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氷騎士烈闘篇
理論と実践
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百合香は、自分の内側から湧き出すエネルギーが一体何なのかは、まだ理解していない。しかし、その”使い方”は、戦いの中で少しずつ掴んで来ていた。
それは、ある時は感情の爆発で、またある時は戦いの過程で、そしてまたある時は、言葉によって理解してきた。マグショットもまた、百合香を導くヒントを与えた一人だった。
『力の使い方ですって?』
瑠魅香は、突然に徒手空拳での戦い方を覚えた相方に対して、驚愕を禁じ得ないでいた。
「簡単な事だったのよ」
百合香は起き上がってくる氷の巨漢に対して、自己流の構えを取っていた。
「ホアッ!!」
巨漢は、百合香へのお返しとばかりに回し蹴りを浴びせてきた。それは凄まじい速度と風圧を伴ったもので、まともに喰らえば絶対にただでは済まない。
しかし、百合香はその動きを一瞬で見切っていた。
「ふん!」
百合香は攻撃をかわすと、その脚を掌底で払い、相手がバランスを崩した瞬間を狙って軸足に強烈な足払いをかけた。巨漢は再びバランスを崩して、倒れかける。すんでの所で転倒は避けたものの、百合香は浮いた左腕を脇で抱えて思い切りねじった。
「アギャァァァァ!!!!」
痛みがあるのかどうかはわからないが、巨漢は苦しんでいる。百合香は肘鉄でその巨体を押すと、さらにそこへ肩を使って体当たりを食らわせた。巨漢は大きく弾かれて、太い柱に叩きつけられた。
それを見て驚いているのは、マグショットだった。
「あいつ…さっきまでド素人だったというのに」
「よそ見をしているヒマがあるか!!」
オブシディアンが突きを入れてくる。マグショットはそれを受け流すと、胴体に掌底を打ち付けた。
「ごはっ!」
「ふん、貴様の実力も大した事はないな」
「さて、それはどうでしょうな」
「なに?」
オブシディアンの自信ありげな態度に何かを感じたマグショットは、警戒して距離を取った。
「行きますよ」
そう言うと、オブシディアンは全身に何か、青紫のオーラのようなものを溜め始めた。周囲の気流がオブシディアンに集中する。
「ヒョウッ!!!」
オブシディアンが腕を払うと、目に見えない冷気の刃がマグショットを襲った。
「ぬっ!」
マグショットはギリギリのところで気流の変化を読み、その目に見えない刃を弾いた。しかしその隙を狙って、オブシディアンがリーチを詰めてくる。
「!」
「ホヤッ!!!」
マグショットの腹に、思い切りオブシディアンはツキを入れた。
「がっ!!」
マグショットは後方に弾き飛ばされ、太い梁に背中を打ち付けた。
「マグショット!」
その様子を見ていた百合香は叫ぶ。しかし、マグショットは立ち上がって叫んだ。
「他人の戦いを気にしているヒマがあるか!そのデカブツは任せたぞ!」
「な…私にさんざん口出ししてきたくせに!」
「何でもいい!お前の力、今こそ見せてみろ!!」
これだけ声を張り上げられるなら大丈夫そうだと思った百合香は、目の前にいる巨漢を倒すのに集中する事にして、改めて構えを取った。
「拳法は知らないけど、バスケの動きなら知っている!!」
そう言って、百合香は再び突進してきた巨漢の横に素早く飛び込んだ。そう、百合香はバスケットボールの試合での動きを、拳法に応用しているのだ。
「せい!」
鮮やかに身体を回転させ、その後頭部に上段からの回し蹴りを叩き込む。前進していた所に後方から蹴りを入れられた巨漢は、そのままの勢いで壁に向かって自ら上半身をしたたかに打ち付けた。百合香は、むき出しになった腰椎に飛び蹴りをくらわせる。嫌な音がして、巨漢はそのまま壁にもたれて呻いていた。
『今だよ、百合香!頭だ!頭部を破壊された者は失格となる!!』
どこかで聞いたセリフを瑠魅香は言った。どこで聞いたのか思い出せない。百合香は、胸に太陽のエネルギーボールを出現させると、それをがっしりと掴んで高く飛び上がった。
「『バーニング・ダンクショット!!!!』」
上方から、全力を込めて燃え盛るボールを巨漢の頭に打ち付ける。ボールは大爆発を起こして、壁や柱もろとも巨漢の上半身を粉砕してしまった。
