想い出はいつも

TESH

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序章

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 あれは同窓会当日、夜十時くらいの出来事。
「隆博。電話ー!」
 一階から母の声が響く。
「はぁ~い。今行くーっ!」
 誰だろ?今頃。
 などと思いつつ、階段を降りる。
「もしもし、お電話代わりました」
「あ、結城君。片桐だけど。こんばんは」
 えっ?一瞬、心の中に動揺が生まれる。
「こんばんは」
「ごめんね。突然、電話しちゃって」
「いや、そんなことないけど」
 だって、本当はすごく嬉しいんだもんね。
 ホント久しぶりなんだよ。彼女から電話がかかってくるの。
「ほら、卒業式に撮った写真あるでしょ。あれね。手紙添えて送るから。楽しみに待ってて」
「あ、うん」
「じゃ、今日はもう遅いから」
「うん」
 本当は話したいこといっぱいあったのに。もっともっと声聞きたかったのに。
「おやすみ」
「おやすみ」
 カチャ。
 希望は儚く散った。
 でも、何だったんだろ?突然電話してきたりして。
「誰から?」
 自分の部屋に戻ると、中学三年の同窓会帰りに寄った菊池が言った。
「え?あ~、ずっと前に話した一つ上の真由ちゃん」
 一応親友と思っているだけあって、ほとんどすべてを話している(つもり……)。
 相手は俺のことどう思っているのか知らないけれど。
「何だって?」
「卒業式に一緒に撮った写真、手紙添えて送ってくれるって」
「それだけ?」
「それだけ」
 ふ~ん、っといった面もちで、何か言いたそうだけれど。
 俺だって、突然電話がきたりして、何が何だか。
 彼女の名前は、片桐真由紀。高校の一つ先輩で、別に部活が同じわけでもないし、登下校の電車が一緒なわけでもない。昨年の秋、英語のスピーチコンテストでたまたま知り合っただけなのだ。
 最も、人の出逢いなんてものは、十の四六乗分の一位だとも言われているくらいだし。
 もちろん、自分の性格から言っても、最初からペラペラ話せたわけではない。むしろ、スピーチコンテストが終わってからの方が話すようになった。
 原因は、ワープロ。友人の誘いでワープロ検定を受けることになった俺は、ワープロ部の顧問に許可を取り、放課後ワープロ室へ通うようになった。
 授業では決して使うことのないワープロ室。扱い方など知るわけもなく、ただただワープロと睨み合っていた。
 彼女がワープロ部員だということは知っていた。ただただワープロと睨み合っている俺に見ていられなくなったのか、それからというもの、放課後ワープロ室へ行くたびに面倒をみてくれるようになった。
 偶然、帰る方向も途中まで同じだったため、一緒に帰ることも少なくなかった。
 なぜか妙に気が合った。音楽のこと、趣味のこと。
 そして……
 そんな彼女を見ているうちにだんだんと気持ちが揺らいでいった。
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