現実(いま)を感じて

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第一章 仲間

港町エルシール

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元グラッセル領、最大の港町、エルシール。
ソフィアは、今、この街の一角に居る。

ベオグラード帝国の領土となった、この地での行動は危険かと思ったが、帝国内で彼女の素顔を知るものはほとんど居ない。
王国独特の訛は隠せないが、この地はもともとグラッセル王国領である。
 ここは、活動拠点にうってつけの街だ。
この地だけでなく、他国からの情報も豊富である。

「おい。行ってみようぜ!」
そう言って、指差す一角。
何やら、小さな騒動が起きているようだ。

 彼の名は、ラルフ・シード・フェルナンデス。身の丈一八〇センチの細身な体型。幼き頃から、忍術、体術を鍛えこまれた体は、無駄な筋肉が一切ない。
 彼は、幼少時代に、王国一番の剣士ジェラヌスから手解きを受けているのである。
十年以上昔のこととはいえ、五年一緒に遊んだ仲なのだ。傍から見ても、兄弟のように仲が良かったのだという。

 長老は、当初、「王国の各地を巡回する」という、彼女の申し出に戸惑った。
ベオグラードの領土となった元王国領で、ソフィアが姿を見せることは、非常に危険である。何せ、彼女の遺体はどこからも見つかっていないのである。
しかし、バズラロードは、年の近い女性を生贄にすることで、事実を偽装した。
 陰で捜索活動は続けているものの、公には、グラッセル王族は壊滅したこととなっている。これにより、グラッセル王国の民を臣従させたのだ。
 が、表面的だけである。
 本当に臣従させるには、まだ時が必要だ。

確かに、彼女が健在なことを知ることで、王国の民は、勇気付けられる。逆に混乱を招く結果となるかもしれないが、彼女なら大丈夫だろう。
 悩んだ末、ラルフを供につけることで、同意した。
 年は、一九と若いが、天性の才能だろうか。バンガローの村一番の剣の使い手だという。
 経験のなさに不安は残るが、幼年時代の幼馴染という点から、ソフィアの良き兄貴分となってくれるだろうとの配慮で、彼を選出するに至った。

「帝国兵も居るみたいだけど、大丈夫?」
「大丈夫さ。ソフィアの顔を知ってる奴なんざ、いないって」
 そう言って、ぐんぐん進んでゆく。
 不安を隠しきれないソフィアであったが、一人になるよりはましだ。
 彼の後を着いてゆく。


             2


 春の日差しが眩しい。
 夕暮れ時には、少し肌寒さを感じるが、午前中の空気はすがすがしい。
心地よい風に吹かれ、心にも落ち着きを覚える。

 ここ、エルシールの街は、街道が石畳で舗装され、大通りの両端には、一定間隔で木々が植えられている、異色漂う街並みだ。
『他国に恥じない、港街を!』
 を、コンセプトに、稀代の名匠レオナルドが、設計、開発を全面的に担当して出来上がった街だ。
風光明媚な街として、三本の指に数えられる。
 この、光景だけは、今も昔も変わってはいない。

 大通りの突き当たりを右へ曲がると港となる。
ざわめきは、今ほど停泊した旅客船からのようだ。
それにしても、ものすごい人だかりである。人垣に阻まれ、中心部を伺うことはできないが、警備兵の槍や刀が見え隠れしている。
「何があったんですか?」
 人垣の最後部へ辿り着くと、傍らにいた中年女性に声をかける。
「何でも、グラッセル王族の生き残りがいたそうよ。」
「えっ・・・・・」
 一瞬にして、ソフィアの背筋が凍りつく。
「あれから、三年も経つのにねぇ。何でも反乱を企てていたとかで・・・」
 中年女性は、さも驚いたように、続ける。
「・・・・・・」
 頭の中が真っ白になる。
 王族の生存。
 反乱。
 私の他にも、生存者がいる。
 今にも駆け出しそうな彼女を、無言でラルフが静止する。
 寸でのところで、留まる。
 今、駆け出したら、これまでの情報収集が水の泡になってしまう。同志の意を無駄にしてしまうことになる。
 ラルフも拳を握り締め、体を震わせている。
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