「ふーっ」
もうもうと熱風が立ち込める中、百合香は腰のあたりに両拳を構え、漲っている気を落ち着けた。
「くっ…まさか、そんな馬鹿な」
オブシディアンは、差し向けた巨漢が破られた事に相当驚いているようだった。マグショットが一歩進み出る。
「どうやら、予想外だったようだな。次はきさまの番だ。ノシを付けて今のお返しをさせてもらうぞ」
「ふん」
突然構えを解いたオブシディアンは、百合香を見下ろして言った。
「いいでしょう。改めておもてなしをさせていただきます。この先に宴の間を用意しておきますので」
「待て!」
「そう焦らず。私は逃げも隠れもいたしません」
そう言うと、オブシディアンは青白い光に包まれ、あっという間に姿を消してしまったのだった。
「ぬっ!」
マグショットが消えたあとを追うも、すでにオブシディアンの気配はこの部屋からは消え去っていた。
「幻術か。器用なやつめ」
マグショットは構えを解くと、床に降り立って百合香に向き合った。
「見事だった」
それは、何の飾りもない、素の言葉だった。
「しかし、にわかには信じられん。一体どうやって、あのような戦い方を一瞬のうちに体得したのだ」
「細かい事は、私もよくわからない。体捌きは、バスケットボールの応用よ」
百合香は、弾き飛ばされたアグニシオンを拾いながら言う。
「あなたの言葉がヒントになった」
「俺の言葉?」
「うん。剣に頼るな、って言ったでしょ」
聖剣アグニシオンを見つめながら、百合香は言う。
「私はいままで、自分の内側にあるエネルギーを、常にこの剣に叩きつけてきたの。それで勝てた戦いもあったけど、そうじゃないんだなって、今わかった。まず、私自身の身体にエネルギーを燃やさないといけなかったんだ」
それを聞いていたマグショットは、静かに答えた。
「戦いの流儀はそれぞれだ。だが、己自身がまず強くある事は、全てに通ずる。それが剣であろうと、何であろうとだ」
「うん」
「お前が今の戦いでそれを掴んだというのなら、この先にも進めるという事かも知れん」
その言葉は、百合香に大きな自信を与えるものだった。
「いいだろう、百合香。そして、瑠魅香。この城を攻略するため、俺はお前たちと共闘してやろう」
「ほんとう!?」
百合香の目が突然キラキラと輝いた。マグショットほどの実力者が味方になってくれるなら、これほど心強い事はない。
「だが」
マグショットは続ける。
「言ったとおり、俺は群れるのは嫌いだ。基本的には、俺は俺で動く。レジスタンスの奴らと連絡を密にしておけ。協力が必要な時は、駆け付ける」
「その逆でもいいのね?」
そう言われて、マグショットは一瞬間を置いて言った。
「…好きにしろ」
『じゃあ、さっそく今から共闘しようよ。あのすかした帽子野郎、来いって言ってたよ』
百合香ごしに瑠魅香が言う。マグショットは小さくため息をついて、苦笑いした。
「成り行き上、仕方あるまい」
『またまた、カッコつけちゃって』
「さっきから言いたかったが、お前は何なんだ、その性格は」
若干、素の調子が出て来た様子でマグショットが言った。
「百合香からは武人の匂いがするが、お前は緊張感がなさすぎる」
『だって私、魔女だもの。武人じゃないわよ』
そのまま、瑠魅香とマグショットの口論を聞きながら、百合香はオブシディアンが招く、さらなる奥へと足を進めるのだった。
百合香たちが戦うその様子を、陰から観察する眼光があった。
「なるほど。江藤百合香か」
青いローブをまとった謎の存在、ヒムロデである。ヒムロデは、百合香に特に注目しているようだった。
「裏切り者の氷魔どもも問題ではあるが、やはり最大の問題はあの小娘だ。なぜ、アグニシオンをあの小娘が手にしているのか…調べる必要がある」
ヒムロデは、どうやら聖剣アグニシオンの名を知っているらしかった。
「だが、そうなると困った事になる。あの小娘を殺してしまっては、それ以上調べる事ができなくなる…」
そこまで呟いたところで、ヒムロデは背後に近付く足音に気付いた。鋭利なデザインの鎧をまとった、高位らしい戦士がヒムロデのもとに膝をついて控えた。
「カンドラか」
「はっ」
「どうやら、きさまの手にも余るようだな」
