~【まおうすくい】~

八咫烏

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第5話『決闘』

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「なぁ、小娘よ…楽しみだなぁ!!」

「なにソワソワしてるのよ、遠足前日の子どもみたいでみっともないわよ、オバさん。」

「オバっ…オバさんじゃないし!小娘が自分で言ったのだろう?我は18くらいに見えると。」

「なによ、私より年増に見えるじゃないの。」

「ぐぬぬ…それは良いとして、こんなに立派な宿に泊まっても大丈夫なのか?」

「平気よ、経費で落ちるもの。全部ギルドが払ってくれるわ。」

「そうか、ならルームサービス頼んで良いか?良いよな!?」

「好きにしなさいよ。経費で落ちなかったらあなた払いなさいよ。」

「なっ…落ちない時もあるのか!?」

「知らないわよ。支部長さんに聞いてみなさいよ、まったく。」

少女と美女、もとい…ユーカとヴェルは、支部対抗演習に参加することになり、出発までの3日間を街の中で過ごすように言われていた。
日帰りの依頼を受ける事もできたが、英気を養うという名目で、レヴィンの街で一番上等な宿に泊まっていた。
もちろん、宿代は全てギルドが負担してくれるので、ふたりは、遠慮なしに一番良い部屋に泊まることにした。

「いい、ヴェル。ここではさっきみたいに元の姿になってはダメよ!壊したら経費じゃ落ちないんだから!」

「分かっておる、我もそこまで阿呆ではないからな。」

「じゃあ取り敢えず、今日はもう寝るわ。明日は朝から出かけるから、ほどほどにしなさいよ。」

アマエラ大山脈の麓から街に戻り、宿を壊し、多額の借金を背負い、支部戦の代表に選ばれ、と…今日1日で起こるには多すぎる出来事を体験した少女は、心身ともにとてつもない疲労感に襲われていた。
なので、ぐっすりと眠ってしまい、全く気づかなかったが、ヴェルはユーカが寝た後、一晩中、ルームサービスで酒と肉を頼んでは喰らい、呑んでは頼む、を繰り返していた。

翌朝起きると、部屋中に、鼻がまがるほどに、酒の臭いが充満していて、その中にお腹をポッコリと膨らませた、小さなドラゴンが横たわっていた。
それを見た少女は、小さなドラゴンのしっぽを持ち、ぐるぐると振り回した。

「はっ…なっ、何をする!小娘!離せっ、離さんか!」

「ねぇヴェル。私はほどほどにしろって言ったわよね?コレ、経費で落ちなかったらどうするつもり?」

「うっ…もしかして本当に落ちぬのか?」

「まぁいいわ、さっさと出かける準備をなさい。先に下に行って朝食を食べておくから、準備ができたら来なさいな。」

「ぬっ…今日はやけに優しいではないか?何かあったのか?」

「ええそうね。支部戦の優勝を逃しても、あなたのしっぽを切り落として売ってしまえば良いのだもの。」

「よしっ小娘、優勝目指して頑張ろうではないか!」

「調子の良いやつね、じゃあ先に行ってるわ。」

そう言って少女は部屋を出て、宿に併設されている1階の食堂で、朝食をとろうと階段を降りた。
すると、早朝にも関わらず、食堂にはたくさんのむさ苦しい男たちで混雑していた。
しかも、その男たちは食堂のみならず、エントランスやロビーなどといった、1階のそこかしこに見てとれた。
さらには、宿に入りきらなかった男たちが、宿の周りをぐるりと囲っている。
そして、その男たちは一様に、同じことを叫んでいた。
曰く…
『俺こそが代表にふさわしい!』
『代表に選ばれたのはどいつだ?』
『俺が先に叩きのめしてやる!』
『ここに泊まっていることはわかってるんだぞ!』
といった、物騒な内容ばかりであった。

そこに颯爽と入り込む、ひとりの影。
その姿は、年端もいかない少女であった。
少女の雰囲気にのまれ、むさ苦しい男たちは、一斉に口を閉じ、場所を空けながら少女に注目する。
注目を集めたと分かると、少女は口を開いた。

