現実(いま)を感じて

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第一章 仲間

レジスタンス

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その夜――。


同志の集会が開かれる物流倉庫の地下室。
緊急の会合が開かれた。

議題は、もちろん、昼間の旅客船の騒ぎについてである。


 同志は、レジスタンスという名の秘密結社として活動している。現在、154名の同志が所属しており、そのほとんどが、先のベオグラードの侵攻によって家族を失ったものや王国の兵たちである。その中に、バンガロー村の長であるコリドラス長老もいる。
 若いソフィアには、国王の息女として、レジスタンスの中心とはなりえるが、状況を判断し、組織全体をまとめる力はない。レジスタンスは、ソフィアという精神的支柱、コリドラス長老という司令塔がいることで、組織の方向性、まとまりを維持できているのである。
 レジスタンスには、当然ながら皆の生活を維持できるほどの糧はない。皆、昼間はそれぞれの生活のため、仕事を持っている。あるものは、商いを営み、またある者は農業に従事する。漁師として、長い間海に出ているものや、エルシールの街役場に勤めているものもいる。


「捕まったのは、王族じゃないらしいぞ!」
街でパン屋を営んでいるクラークが声を上げた。
クラークは、40半ばの髭面で体格も良く強面だが、気の優しさから、周囲からの情報収集能力は高い。もとは、王国の兵士だったが、その情報収集能力の高さから、パン屋としてベオグラード兵との関係を築き、ベオグラード内の情報も仕入れてくる。

「どういうこと?」
ソフィアが口を開く。
ざわついていた部屋が静まる。

一斉に、皆クラークへ視線を向ける。


「どうやら、グラッセル王族を名乗って、国を乗っ取ろうとの魂胆だったらしい。
大衆には、王族の全員を知ることは不可能。王族を語ることで、グラッセルの民衆を味方にして、蜂起を促していたようだ。
ただ、すでに拠点としていたアズルの街もベオグラードによって壊滅されたそうだ。」

「そんな・・・・・・」


「帝国はこれを利用しようとしている。」
一呼吸おくと、コリドラス長老が口を開いた。

一瞬ざわついた地下室が、先ほどにもまして静まり返る。

「今回の奴は、何の計画性もない浅はかで愚かな行為だったが、帝国への不満は民衆の中で広がっている。
これは、我らグラッセルの民だけじゃない。
ダトニオもそうじゃが、ベオグラードの民にも広がっている。

以前のベオグラード王は、よく民衆を理解していたが、今権力を握っているバズラロードは、恐怖政治を行っている。
それだけじゃない。
確かに利便はもたらしているが、貧富の格差が急速に広がおる。
富める者は富み、その一方で家も持たぬ民も多い。
このエルシールだったそうじゃ。
見た目は華やかで賑わっているが、高い塀に囲まれた向こう側はどうじゃ。」


確かに・・・。
ベオグラード帝国が支配し、異国との貿易が盛んになりだした頃からだろうか。
このエルシールの街にも、城壁とは言わないまでも大きな壁が出来たのは・・・

壁との境界には、物々しい検問所が設けられ、一般人が通ることは許されていない。
農作物は、壁の向こうから届くらしいが、そのやり取りを見たものはいない。

まるで、何かを隠しているようだ。

ただ、この街に、それに異を唱えるものはいない。


「なぜ、今回、帝国がこれほど大々的に騒ぎになるような方法をとったかじゃ。
考えられるのは、これら民衆の不平不満を恐怖によって押さえつけるためじゃ。

反乱軍は、彼らの集団だけではないじゃろう。
我々もじゃが、未だ収まらぬ反乱の目を、この機に一気に炙り出し、壊滅させるのが、
今回の騒動の真の目的じゃと考えられる。

そう考えると、今回の騒動は、あるいは帝国の偽装工作かもしれん。

アズルの街じゃ、エルシールからではあまりに遠方で、情報なぞは、そうそう入ってこん。

噂話として、反乱軍の警告とすることも、兵士への警戒心の引き締めにも、地理的に理想的ということじゃな。」


長老の話が一段落しても、皆、神妙な面持ちのまま微動だにしない。

それもそのはず。
今回は、たまたま違っただけであり、同志や自分がいつ捕まってもおかしくない状況だ。長老の言うように、今回の件により、警戒はいっそう強まることが予想される。兵士の目もいっそう厳しくなるはずだ。



いつもは、会合の後に宴が催されるのだが、誰もそんな気分になれないらしい。一人また一人と、ソフィアとコリドラス長老に頭を下げ、地価倉庫を後にする。
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