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魔法省で臨時メイドになりました
守られるだけなんて性に合わない
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羞恥と困惑におろおろしていたら、ごめんと小さな声が聞こえてくる。
「リリーの気持ち知りたくて、つい」
「……その言い方だと、もしかして」
「そもそも寝てない」
つまり最初から全部私の気持ちとか諸々聞かれていた訳ですね!
やだもう穴掘って埋まりたい、なにこの羞恥プレイ。
「グレイさん、恨みます」
「ごめん。寝てるとばっかり思って、ちょ、泣かないで!」
「泣いてません!」
泣いてないです、半泣きなだけで泣いてないですって、うわっ!?
「リリー、泣いてるの?」
「泣いてないですから、あの、この体勢やめてください」
ぐるっと体ごとレオナール様に向き直されて、顔を至近距離で覗かれる。
心配そうな顔だけど、それよりこの状況で親密さをアピールするようなことをされてもですね。
「とりあえずレオナール様、離してください」
「嫌だ」
ため息と共にお願いしたら、まさかの拒絶が返ってきた。
「レオナール様?」
「リリーが足りない」
「足りないって……」
あんまりな言い草に絶句すると、弾けるような笑い声が響く。振り向けば、ウィレムさんがお腹を抱えて笑っていた。
「おま、そんなに王女が嫌だったのか」
「嫌というか、リリーを遠ざけようとするから」
「でもあれだろ? 上手くいかなかったんだろ?」
「阻止したけど、苛々してる」
……ええと、なに? 王女様があれこれ質問をすることで私を遠ざけようとしたことに腹を立てていたと。うん、それはわかった。
で、なんで私が足りないってなるの?
きょとんとしていたら、困ったような顔のレオナール様と目が合う。
「リリー、ごめん。嫌な思いさせた」
「別にしてないですよ?」
いや、本当に。あの王女様の本当に悲しそうな瞳が忘れられないだけで。
でも一度も私に嫉妬や敵意を向けてこないんだよね。それが不思議なんだけど、それはとりあえず忘れておこう。
「確かに王女様がレオナール様に想いを寄せているのはよくわかりましたが、最初を除いてレオナール様はずっと私と一緒にいてくださいましたし」
うん、だからなんでレオナール様は不機嫌そうな顔になるのかな。
「リリーちゃんって、複雑な男心がわかってないわね」
やれやれと言うようにヴィオラさんが首を振る。その隣でウィレムさんも頷いているんだけど、ええと。
「わかってない、ですか」
「そうよ。惚れた女にちょっとでも嫌な思いをさせたくないってことも、少しぐらい嫌だってって自分に対する独占欲を見せて欲しいってことも、わかってないでしょう?」
なんだそれ、と正直思ってしまったけど。そっぽを向いているレオナール様からすると、ヴィオラさんの解説が正解なのかな。
でも、申し訳ないんだけど……ちょっと拗ねるぞ、それ。
「つまり、レオナール様にとって私は囲い込んで守らないと駄目な弱いだけの女だと」
「リリー?」
「王家のメイドとしての実績も、レオナール様を支えて一緒に歩みたいと思う私の気持ちも全部無視してただ家でおとなしく帰りを待つだけの女でいればいいと」
あ、と呟いたのは多分ルーカスさんで、レオナール様はちょっとオロオロして私を見ているけど、だってさぁ。
「私は、確かに魔力がないし兄のように強いわけでもないけど、無力なだけの女の子じゃありません。もしそうなら、王家のメイドとして王太子に認められるはずがない。あの方は、実力を持つ人を認めてくれる人だから」
私が持つ武器は直接戦えるものではないけれど、相手の力を削いだり混乱させたりは出来る情報とツテ。それだって使い方次第で充分戦える武器になるでしょう?
「私は、レオナール様に守られたいんじゃない。一緒に歩いていきたいのに」
それは駄目なの? と首を傾げてみせれば、レオナール様がうっと小さく呻いた。
「……リリー、僕は」
「王女様が本当にレオナール様を好きなんだと、よくわかりました。とても可愛らしいお顔を悲しみに曇らせてしまっていることに罪悪感も感じています。それでも、私はレオナール様の隣を譲るつもりはありません」
私だってレオナール様が好きだから。この気持ちは、誰にも負けない自信がある。
「だから、置いていこうとしないで。一緒に歩かせてくださいね」
「……リリーは、凄い」
しばらくジッと私を見つめていたレオナール様だけど、ふっと息を一つ吐いて微笑を浮かべる。
「もやもやも、嫌な気持ちも、全部飛んでった。ん、そうだね、一緒にいよう。僕だってリリーがいてくれる方が、強くなれるんだし」
「魔法ではお役に立てませんが、情報網くらいならどうにかしてみせます。あと対人関係においても多少のツテはありますので」
「それ凄い助かる」
ん? あれ? 最後のレオナール様の声に被って複数の声が聞こえて来たよ?