「ごきげんよう皆さん。代表に選ばれたのは私だけれど、何か文句があるのかしら?」

すると、男たちは、閉じていた口を一斉に開き、少女に罵詈雑言を投げかける。
しかし、少女の後のひと言で、再び静寂が訪れる。

「あら、随分なもの言いね。『弱い犬ほど良く吠える』といったところかしら。」

「おいおい嬢ちゃん、俺たちが何者か知ってて言ってるのかい?」

「五月蝿いわね…黙りなさいな。」

少女は、ゆっくりと、冷たく言い放ち、体から殺気と魔力を放出しながら続けて言う。

「私に勝てるなら、代表の座をお譲りするわ。でも、時間がないからあなたたちも代表を立ててくださいまし。」

すると、男たちは一斉に黙り込み、幾人かは宿を後にする者もいた。
しかし、先ほどの殺気にも負けじと耐え、宿の中に残った男たちは、その提案に嬉々として乗りかかった。

「嬢ちゃんや、後で泣いても知らねぇかんな!」

「現実を見させてあげるわ!昼過ぎにギルド裏の広場に行ってあげるから、準備するように支部長さんにいっておきなさいな。」

「ちっ!逃げんじゃねーぞ!」

男たちの中で最もゴツいやつか、吐き捨てるように言い放ち、宿を後にすると、詰めかけていた他の男たちもそそくさと出て行った。

「朝から気分は最悪ね。さて、朝食にしましょ!」

よほど気に食わなかったのか、それとも朝食が楽しみなのかわ分からないが、口元に不敵な笑みを浮かべ、少女は食堂へと姿を消す。

「遅かったな小娘!あまりに遅いので先に喰らっておるぞ。」

「あんた…準備はできたのかしら?」

「準備なぞ、特にすることもないのでな、直ぐに終わったぞ。」

「そう、それで…なんであなたは夜にあれだけ飲み食いしといて、朝食もそれだけ食べれるのかしら?」

「ん?あぁ、朝食は別腹なのでな!はははは…いっいひゃいいひゃい、ごめんなひゃい許してくらひゃい!!」

机の上にあるのは、3人前ほどと思われる朝食の空き皿に、ふたり分のまだ手を付けてない食事があり、それを見た少女は、ドラゴンが変身している美女の頬を、力いっぱいにつねった。

「まぁ良いわ、それより…今日の予定を少し変更するわ。」

「うむぅ…痛いのじゃ。」

「昼からちょっと訳があって、ギルドの裏庭に行くことになったから、朝のうちに全部の用事を済ませるわよ。」

「分かったが…用事というのはなんじゃ?」

「あぁそれね、言ってなかったっけ?あなたの帽子を買いに行くのよ。って言っても予算は銅貨1枚までよ!」

「ほぅ!それは楽しみじゃの。早く行こうではないか!」

「待ちなさいってば、私まだ朝ごはん食べてないの。」

「まったく…これだからお主は。まっことトロいやつじゃ。」

「ヴェル…あなた明日までご飯抜きね。」

「ごごご、ごめんなさい申し訳ありませんでしたっ!」

「とりあえず宿の前で立って待ってなさい。」

「はひぃーっ喜んで!」

頼んだ食事が届くと、少女は煩い美女を遠ざけ、ひとりで食事を楽しんだ。

「ふぅ…さすがはいい宿。食事も完璧ね。」

食事を終えると、その足で宿を出て、外に立っていた美女を伴って、帽子を売っている店へと向かった。
帽子屋に着くと、そこで帽子を購入し、昼までは時間があるので、近くの店でお茶をして過ごした。

「いつまでニヤけているのよ。だらしないわね。」

「んふふーん、我はこの帽子が気に入ったぞ!ふふふ。」

「ヨダレ、まったく…汚いわね。それでも誇り高きエンペラードラゴンなのかしら?」

「んーふふ、なんじゃー我は今、とーっても気分が良いのじゃ。」

「ふん、まぁいいわ、それでもツノを出しても分からないから、いつでも力を使えるわよ。」

「うむ、便利であるな!」

「でも、ハネとしっぽは出しちゃダメよ!それと、人前でツノを出すときは、絶対に帽子をかぶってなさいよ!」

「分かっておる、我を誰だと心得るか。」

「はいはい、誇りが埃とカビにまみれた大年増のドラゴンさんね。」

「ぬぬぅっ!我ショック…。鳴いちゃう。」

「あーうるさいうるさい。さて、いい時間になってきた事だし、行くわよ。」

「んーわかったのじゃー。」

茶屋を後にしたふたりは、心なしか、いつもより人通りの少ない道を、ギルドに向かって歩く。
途中で、軟派な男たちに、幾度か言い寄られもするが、全て一撃のうちに沈めていった。