そう言われて、カンドラと呼ばれた戦士は平伏しつつも、いくらかの憤慨も隠せないようだった。
「ヒムロデ様、もし、万が一にもオブシディアンが破れた場合、私めに直接あの小娘を始末させてくださいますよう、お願いいたします」
いくぶん焦った様子で、カンドラは具申する。しかし、ヒムロデは首を横に振った。
「ラハヴェ様は、あの小娘をいたく気に入っておいでだ。御自ら、屍にしてみたいとさえ仰っている」
「は…」
「ひとまずは、この層の氷騎士たちと戦わせるのだ。そうだな…お前が出て行くのは、万が一にもこの層があの小娘に落とされた時だ。それで良いな」
カンドラは、まだ不服そうではあったが、ヒムロデには逆らえない様子で静かに答えた。
「…かしこまりました」
そう言って、カンドラは静かに姿を消す。
「あるいは、カンドラでさえ敗れる事もあるやも知れん…いや、まさかな」
ヒムロデは呟いて、自分も暗闇の中に姿を消した。
百合香とマグショットは、ゆるい階段になっている通路を登って行った。
「ここ、何なんだろう。それに、さっきのあいつ、何者なの?」
百合香はつぶやいた。
「さっきの、オブシディアンとかいう奴は拳法使いの氷騎士だ」
「氷騎士?あいつが?」
「間違いない」
「サーベラスみたいなパワーはなさそうだけど」
そう百合香が言うと、マグショットは語り始めた。
「百合香。徒手空拳で戦うということは、武器を使うのとは全く異なる理論が必要になる。いかに、相手の急所を狙い、最小限のエネルギーで打撃を与えるかがカギになる」
「うん」
「剣では不利になる相手の場合、拳法が役立つ事もあるだろう。先程のお前の戦いは見事だったが、まだ感性に任せて動いている部分がある。感性は大事だが、時として理論、理屈が必要になる。お前なりに、理論を体得するのだ。そうすれば、お前は優れた拳士になれる」
やたらと饒舌なマグショットに、百合香は少しだけ面食らっていた。
「今まであまり関心を示してこなかったのに、どういう風の吹き回し?」
百合香は訊ねる。
「…お前はそれなりに見るべきところがある。それだけだ」
「ふうん」
素っ気ない返しに、百合香も素っ気なく返した。
「む」
突然、マグショットは立ち止る。
「どうしたの」
「百合香。どうやら、さっそく学んだ事を実践できる機会がありそうだ」
マグショットが指差した先は、通路の奥にある両開きの扉だった。
「あの奥から、敵の気配がする」
それは、ある時は感情の爆発で、またある時は戦いの過程で、そしてまたある時は、言葉によって理解してきた。マグショットもまた、百合香を導くヒントを与えた一人だった。
『力の使い方ですって?』
瑠魅香は、突然に徒手空拳での戦い方を覚えた相方に対して、驚愕を禁じ得ないでいた。
「簡単な事だったのよ」
百合香は起き上がってくる氷の巨漢に対して、自己流の構えを取っていた。
「ホアッ!!」
巨漢は、百合香へのお返しとばかりに回し蹴りを浴びせてきた。それは凄まじい速度と風圧を伴ったもので、まともに喰らえば絶対にただでは済まない。
しかし、百合香はその動きを一瞬で見切っていた。
「ふん!」
百合香は攻撃をかわすと、その脚を掌底で払い、相手がバランスを崩した瞬間を狙って軸足に強烈な足払いをかけた。巨漢は再びバランスを崩して、倒れかける。すんでの所で転倒は避けたものの、百合香は浮いた左腕を脇で抱えて思い切りねじった。
「アギャァァァァ!!!!」
痛みがあるのかどうかはわからないが、巨漢は苦しんでいる。百合香は肘鉄でその巨体を押すと、さらにそこへ肩を使って体当たりを食らわせた。巨漢は大きく弾かれて、太い柱に叩きつけられた。
それを見て驚いているのは、マグショットだった。
「あいつ…さっきまでド素人だったというのに」
「よそ見をしているヒマがあるか!!」
オブシディアンが突きを入れてくる。マグショットはそれを受け流すと、胴体に掌底を打ち付けた。
「ごはっ!」
「ふん、貴様の実力も大した事はないな」
「さて、それはどうでしょうな」
「なに?」
オブシディアンの自信ありげな態度に何かを感じたマグショットは、警戒して距離を取った。
「行きますよ」
そう言うと、オブシディアンは全身に何か、青紫のオーラのようなものを溜め始めた。周囲の気流がオブシディアンに集中する。
「ヒョウッ!!!」
