メイドから母になりました

夕月 星夜

文字の大きさ
106 / 124
魔法省で臨時メイドになりました

あなたがいるから

しおりを挟む
「さっき、言われた。今回の件で、リリーは矢面に立つって」

レオナール様の言葉に首を傾げる。矢面に立つ?

 「その、王女に恋人って紹介するから」
 「ああ、今レオちゃんに恋人がって言うと、王女様が面倒くさいことになるだろう、だっけ? 向こうはレオちゃんがほしいんだもの、邪魔だって思うのは間違いないわよね」

ヴィオラさんの言葉でやっと理解が追いついてきた。
つまり、レオナール様の恋人だと明らかにする以上、妬み僻みを向けられるし場合によってはレオナール様を敵視する人から害される可能性があると。特に今回はレオナール様を好きな王女様が来るから、私に対して何かするかもしれないってことだよね。
立場上王女様のほうが上の地位だもの、無茶振りをされても私は聞かなければならない。ただ、王太子の命があれば話は別……王家のメイドの肩書きがある以上、表立っては何も出来ないだろうけど、裏で何かされる可能性は充分にある。

 「リリーが一番のメイドなら、何も言えない。でも、そうじゃないなら絶対何か言ってくる。王家のメイドって肩書きだけで引いてくれるような人じゃない。僕は」

 一度言葉を切ったレオナール様は視線をそらして、小さく、本当に小さく呟く。

 「リリーが傷つくのを、見たくない」

 消えそうな声だけど確かに聞こえたその言葉に、ふっと口元が綻んだのがわかる。
まったくもう、レオナール様ってば……もう。

 「大丈夫ですよ、レオナール様」

なんか、色々と思うことはあるんだ。私とレオナール様はちゃんと恋人同士な訳で、 目の前でレオナール様にアピールする王女を見なきゃいけないのは嫌だとかさ。でも、大丈夫だとも思ってる。

 「王家のメイドはたかが嫌味や嫌がらせに負けるほど弱くありませんし、傷つけられたりもしません」
 「でも」
 「そうやって私の気持ちだけ考えて心配してくれるどこかの恋人さんがいるから、平気です」

きょとんとした顔になる、この人が好きだなぁって思うんだ。
 王家のメイドを舐めんなよ、みたいな気持ちもなくはないけど、それより私が傷つくのが嫌って言っちゃうこの人が、本当に愛しくてたまらない。

 「リリーは」
 「はい」
 「僕に王女が近づいて平気?」
 「平気じゃないし嫉妬すると思います。だから、ちゃんと後で甘やかしてください」

にっこりとそう言ったら、何故だか変な顔をされる。あれ、おかしいかな?

 「……嫉妬するの?」
 「しないと思います?」

 悪いけど、私そんなに淡白でもクールでもないよ。公私はきっちり分けるけど、感情までそうかって言われたらそんなはずないじゃない。

 「……そっか」

そう言ってそっぽを向くレオナール様は、なんとなくバツが悪いような顔で、だけど耳だけは真っ赤になっている。照れてるレオナール様も可愛いなぁなんてほのぼのしていたら、うがあーっと奇声をあげたヴィオラさんが頭を抱えた。

 「なに、なんなの? この二人のやりとり甘すぎて砂糖吐きそうなんだけど!?」
 「まあまあ」
 「なんでルーちゃん平然としてられんのよー!」

 苦笑と共にヴィオラさんを宥めるルーカスさんは、私の視線に気づくとふわりと笑みをやわらかなものに変える。

 「確かに独り身には厳しいくらいの仲の良さですが、それでも嬉しいの方が大きいです。リリー殿、今回の件では色々と大変な思いをされるかと思いますが、その時は遠慮なく私達を頼ってください。魔法省の一員としてわざわざ仕事を手伝いに来てくださる王家のメイドだからというだけではなく、一人の友人としてもそう願います」
 「ルーカスさん……」
 「そもそも魔力ゼロ体質のリリー殿を魔法省に放り込んで仕事させようとおっしゃられているのですから、次期宰相殿も文句は言えないでしょうし」

あ、ルーカスさんの笑顔が黒い。一緒に仕事した時、私に魔法使いと仕事しろって無茶振りしたのは王太子だけど、それを全力で後押ししたのがアランだからね。私が魔力ゼロ体質って知ったルーカスさん本気で怒ってたし、忘れてないんですね、わかります。

 「ああ、そうですね。レオナール殿に相談があるのですが」
 「ん?」

ポンと手を打ったルーカスさんは小首を傾げるレオナール様へにっこりと微笑む。

 「今回の件が終わるまで、リリー殿の手助けがてらヴィルヘルム殿にもついてもらうことはできますか?」
 「ちょっと!?」
 「別に問題はないと思いますよ。国からの仕事はこの書類が終わればしばらくないはずです。それでいて研究は手詰まりなのでしょう? 気分転換も兼ねてリリー殿と一緒に行動してみては?」

あっさりと涼しい顔で言い切るルーカスさん。それに呆然とした顔で、でもと呟くヴィオラさん。
そんな二人を見比べていると、レオナール様と目が合う。

 「……リリーは大丈夫?」
 「え、ええ、別に構いませんが」
 「そうじゃなくて、ヴィルもこう見えて男性だから。嫌なら断っていい」

あ、すいません。今ハートを打ち抜かれた気分です。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

メイドから母になりました 番外編

夕月 星夜
ファンタジー
メイドから母になりましたの番外編置き場になります リクエストなどもこちらです

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。