ギルドの裏庭に着くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
裏庭だった場所は、中央に円形のステージが広がり、その周りを無数の観客席で囲んである。
観客席をさらに、いくつもの屋台が取り囲み、お祭り騒ぎになっていた。

「なんだか…思ってたのと違うわね。」

「我は知らんからな、頑張れよ小娘。」

「ちょっ…ダメよ、あんたも代表なんだから!」

「向こうもひとりなのであろう?では、我は屋台を回ってくるのでお小遣いをくれると嬉しいな。」

裏庭の端っこで立ち尽くしていると、後ろから、不意に声をかけられた。
その声は、毎度おなじみの支部長のもので、ふたりには悪いが、周りの声を抑えきれなかったのだと言う。

「まぁ別にいいわよ。見られて減るものでもなしに。」

「いやぁ、そう言ってくれると助かります。」

「その代わり…コレよコレ。」

「はははっ…まぁそうですな。この騒ぎで多少はギルドも儲けさせて貰っているので…。」

騒ぎに便乗した商人たちが、各々、屋台を開いたりとしているらしく、場所代を取っているそうで、少女がお小遣いを要求したところ、すんなりと銅貨を、ふたりに1枚ずつ渡してくれた。

「あら、少し少ないのではなくて?」

「いやはや、勘弁願いたいですな…。これでもうちの支部は火の車でして。」

「まぁそれもすぐに解消されるわ。なんたって、レヴィン代表の私たちが優勝するのですもの。」

「しかし…相手を侮ってはなりませぬぞ。」

そう言うと、男はチラリと視線を移した。
その先に居るのは、今朝方、止まっている宿で捨て台詞を吐いて出て行った、ひときわゴツい男だった。

「彼はこの町で唯一の『濃赤』ですからな。」

「あら、それってサイラスさんより下ではなくって?」

「私はもう歳なので、それに現役を退いて久しいですのでな。」

「ふーん…じゃあ実力はあの筋肉の方が上なのね。」

「負けるとは思っていませんが、支部戦を前に、ケガだけはなさらぬように気をつけてください。」

「忠告どうもありがとう。まぁあの程度なら敵じゃないわね。」

「ははは、左様ですか。では、ご武運を。」

そう言って男は、ふたりのもとを去って行った。

「ねぇヴェル、あなたも休んでていいわよ。気が変わったわ!」

「じゃあじゃあ、小娘の分の銅貨も、我が飲み食いして良いか!」

「ダメよ、あなたの銅貨も寄越しなさい。」

「なぜじゃ!?我オコじゃぞ!」

「アレを見なさいな。」

「ん?…あぁアレであるか?」

そこに書かれていたのは、男と少女のオッズだった。
男は1.5倍
少女は18倍

「おお!じゃあこの銅貨が18倍になって帰ってくるのじゃな!喰らえる肉も18倍であるかー!」

くーっ!と叫び声をあげて、銅貨を手放す美女に、少女は呆れた顔で言い放つ。

「バカね、もっと倍率が上がるようにするのよ!まぁ見てなさい。」

そう言うと、少女はおもむろに、ステージへと上がる。
上がる途中の階段で一度、躓いて見せ、さらには、緊張しているかのように見せる為に、顔を青くし、ガタガタと体を震わす。
そしてひと言…

「ふんっ…よよよ、よく来たわねっ!私がボッコボコにしてやるわ!」

目に涙を浮かべ、そう言い放つと、すぐさまステージを逃げるように後にする。
そして、そのまま美女のところへと駆け足で戻ってくる。

「どうかしら?私の演技。ちょっと、なに笑ってるのよ、ぶっ飛ばすわよ!」

「ふはははひひっ、なかなか堂に入った演技であったぞ小娘よ。ふふっ…。」

しばらくすると、オッズに変化があらわれ、賭けた人たちからため息が漏れる。
男は1.1倍にまで下がり
少女は25倍にまで跳ね上がった。

「まぁこんなものね。じゃあ買いに行きましょう。」

少女はカバンから、残りの2枚の銅貨を出し、先ほど貰った分と合わせて、4枚の銅貨を賭け事屋に渡す。
賭け事屋の男は、顔に驚愕の表情を浮かべていたが、少女は、それを無視して、自分に銅貨4枚をかけると告げ、割り符を受け取った。