オブシディアンが腕を払うと、目に見えない冷気の刃がマグショットを襲った。
「ぬっ!」
マグショットはギリギリのところで気流の変化を読み、その目に見えない刃を弾いた。しかしその隙を狙って、オブシディアンがリーチを詰めてくる。
「!」
「ホヤッ!!!」
マグショットの腹に、思い切りオブシディアンはツキを入れた。
「がっ!!」
マグショットは後方に弾き飛ばされ、太い梁に背中を打ち付けた。
「マグショット!」
その様子を見ていた百合香は叫ぶ。しかし、マグショットは立ち上がって叫んだ。
「他人の戦いを気にしているヒマがあるか!そのデカブツは任せたぞ!」
「な…私にさんざん口出ししてきたくせに!」
「何でもいい!お前の力、今こそ見せてみろ!!」
これだけ声を張り上げられるなら大丈夫そうだと思った百合香は、目の前にいる巨漢を倒すのに集中する事にして、改めて構えを取った。
「拳法は知らないけど、バスケの動きなら知っている!!」
そう言って、百合香は再び突進してきた巨漢の横に素早く飛び込んだ。そう、百合香はバスケットボールの試合での動きを、拳法に応用しているのだ。
「せい!」
鮮やかに身体を回転させ、その後頭部に上段からの回し蹴りを叩き込む。前進していた所に後方から蹴りを入れられた巨漢は、そのままの勢いで壁に向かって自ら上半身をしたたかに打ち付けた。百合香は、むき出しになった腰椎に飛び蹴りをくらわせる。嫌な音がして、巨漢はそのまま壁にもたれて呻いていた。
『今だよ、百合香!頭だ!頭部を破壊された者は失格となる!!』
どこかで聞いたセリフを瑠魅香は言った。どこで聞いたのか思い出せない。百合香は、胸に太陽のエネルギーボールを出現させると、それをがっしりと掴んで高く飛び上がった。
「『バーニング・ダンクショット!!!!』」
上方から、全力を込めて燃え盛るボールを巨漢の頭に打ち付ける。ボールは大爆発を起こして、壁や柱もろとも巨漢の上半身を粉砕してしまった。
「ふーっ」
もうもうと熱風が立ち込める中、百合香は腰のあたりに両拳を構え、漲っている気を落ち着けた。
「くっ…まさか、そんな馬鹿な」
オブシディアンは、差し向けた巨漢が破られた事に相当驚いているようだった。マグショットが一歩進み出る。
「どうやら、予想外だったようだな。次はきさまの番だ。ノシを付けて今のお返しをさせてもらうぞ」
「ふん」
突然構えを解いたオブシディアンは、百合香を見下ろして言った。
「いいでしょう。改めておもてなしをさせていただきます。この先に宴の間を用意しておきますので」
「待て!」
「そう焦らず。私は逃げも隠れもいたしません」
そう言うと、オブシディアンは青白い光に包まれ、あっという間に姿を消してしまったのだった。
「ぬっ!」
マグショットが消えたあとを追うも、すでにオブシディアンの気配はこの部屋からは消え去っていた。
「幻術か。器用なやつめ」
マグショットは構えを解くと、床に降り立って百合香に向き合った。
「見事だった」
それは、何の飾りもない、素の言葉だった。
「しかし、にわかには信じられん。一体どうやって、あのような戦い方を一瞬のうちに体得したのだ」
「細かい事は、私もよくわからない。体捌きは、バスケットボールの応用よ」
百合香は、弾き飛ばされたアグニシオンを拾いながら言う。
「あなたの言葉がヒントになった」
「俺の言葉?」
「うん。剣に頼るな、って言ったでしょ」
聖剣アグニシオンを見つめながら、百合香は言う。
「私はいままで、自分の内側にあるエネルギーを、常にこの剣に叩きつけてきたの。それで勝てた戦いもあったけど、そうじゃないんだなって、今わかった。まず、私自身の身体にエネルギーを燃やさないといけなかったんだ」
それを聞いていたマグショットは、静かに答えた。
「戦いの流儀はそれぞれだ。だが、己自身がまず強くある事は、全てに通ずる。それが剣であろうと、何であろうとだ」
「うん」
「お前が今の戦いでそれを掴んだというのなら、この先にも進めるという事かも知れん」
その言葉は、百合香に大きな自信を与えるものだった。
「いいだろう、百合香。そして、瑠魅香。この城を攻略するため、俺はお前たちと共闘してやろう」
「ほんとう!?」
