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第一章 出逢いはいつも突然に
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「――stress at sometimes in the lives……」
キーンコーンカーンコーン
スピーチが終わるのとほぼ同時にチャイムが鳴り響く。
「では、ここまで」
「起立」
ガタガタガタ
「礼」
九月の初め。みな夏休みの気分が抜けていないみたいだ。
何となくボーっとしている。
ただ、休み時間は別。
わいわい、がやがや。授業とはうってかわって賑やか。……というよりは、うるさいと言った方が適しているのかもしれない。
「結城」
「あ、はいっ!」
先程の緊張がまだ抜けきっていないのに突然、教師に呼ばれたものだから、少々びっくり。
その教師の名を、田中という。
身長は一八〇センチ後半といったところか。俺と並ぶと三〇センチくらいの開きがある。
骨ばっていると言ってよいくらい痩せぎすで、髪を七三的に分けている。
が、あまりしっかりとは纏まっておらず、ボサボサな印象をうける。
少々高めのスラリとした鼻に、ごく普通の眼鏡を乗せている。
今年四〇歳になるベテラン教師だ。
話し方は、英語に接している部分が多いせいか、かなり訛った感じの独特のイントネーションを持っている。
不思議に思いながらも、とりあえず席を立ち、そこまで行ってみた。
「スピーチコンテストに出てみないか」
思いがけない一言に内心の動揺が隠せなかった。
「は……い?」
どうに答えて良いのか分からず、意味不明な返答をしてしまった。
「じゃ、放課後職員室に来てくれ。」
「……」
これって、結構やばいかも。
たく、冗談じゃないぞ。俺は英語が大嫌いなんだぞ!
そうは思ったが、自分には言える訳もなく……。
先の返答通り、結局放課後職員室に行くことになってしまった。
今思えば、これが残りの高校生活を大きく変えることになった最初の出来事だったのだが、その時はまだ気づくわけもなく。
「失礼します」
職員室のドアを開けると、ひんやりとして心地よい風が頬を駆け抜けて行く。
クーラーのせいだ。
「先生、参りました」
「おお、来たか、結城。今日時間あるか?」
「あ、はい」
……て、もしかして。
「じゃ、少し練習するか」
やっぱし。
俺は英語が苦手だっていうのに。
誰も信じちゃくれない。
残暑がまだ抜けきらない九月上旬。
夕暮れが西の遠方からやってくる。
何カ月ぶりだろうか。影がこんなにも長く伸びるまで学校にいるのは。
いや、校舎内に残るのは初めてではないだろうか。
野球部員だった頃は、グラウンドの土の上だったから。
ま、それも二ヶ月余りだったが……。
「よし、今日はこのくらいにしておくか」
「あ、はい」
いつもながら、本当にたよりない返事だ。
「結城、明日も時間あるか?」
「あ、たぶん」
「じゃあ、また放課後、職員室に来てくれ」
「あ、はい。では、失礼します」
「気をつけてな」
「はい」
トントン
静まり返った廊下は靴音が響く。
誰もいない校舎はこんなにも静寂に包まれていたんだ。
改めて関心しながら、薄暗くなった階段を降り、下駄箱へと向かう。
秋の夕暮れは早い。
先程まで顔をのぞかせていた西日は、もはや山の端に見え隠れしている。
夜道はなぜかのんびりできる。
人気がないせいかもしれない。
何かやけに長い一日だったような。
自転車をこぎながらふと、そんなことを考えていた。
キーンコーンカーンコーン
スピーチが終わるのとほぼ同時にチャイムが鳴り響く。
「では、ここまで」
「起立」
ガタガタガタ
「礼」
九月の初め。みな夏休みの気分が抜けていないみたいだ。
何となくボーっとしている。
ただ、休み時間は別。
わいわい、がやがや。授業とはうってかわって賑やか。……というよりは、うるさいと言った方が適しているのかもしれない。
「結城」
「あ、はいっ!」
先程の緊張がまだ抜けきっていないのに突然、教師に呼ばれたものだから、少々びっくり。
その教師の名を、田中という。
身長は一八〇センチ後半といったところか。俺と並ぶと三〇センチくらいの開きがある。
骨ばっていると言ってよいくらい痩せぎすで、髪を七三的に分けている。
が、あまりしっかりとは纏まっておらず、ボサボサな印象をうける。
少々高めのスラリとした鼻に、ごく普通の眼鏡を乗せている。
今年四〇歳になるベテラン教師だ。
話し方は、英語に接している部分が多いせいか、かなり訛った感じの独特のイントネーションを持っている。
不思議に思いながらも、とりあえず席を立ち、そこまで行ってみた。
「スピーチコンテストに出てみないか」
思いがけない一言に内心の動揺が隠せなかった。
「は……い?」
どうに答えて良いのか分からず、意味不明な返答をしてしまった。
「じゃ、放課後職員室に来てくれ。」
「……」
これって、結構やばいかも。
たく、冗談じゃないぞ。俺は英語が大嫌いなんだぞ!
そうは思ったが、自分には言える訳もなく……。
先の返答通り、結局放課後職員室に行くことになってしまった。
今思えば、これが残りの高校生活を大きく変えることになった最初の出来事だったのだが、その時はまだ気づくわけもなく。
「失礼します」
職員室のドアを開けると、ひんやりとして心地よい風が頬を駆け抜けて行く。
クーラーのせいだ。
「先生、参りました」
「おお、来たか、結城。今日時間あるか?」
「あ、はい」
……て、もしかして。
「じゃ、少し練習するか」
やっぱし。
俺は英語が苦手だっていうのに。
誰も信じちゃくれない。
残暑がまだ抜けきらない九月上旬。
夕暮れが西の遠方からやってくる。
何カ月ぶりだろうか。影がこんなにも長く伸びるまで学校にいるのは。
いや、校舎内に残るのは初めてではないだろうか。
野球部員だった頃は、グラウンドの土の上だったから。
ま、それも二ヶ月余りだったが……。
「よし、今日はこのくらいにしておくか」
「あ、はい」
いつもながら、本当にたよりない返事だ。
「結城、明日も時間あるか?」
「あ、たぶん」
「じゃあ、また放課後、職員室に来てくれ」
「あ、はい。では、失礼します」
「気をつけてな」
「はい」
トントン
静まり返った廊下は靴音が響く。
誰もいない校舎はこんなにも静寂に包まれていたんだ。
改めて関心しながら、薄暗くなった階段を降り、下駄箱へと向かう。
秋の夕暮れは早い。
先程まで顔をのぞかせていた西日は、もはや山の端に見え隠れしている。
夜道はなぜかのんびりできる。
人気がないせいかもしれない。
何かやけに長い一日だったような。
自転車をこぎながらふと、そんなことを考えていた。
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