと書類を分けていたら、感心したようなレオナール様の声が聞こえた。
「手慣れてるね」
「アランの手伝いで似たようなことをしていましたから」
本当は駄目なんだけどね、王太子命令だとどうしようもなかったから仕方ない。
思い出して苦笑しつつ作業を進めていると、署名は署名でもなんだか変なものが出てきた。
「あれ?」
「どうされました?」
「いえ、なんだか妙なものが」
身を乗り出すルーカスさん。その隣で仕事をしていたヴィオラさんも興味深そうな視線を向けてくるけど、だって思わず声をあげる程度に変なのよ。
「最初は署名洩れの書類なのかと思ったのですが、よく見たらこちらに署名が」
書類には暗黙の了解というか常識として末尾になる右下に、気持ち大きく署名か印を押すことになっている。だから私は書類の中身を見ずにそれで仕分けしていたんだ。
で、この書類はその右下に何もない。よく見ると左側に書きなぐったような筆跡はあるけど、判読は出来ない。
これを仕事の書類って提出するの? ちょっとなぁと思っていたら、ルーカスさんが疲れたようにため息をついた。
「それ、最近の近衛から回ってくる報告書ですよ」
「近衛から? ちなみにどこの?」
「……王太子殿下付きのです」
え、王太子付きがこんな書類出しちゃうの?
王太子もだけどアランにバレたら大目玉だよ?
「……これ、困りませんか?」
「正直凄く困っています」
ですよね。うん、ちょっとこれは駄目だろう。
仕方ない、気は進まないけど、呼び出しかけるか。
後ろには何故かヴィオラさんもいる。同じようなてんこ盛りの書類も一緒だね……え、あれ全部仕事なの?
「お待たせしました」
「え、ええ……あの、これ全部仕事ですか?」
「はい、今のところの分ですね。とりあえず一度片付けば、あとは帰宅できる程度になるはずなんですよ」
あ、ルーカスさんも帰れてないんだ。そうだよね、レオナール様もロザンナさんたちも帰れないくらいなら、次席代理のルーカスさんも当然帰れないよね。
「長は高齢ですので泊まり込みこそありませんが、多忙なのは同じです。書類整理が得意な者ばかり休んでしまっているので、それも仕事が多い理由のひとつです」
近くの机に書類を置いたルーカスさんはひとつため息を吐くと、ヴィオラさんにも書類を置くように示す。
「ヴィルヘルム殿もここで仕事させますので、よろしくお願いしますね」
「……目を離すとサボるから?」
「いえ、誰彼構わず辛いものを食べさせようと人的被害を与えに走るからです」
あ、ルーカスさん真顔だ。怖い。これ完全にお怒りですね、刺激しないようにしよう……私は何も見なかった、うん。
「とりあえずお茶を淹れますね。それから私が何をすればいいのか指示をお願いします」
急いで四人分新しくお茶を淹れる。温度はさっきよりやや低めに、すぐに飲めるようにしてっと。
あれだけ書類運んだあとなら、きっと喉が渇いてるもの。すぐに飲めたほうがいいよね。
「どうぞ」
「ありがとうございます……うん、美味しい」
「よかった。ヴィオラさんもどうぞ、喉が乾いていませんか?」
「ええ、ありがとう」
くたびれたと全身で語るようなヴィオラさんに苦笑しつつ、改めて運ばれた書類の山を見る。
うん、本当にこれじゃあ帰れないわ。凄い量……頑張ってお手伝いしよう。
「リリー殿、申し訳ありませんが、書類の仕分けをお願いできますか? 城の文書とその他の文書に分けて、城のは銀印と朱印、署名で分けてください。その他の方は地域別に分けていただけると助かります」
「わかりました」
今ルーカスさんが言ったのは、書類の種類。銀印は財務省といったそれぞれの省でも重要な文書として出されたもので、偽造防止に銀色の特殊な粉が印にまじっている。朱印は朱色の判子が押された公的文書、署名はいわゆるサインで、公的じゃないけど書類を出すに当たって誰が責任を持つか示してる。
当然ながら銀印が最優先だけど、署名も公的文書を出せない立場の――例えば騎士団だと公的に書類を出せるのは隊長だけで、副隊長は署名だったりする――場合があるから、気をつけておかないとだよね。
とりあえずまずは紙と記名を見て城とその他に分けるっと。城で出される文書は全部同じ紙を使用するから、こういう時は便利だね。
「……早い」
ひょいひょいと書類を分けていたら、感心したようなレオナール様の声が聞こえた。
「手慣れてるね」
「アランの手伝いで似たようなことをしていましたから」
本当は駄目なんだけどね、王太子命令だとどうしようもなかったから仕方ない。
思い出して苦笑しつつ作業を進めていると、署名は署名でもなんだか変なものが出てきた。
「あれ?」
「どうされました?」
「いえ、なんだか妙なものが」
身を乗り出すルーカスさん。その隣で仕事をしていたヴィオラさんも興味深そうな視線を向けてくるけど、だって思わず声をあげる程度に変なのよ。
「最初は署名洩れの書類なのかと思ったのですが、よく見たらこちらに署名が」
書類には暗黙の了解というか常識として末尾になる右下に、気持ち大きく署名か印を押すことになっている。だから私は書類の中身を見ずにそれで仕分けしていたんだ。
で、この書類はその右下に何もない。よく見ると左側に書きなぐったような筆跡はあるけど、判読は出来ない。
これを仕事の書類って提出するの? ちょっとなぁと思っていたら、ルーカスさんが疲れたようにため息をついた。
「それ、最近の近衛から回ってくる報告書ですよ」
「近衛から? ちなみにどこの?」
「……王太子殿下付きのです」
え、王太子付きがこんな書類出しちゃうの?
王太子もだけどアランにバレたら大目玉だよ?
「……これ、困りませんか?」
「正直凄く困っています」
ですよね。うん、ちょっとこれは駄目だろう。
仕方ない、気は進まないけど、呼び出しかけるか。
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