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魔法省で臨時メイドになりました
疑うのと嫉妬は別問題
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そうしてついにエスティリア王女様が訪問される日になった。
この数日は毎日レオナール様を手伝っていたから、そっちの仕事はなんとかなるはず。
書類分けたり運んだりって雑用でも、数が多ければとんでもない仕事量だなぁと再確認させられてしまったよ。王太子にやらされた時とじゃ量が違すぎてびっくりした。
というのも、魔法に関わることだから王太子と違って手分けしてやることが難しいというかその手が足りないというか……レオナール様もルーカスさんも、凄い仕事量だった。
困った時にはすぐヴィオラさんが手助けしてくれたし、私もだいたい要領が掴めたから途中で休憩の準備とか出来るようにもなった。とりあえず一日三時間あれば毎日の仕事が片付けられる程度には溜まっていた仕事も片付いたってレオナール様も言ってたし、ひとまず王女につくことに差し障りはなくなったって。
まぁ、感情的なものを考えるとまた違う話にはなるんだけど。
「緊張してる?」
これからのこととか考えていたら、レオナール様が顔を覗き込んでくる。ちょっと心配させるような顔しちゃってたのかな?
「していませんよ? ただ、どんな方なのかと考えていただけで」
「銀の髪、青い目。僕に物怖じしないで話しかけてくる」
美醜に一切拘らないレオナール様らしい表現に思わず苦笑すれば、王女を出迎えるために待機していたアランが声を上げて笑い出す。
「ふ、ふふ。リリーが聞きたいのはそうじゃないでしょう」
「ん? 間違ってる?」
「間違っているというか、本当に興味がないというか」
「興味……」
くすくすと笑い続けるアランに、レオナール様は困ったような顔を向けた。
「興味というか、困る人だし」
「困る人……まあ、実際困っていますよね」
「ん。僕に物怖じしないで声をかけてくれるのは、嬉しい。でも、あの目は好きじゃない。自分が正しいって信じ込んでいるのが、苦手」
レオナール様が苦手って言う人、はじめてじゃない? 嫌いではないけど、好きでもないみたいな複雑な感情ともまた違うよね。
思わずレオナール様を見つめれば、違うんだと何故か焦ったように首を振られた。
「その、好きとかじゃない。僕が好きなのはリリーで、王女を好きになったりじゃないから」
「え? あ、えっと、そこについては別になにも心配してはいませんよ?」
「よかった」
「え、いいんですか?」
ホッとした表情のレオナール様の傍らでギョッとしたようなアランが私を見る。
「嫉妬とかするでしょう。不安になったりとか」
「うーん、普通はそうでしょうけど……レオナール様ですから」
いつも通りの口調で苦笑すれば、アランは少し首を傾げる。
「どうしてそう言い切れるんですか、リリー」
「レオナール様、私が来た時点で凄い女性不信でしたから。私を望んだ理由も、最初は色目使わないで仕事してくれそうだから、ですよ? そんな人が私を特別にしてくれただけでも驚きなのに、他の女性にもってなったら多分月が真昼に輝き出します」
レオナール様はイケメンだし地位もあるし、女性にとっては黒髪にさえ目を瞑ればいい旦那様候補なんだ。だからこそ色仕掛けされたりしたんだけどね。
ちなみに黒髪は生まれながらに精霊と契約を交わし膨大な魔力を持っている証。子供の頃は魔力の暴走によって天災レベルの被害を出すことがあるので、黒髪自体が忌避される傾向にあるし畏怖の対象でもある。
レオナール様も子供の頃はとても苦労したそう。私にとっては懐かしくて大好きな色なんだけどね。
で、大人になって魔力の暴走の危険性が下がったら、当然その優秀さに人々の目が向いていくと。でも子供の頃にうけた仕打ちでなかなか人を信用しにくくなっていたレオナール様は、色仕掛けを繰り返されて見事なまでに女性不信になったそうなんだ。
そんなレオナール様が、ねえ?
「レオナール様が王女様にもそういう気持ちを持つって考えるくらいなら、王太子が実は女性で子持ちですって言われた方がまだ信じられそうです」
「どんな例えですか。エミディオに聞かれたらまた不敬罪って大騒ぎされますよ」
「え、じゃあアランとエミディオが恋人同士だったとか」
「リリー?」
にっこりと圧力たっぷりに微笑みかけられるけど、私にとっては本当にそれくらい信じられないもの。
「だから、レオナール様の気持ちは疑わない。でも、嫉妬はしますよ」
「おや」
「だって、これから王女様がレオナール様に絡むのを近くで見ていなければならないのでしょう? それはやっぱり嫌だもの。我慢はしますけど」
多分、独占欲に近い感覚なんだろうけど、私のレオナール様に触れないでとかは思うもの。それはでも、恋人なんだから当然の権利でしょう?
