メイドから母になりました

夕月 星夜

文字の大きさ
108 / 124
魔法省で臨時メイドになりました

疑うのと嫉妬は別問題

しおりを挟む
そうしてついにエスティリア王女様が訪問される日になった。
この数日は毎日レオナール様を手伝っていたから、そっちの仕事はなんとかなるはず。
 書類分けたり運んだりって雑用でも、数が多ければとんでもない仕事量だなぁと再確認させられてしまったよ。王太子にやらされた時とじゃ量が違すぎてびっくりした。
というのも、魔法に関わることだから王太子と違って手分けしてやることが難しいというかその手が足りないというか……レオナール様もルーカスさんも、凄い仕事量だった。
 困った時にはすぐヴィオラさんが手助けしてくれたし、私もだいたい要領が掴めたから途中で休憩の準備とか出来るようにもなった。とりあえず一日三時間あれば毎日の仕事が片付けられる程度には溜まっていた仕事も片付いたってレオナール様も言ってたし、ひとまず王女につくことに差し障りはなくなったって。
まぁ、感情的なものを考えるとまた違う話にはなるんだけど。

 「緊張してる?」

これからのこととか考えていたら、レオナール様が顔を覗き込んでくる。ちょっと心配させるような顔しちゃってたのかな?

 「していませんよ? ただ、どんな方なのかと考えていただけで」
 「銀の髪、青い目。僕に物怖じしないで話しかけてくる」

 美醜に一切拘らないレオナール様らしい表現に思わず苦笑すれば、王女を出迎えるために待機していたアランが声を上げて笑い出す。

 「ふ、ふふ。リリーが聞きたいのはそうじゃないでしょう」
 「ん? 間違ってる?」
 「間違っているというか、本当に興味がないというか」
 「興味……」

くすくすと笑い続けるアランに、レオナール様は困ったような顔を向けた。

 「興味というか、困る人だし」
 「困る人……まあ、実際困っていますよね」
 「ん。僕に物怖じしないで声をかけてくれるのは、嬉しい。でも、あの目は好きじゃない。自分が正しいって信じ込んでいるのが、苦手」

レオナール様が苦手って言う人、はじめてじゃない? 嫌いではないけど、好きでもないみたいな複雑な感情ともまた違うよね。
 思わずレオナール様を見つめれば、違うんだと何故か焦ったように首を振られた。

 「その、好きとかじゃない。僕が好きなのはリリーで、王女を好きになったりじゃないから」
 「え? あ、えっと、そこについては別になにも心配してはいませんよ?」
 「よかった」
 「え、いいんですか?」

ホッとした表情のレオナール様の傍らでギョッとしたようなアランが私を見る。

 「嫉妬とかするでしょう。不安になったりとか」
 「うーん、普通はそうでしょうけど……レオナール様ですから」

いつも通りの口調で苦笑すれば、アランは少し首を傾げる。

 「どうしてそう言い切れるんですか、リリー」
 「レオナール様、私が来た時点で凄い女性不信でしたから。私を望んだ理由も、最初は色目使わないで仕事してくれそうだから、ですよ?  そんな人が私を特別にしてくれただけでも驚きなのに、他の女性にもってなったら多分月が真昼に輝き出します」

レオナール様はイケメンだし地位もあるし、女性にとっては黒髪にさえ目を瞑ればいい旦那様候補なんだ。だからこそ色仕掛けされたりしたんだけどね。
ちなみに黒髪は生まれながらに精霊と契約を交わし膨大な魔力を持っている証。子供の頃は魔力の暴走によって天災レベルの被害を出すことがあるので、黒髪自体が忌避される傾向にあるし畏怖の対象でもある。
レオナール様も子供の頃はとても苦労したそう。私にとっては懐かしくて大好きな色なんだけどね。
で、大人になって魔力の暴走の危険性が下がったら、当然その優秀さに人々の目が向いていくと。でも子供の頃にうけた仕打ちでなかなか人を信用しにくくなっていたレオナール様は、色仕掛けを繰り返されて見事なまでに女性不信になったそうなんだ。
そんなレオナール様が、ねえ?

 「レオナール様が王女様にもそういう気持ちを持つって考えるくらいなら、王太子が実は女性で子持ちですって言われた方がまだ信じられそうです」
 「どんな例えですか。エミディオに聞かれたらまた不敬罪って大騒ぎされますよ」
 「え、じゃあアランとエミディオが恋人同士だったとか」
 「リリー?」

にっこりと圧力たっぷりに微笑みかけられるけど、私にとっては本当にそれくらい信じられないもの。

 「だから、レオナール様の気持ちは疑わない。でも、嫉妬はしますよ」
 「おや」
 「だって、これから王女様がレオナール様に絡むのを近くで見ていなければならないのでしょう?  それはやっぱり嫌だもの。我慢はしますけど」

 多分、独占欲に近い感覚なんだろうけど、私のレオナール様に触れないでとかは思うもの。それはでも、恋人なんだから当然の権利でしょう?

 「という訳で、今回の件が終わったらアランは色々と覚悟しておいてくださいね」
 「……まあ、いいでしょう。今回の件に関しては多少の融通くらい働かせても充分な仕事です。リリーをつけると言ってレオナールを動かしている訳ですからね」

よーし、言質取った。それじゃあこれが終わったらちょっとしたわがままを、口にすることくらいは許してもらいましょう。

しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

メイドから母になりました 番外編

夕月 星夜
ファンタジー
メイドから母になりましたの番外編置き場になります リクエストなどもこちらです

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。