百合香の目が突然キラキラと輝いた。マグショットほどの実力者が味方になってくれるなら、これほど心強い事はない。
「だが」
マグショットは続ける。
「言ったとおり、俺は群れるのは嫌いだ。基本的には、俺は俺で動く。レジスタンスの奴らと連絡を密にしておけ。協力が必要な時は、駆け付ける」
「その逆でもいいのね?」
そう言われて、マグショットは一瞬間を置いて言った。
「…好きにしろ」
『じゃあ、さっそく今から共闘しようよ。あのすかした帽子野郎、来いって言ってたよ』
百合香ごしに瑠魅香が言う。マグショットは小さくため息をついて、苦笑いした。
「成り行き上、仕方あるまい」
『またまた、カッコつけちゃって』
「さっきから言いたかったが、お前は何なんだ、その性格は」
若干、素の調子が出て来た様子でマグショットが言った。
「百合香からは武人の匂いがするが、お前は緊張感がなさすぎる」
『だって私、魔女だもの。武人じゃないわよ』
そのまま、瑠魅香とマグショットの口論を聞きながら、百合香はオブシディアンが招く、さらなる奥へと足を進めるのだった。
百合香たちが戦うその様子を、陰から観察する眼光があった。
「なるほど。江藤百合香か」
青いローブをまとった謎の存在、ヒムロデである。ヒムロデは、百合香に特に注目しているようだった。
「裏切り者の氷魔どもも問題ではあるが、やはり最大の問題はあの小娘だ。なぜ、アグニシオンをあの小娘が手にしているのか…調べる必要がある」
ヒムロデは、どうやら聖剣アグニシオンの名を知っているらしかった。
「だが、そうなると困った事になる。あの小娘を殺してしまっては、それ以上調べる事ができなくなる…」
そこまで呟いたところで、ヒムロデは背後に近付く足音に気付いた。鋭利なデザインの鎧をまとった、高位らしい戦士がヒムロデのもとに膝をついて控えた。
「カンドラか」
「はっ」
「どうやら、きさまの手にも余るようだな」
そう言われて、カンドラと呼ばれた戦士は平伏しつつも、いくらかの憤慨も隠せないようだった。
「ヒムロデ様、もし、万が一にもオブシディアンが破れた場合、私めに直接あの小娘を始末させてくださいますよう、お願いいたします」
いくぶん焦った様子で、カンドラは具申する。しかし、ヒムロデは首を横に振った。
「ラハヴェ様は、あの小娘をいたく気に入っておいでだ。御自ら、屍にしてみたいとさえ仰っている」
「は…」
「ひとまずは、この層の氷騎士たちと戦わせるのだ。そうだな…お前が出て行くのは、万が一にもこの層があの小娘に落とされた時だ。それで良いな」
カンドラは、まだ不服そうではあったが、ヒムロデには逆らえない様子で静かに答えた。
「…かしこまりました」
そう言って、カンドラは静かに姿を消す。
「あるいは、カンドラでさえ敗れる事もあるやも知れん…いや、まさかな」
ヒムロデは呟いて、自分も暗闇の中に姿を消した。
百合香とマグショットは、ゆるい階段になっている通路を登って行った。
「ここ、何なんだろう。それに、さっきのあいつ、何者なの?」
百合香はつぶやいた。
「さっきの、オブシディアンとかいう奴は拳法使いの氷騎士だ」
「氷騎士?あいつが?」
「間違いない」
「サーベラスみたいなパワーはなさそうだけど」
そう百合香が言うと、マグショットは語り始めた。
「百合香。徒手空拳で戦うということは、武器を使うのとは全く異なる理論が必要になる。いかに、相手の急所を狙い、最小限のエネルギーで打撃を与えるかがカギになる」
「うん」
「剣では不利になる相手の場合、拳法が役立つ事もあるだろう。先程のお前の戦いは見事だったが、まだ感性に任せて動いている部分がある。感性は大事だが、時として理論、理屈が必要になる。お前なりに、理論を体得するのだ。そうすれば、お前は優れた拳士になれる」
やたらと饒舌なマグショットに、百合香は少しだけ面食らっていた。
「今まであまり関心を示してこなかったのに、どういう風の吹き回し?」
百合香は訊ねる。
「…お前はそれなりに見るべきところがある。それだけだ」
「ふうん」
素っ気ない返しに、百合香も素っ気なく返した。
「む」
突然、マグショットは立ち止る。
「どうしたの」
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