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序章
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「こんにちは」
午後の陽射しがやわらかな秋の日。
少々遠慮がちに声を掛けながら、ゆっくりと歩みを進める。
やっとの思いで辿り着いたバンガローの村。しかし、家屋などはあるものの人影らしきものは何一つなかった。つい先程まで生活していた様子はあるのだ。いや、今そこに人々が生活を営んでいても何らおかしくはない。家畜もいるし、愛玩動物らしきものもいる。
(なのに、何故?)
まさにその空間から「人間」のみが取り除かれたかのようだ。
「どうしよう」
打つ手無し、だ。
今までの旅の疲れが、重く肩にのしかかる。最後の希望が大きく崩れさった。
けれど、完全には信じがたいのも事実だ。この風景を見たら、誰でもそう感じずにはいられないであろう。
(もう少しここにいよう)
誰か来るかもしれない。という、多少の期待も、もちろんあるが、それ以上に、これから夜の山を一人で降りるほどの勇気と気力は、今の彼女には残されていなかった。
もう一つ。これからの目的地がなかった。何をしていいのか解らないのだ。一人でベナグラード最高司令官であるバズラロードへ立ち向かっても、虚しく破れ去るだけであろう。今のソフィアには、お転婆と農作業で鍛え上げられた健脚。それに、近衛神官セルシオに習った少々の魔法。それだけである。
科学の力というものが、はたしてどれほどのものなのか。城で見た力が最高峰のものなのか。そんな謎だらけの世界へ踏み込もうとしているわけだ。出来る限りの準備はして行きたい。
少なくとも、今の状態が「出来る限り」であるとは、彼女にはどうしても思えない。
西に傾き始めた日を横目で確認すると、ソフィアは、とりあえずの落ち着く場所を探しに、再び歩みを進めた。
「ふぅ―」
奥まった一角。明らかに永い期間、人の手の加わっていない小屋が、忘れ去られたようにひっそりと佇んでいた。
「ここなら平気だよね」
やはり無断で人家に入るのが忍びなかったソフィアは、人の気配がないか、周囲に気を巡らせつつ、この埃にまみれた小屋まで来た。
しかし、やはりとうか、当然というか。人の気配はどこにもなかった。
人間は過去の出来事を糧としているものだ。
街も過去を糧として成長してゆく―――。
山の木々もそろそろ秋の晴れ着から冬の衣装へと衣替えを始める。
午後の陽射しがやわらかな秋の日。
少々遠慮がちに声を掛けながら、ゆっくりと歩みを進める。
やっとの思いで辿り着いたバンガローの村。しかし、家屋などはあるものの人影らしきものは何一つなかった。つい先程まで生活していた様子はあるのだ。いや、今そこに人々が生活を営んでいても何らおかしくはない。家畜もいるし、愛玩動物らしきものもいる。
(なのに、何故?)
まさにその空間から「人間」のみが取り除かれたかのようだ。
「どうしよう」
打つ手無し、だ。
今までの旅の疲れが、重く肩にのしかかる。最後の希望が大きく崩れさった。
けれど、完全には信じがたいのも事実だ。この風景を見たら、誰でもそう感じずにはいられないであろう。
(もう少しここにいよう)
誰か来るかもしれない。という、多少の期待も、もちろんあるが、それ以上に、これから夜の山を一人で降りるほどの勇気と気力は、今の彼女には残されていなかった。
もう一つ。これからの目的地がなかった。何をしていいのか解らないのだ。一人でベナグラード最高司令官であるバズラロードへ立ち向かっても、虚しく破れ去るだけであろう。今のソフィアには、お転婆と農作業で鍛え上げられた健脚。それに、近衛神官セルシオに習った少々の魔法。それだけである。
科学の力というものが、はたしてどれほどのものなのか。城で見た力が最高峰のものなのか。そんな謎だらけの世界へ踏み込もうとしているわけだ。出来る限りの準備はして行きたい。
少なくとも、今の状態が「出来る限り」であるとは、彼女にはどうしても思えない。
西に傾き始めた日を横目で確認すると、ソフィアは、とりあえずの落ち着く場所を探しに、再び歩みを進めた。
「ふぅ―」
奥まった一角。明らかに永い期間、人の手の加わっていない小屋が、忘れ去られたようにひっそりと佇んでいた。
「ここなら平気だよね」
やはり無断で人家に入るのが忍びなかったソフィアは、人の気配がないか、周囲に気を巡らせつつ、この埃にまみれた小屋まで来た。
しかし、やはりとうか、当然というか。人の気配はどこにもなかった。
人間は過去の出来事を糧としているものだ。
街も過去を糧として成長してゆく―――。
山の木々もそろそろ秋の晴れ着から冬の衣装へと衣替えを始める。
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