「という訳で、今回の件が終わったらアランは色々と覚悟しておいてくださいね」
「……まあ、いいでしょう。今回の件に関しては多少の融通くらい働かせても充分な仕事です。リリーをつけると言ってレオナールを動かしている訳ですからね」
よーし、言質取った。それじゃあこれが終わったらちょっとしたわがままを、口にすることくらいは許してもらいましょう。
この数日は毎日レオナール様を手伝っていたから、そっちの仕事はなんとかなるはず。
書類分けたり運んだりって雑用でも、数が多ければとんでもない仕事量だなぁと再確認させられてしまったよ。王太子にやらされた時とじゃ量が違すぎてびっくりした。
というのも、魔法に関わることだから王太子と違って手分けしてやることが難しいというかその手が足りないというか……レオナール様もルーカスさんも、凄い仕事量だった。
困った時にはすぐヴィオラさんが手助けしてくれたし、私もだいたい要領が掴めたから途中で休憩の準備とか出来るようにもなった。とりあえず一日三時間あれば毎日の仕事が片付けられる程度には溜まっていた仕事も片付いたってレオナール様も言ってたし、ひとまず王女につくことに差し障りはなくなったって。
まぁ、感情的なものを考えるとまた違う話にはなるんだけど。
「緊張してる?」
これからのこととか考えていたら、レオナール様が顔を覗き込んでくる。ちょっと心配させるような顔しちゃってたのかな?
「していませんよ? ただ、どんな方なのかと考えていただけで」
「銀の髪、青い目。僕に物怖じしないで話しかけてくる」
美醜に一切拘らないレオナール様らしい表現に思わず苦笑すれば、王女を出迎えるために待機していたアランが声を上げて笑い出す。
「ふ、ふふ。リリーが聞きたいのはそうじゃないでしょう」
「ん? 間違ってる?」
「間違っているというか、本当に興味がないというか」
「興味……」
くすくすと笑い続けるアランに、レオナール様は困ったような顔を向けた。
「興味というか、困る人だし」
「困る人……まあ、実際困っていますよね」
「ん。僕に物怖じしないで声をかけてくれるのは、嬉しい。でも、あの目は好きじゃない。自分が正しいって信じ込んでいるのが、苦手」
レオナール様が苦手って言う人、はじめてじゃない? 嫌いではないけど、好きでもないみたいな複雑な感情ともまた違うよね。
思わずレオナール様を見つめれば、違うんだと何故か焦ったように首を振られた。
「その、好きとかじゃない。僕が好きなのはリリーで、王女を好きになったりじゃないから」
「え? あ、えっと、そこについては別になにも心配してはいませんよ?」
「よかった」
「え、いいんですか?」
ホッとした表情のレオナール様の傍らでギョッとしたようなアランが私を見る。
「嫉妬とかするでしょう。不安になったりとか」
「うーん、普通はそうでしょうけど……レオナール様ですから」
いつも通りの口調で苦笑すれば、アランは少し首を傾げる。
「どうしてそう言い切れるんですか、リリー」
「レオナール様、私が来た時点で凄い女性不信でしたから。私を望んだ理由も、最初は色目使わないで仕事してくれそうだから、ですよ? そんな人が私を特別にしてくれただけでも驚きなのに、他の女性にもってなったら多分月が真昼に輝き出します」
レオナール様はイケメンだし地位もあるし、女性にとっては黒髪にさえ目を瞑ればいい旦那様候補なんだ。だからこそ色仕掛けされたりしたんだけどね。
ちなみに黒髪は生まれながらに精霊と契約を交わし膨大な魔力を持っている証。子供の頃は魔力の暴走によって天災レベルの被害を出すことがあるので、黒髪自体が忌避される傾向にあるし畏怖の対象でもある。
レオナール様も子供の頃はとても苦労したそう。私にとっては懐かしくて大好きな色なんだけどね。
で、大人になって魔力の暴走の危険性が下がったら、当然その優秀さに人々の目が向いていくと。でも子供の頃にうけた仕打ちでなかなか人を信用しにくくなっていたレオナール様は、色仕掛けを繰り返されて見事なまでに女性不信になったそうなんだ。
そんなレオナール様が、ねえ?
「レオナール様が王女様にもそういう気持ちを持つって考えるくらいなら、王太子が実は女性で子持ちですって言われた方がまだ信じられそうです」
「どんな例えですか。エミディオに聞かれたらまた不敬罪って大騒ぎされますよ」
「え、じゃあアランとエミディオが恋人同士だったとか」
「リリー?」
にっこりと圧力たっぷりに微笑みかけられるけど、私にとっては本当にそれくらい信じられないもの。
「だから、レオナール様の気持ちは疑わない。でも、嫉妬はしますよ」
「おや」
「だって、これから王女様がレオナール様に絡むのを近くで見ていなければならないのでしょう? それはやっぱり嫌だもの。我慢はしますけど」
多分、独占欲に近い感覚なんだろうけど、私のレオナール様に触れないでとかは思うもの。それはでも、恋人なんだから当然の権利でしょう?
「という訳で、今回の件が終わったらアランは色々と覚悟しておいてくださいね」
「……まあ、いいでしょう。今回の件に関しては多少の融通くらい働かせても充分な仕事です。リリーをつけると言ってレオナールを動かしている訳ですからね」
よーし、言質取った。それじゃあこれが終わったらちょっとしたわがままを、口にすることくらいは許してもらいましょう。
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