「リリーの気持ち知りたくて、つい」
「……その言い方だと、もしかして」
「そもそも寝てない」
つまり最初から全部私の気持ちとか諸々聞かれていた訳ですね!
やだもう穴掘って埋まりたい、なにこの羞恥プレイ。
「グレイさん、恨みます」
「ごめん。寝てるとばっかり思って、ちょ、泣かないで!」
「泣いてません!」
泣いてないです、半泣きなだけで泣いてないですって、うわっ!?
「リリー、泣いてるの?」
「泣いてないですから、あの、この体勢やめてください」
ぐるっと体ごとレオナール様に向き直されて、顔を至近距離で覗かれる。
心配そうな顔だけど、それよりこの状況で親密さをアピールするようなことをされてもですね。
「とりあえずレオナール様、離してください」
「嫌だ」
ため息と共にお願いしたら、まさかの拒絶が返ってきた。
「レオナール様?」
「リリーが足りない」
「足りないって……」
あんまりな言い草に絶句すると、弾けるような笑い声が響く。振り向けば、ウィレムさんがお腹を抱えて笑っていた。
「おま、そんなに王女が嫌だったのか」
「嫌というか、リリーを遠ざけようとするから」
「でもあれだろ? 上手くいかなかったんだろ?」
「阻止したけど、苛々してる」
……ええと、なに? 王女様があれこれ質問をすることで私を遠ざけようとしたことに腹を立てていたと。うん、それはわかった。
で、なんで私が足りないってなるの?
きょとんとしていたら、困ったような顔のレオナール様と目が合う。
「リリー、ごめん。嫌な思いさせた」
「別にしてないですよ?」
いや、本当に。あの王女様の本当に悲しそうな瞳が忘れられないだけで。
でも一度も私に嫉妬や敵意を向けてこないんだよね。それが不思議なんだけど、それはとりあえず忘れておこう。
「確かに王女様がレオナール様に想いを寄せているのはよくわかりましたが、最初を除いてレオナール様はずっと私と一緒にいてくださいましたし」
うん、だからなんでレオナール様は不機嫌そうな顔になるのかな。
「リリーちゃんって、複雑な男心がわかってないわね」
やれやれと言うようにヴィオラさんが首を振る。その隣でウィレムさんも頷いているんだけど、ええと。
「わかってない、ですか」
「そうよ。惚れた女にちょっとでも嫌な思いをさせたくないってことも、少しぐらい嫌だってって自分に対する独占欲を見せて欲しいってことも、わかってないでしょう?」
なんだそれ、と正直思ってしまったけど。そっぽを向いているレオナール様からすると、ヴィオラさんの解説が正解なのかな。
でも、申し訳ないんだけど……ちょっと拗ねるぞ、それ。
「つまり、レオナール様にとって私は囲い込んで守らないと駄目な弱いだけの女だと」
「リリー?」
「王家のメイドとしての実績も、レオナール様を支えて一緒に歩みたいと思う私の気持ちも全部無視してただ家でおとなしく帰りを待つだけの女でいればいいと」
あ、と呟いたのは多分ルーカスさんで、レオナール様はちょっとオロオロして私を見ているけど、だってさぁ。
「私は、確かに魔力がないし兄のように強いわけでもないけど、無力なだけの女の子じゃありません。もしそうなら、王家のメイドとして王太子に認められるはずがない。あの方は、実力を持つ人を認めてくれる人だから」
私が持つ武器は直接戦えるものではないけれど、相手の力を削いだり混乱させたりは出来る情報とツテ。それだって使い方次第で充分戦える武器になるでしょう?
「私は、レオナール様に守られたいんじゃない。一緒に歩いていきたいのに」
それは駄目なの? と首を傾げてみせれば、レオナール様がうっと小さく呻いた。
「……リリー、僕は」
「王女様が本当にレオナール様を好きなんだと、よくわかりました。とても可愛らしいお顔を悲しみに曇らせてしまっていることに罪悪感も感じています。それでも、私はレオナール様の隣を譲るつもりはありません」
私だってレオナール様が好きだから。この気持ちは、誰にも負けない自信がある。
「だから、置いていこうとしないで。一緒に歩かせてくださいね」
「……リリーは、凄い」
しばらくジッと私を見つめていたレオナール様だけど、ふっと息を一つ吐いて微笑を浮かべる。
「もやもやも、嫌な気持ちも、全部飛んでった。ん、そうだね、一緒にいよう。僕だってリリーがいてくれる方が、強くなれるんだし」
「魔法ではお役に立てませんが、情報網くらいならどうにかしてみせます。あと対人関係においても多少のツテはありますので」
「それ凄い助かる」
ん? あれ? 最後のレオナール様の声に被って複数の声が聞こえて来たよ?
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