「さて、これで銀貨1枚確保ね。まったく…高銀貨4枚の借金なんて、いつになったら返せるのかしら。」

掛け金に使わなかった残りのお金で、ふたりは屋台めぐりをしながら時間を潰した。
途中でサラミスが屋台で使える金券をたくさんくれたので、結果としてお金はほとんど使わなかったが、1日では使え切れないぐらい沢山の金券を、わずか2時間ほどで使い切ってしまったのは、ひとえにヴェルの手腕、いや、胃腸と言えよう。

「私は昼過ぎからって言ったのに!なんでまだ始まらないのよ!」

「まぁまぁ、コレが終わった後に壮行会も企画しておりまして…。」

「ひっ!サラミスさん、いつからそこに。」

「いやぁ、近寄り難い雰囲気だったんですけどね、そろそろ初めてしまおうかと思いまして。」

「やっとね…待ちくたびれちゃったわ。」

「それと、我々職員一同も、賭けさせてもらいましたぞ、ふふふ。」

「あら、支部長さんもワルねぇ…。まぁ私も賭けたけどね、ふふふ。」

「私は全財産を賭けましたぞ!このご恩は一生忘れません。」

「あら…ハンゲさん、良いのかしら?私、負けちゃうかもしれないのよ?」

「なにを仰いますかユーカ様、いえ…ユーカ神。これで私は億万長者です、ふははははっ!」

「ちょっと…支部長さん、ギルドの職員がこんな事で良いのかしら…?」

「いえ、私も全財産を賭けましたので…ははは。」

「ダメね…手遅れだわ。まぁそれは置いといて、早く始めましょ。」

見ると、オッズがかなり変動していた。
そこから推測するに、ギルドの職員は、ほぼ全員が全財産を賭けたことが予想できたので、先ほどから既に2時間以上も、ステージの上でパフォーマンスをしている男に、少しだけ同情してしまった。

ステージに上がると、ひときわ大きなベルの音が鳴り、賭けの終了を宣言してまわっていた。
最終オッズは、
男が3.2倍
少女が30倍
一体全体、ギルド職員はどれだけの金額を賭けたのだろうか。
そして、ベルの音にも勝るとも劣らない、とてつもなく大きな図太い声が、目の前の、少し疲れた様子の男の口から放たれる。

「よぉ嬢ちゃん。さっきはビビってたみたいだが、怖いなら逃げても良いんだぜぇ?」

「あなたこそ、ずっとステージの上で猿みたいにアピールしてたけど、そんなに自信がなかったのかしら?」

「ほぉ、言ってくれるじゃねぇか。すぐに降参しねぇと痛い目見るからな!」

「あら、じゃあ目を瞑って闘うわ。それなら見れないですものね、くすくす。」

「くぉんのぉーっ!絶対にぶっ飛ばす、死んでも文句言うなよっ!ケルトぉっ!得物を寄越せっ!」

ケルトと呼ばれた男から、目の前の筋肉男は得物を受け取り、下卑た笑みを浮かべ、少女を見る。
その手には、重さが10キロ以上は有りそうなデカい剣を持っていた。

「ねぇ筋肉さん、もしかして魔法を使えないの?だったら勝負にならないんだけど。」

「るっせー!ガキが!魔法が全てじゃねぇ事を教えてやんよ!あの世で悔いるんだなっ!!」

「そう、まぁ別に良いけど。支部長さん、私、あの人ニガテだわ。」

「ブレイさん、ここにいるユーカ君は相当な魔法の使い手です。あまり舐めてかかると…。」

「サラミスさんよぉ、まさかモンスターバスターにまで上り詰めたあなたが、こんな小娘に肩入れするほど落ちるなんて…正直見たくなかったぜ。」

「モンスターバスター?なにかしら、それ?」

「おいおい、嬢ちゃん…知らねぇのか?話になんねーぜ。そこのおっさんはちょっとした有名人なんだよ。」

「へぇ…そうなの?(この人が?)」

「ははは、私も一線を退いて久しいからね。それよりふたりとも、準備は良いかい?」

「おうよ。」

「えぇ良いわよ。それより、先ほどの話、終わったら聞かせてくださいな。」

「分かりました、では…レディーエーンドジェントルマンっ!アーユーレーディ?」

『いぇえあぁぁっ!』

「それではっ…レディー、ファイっ!」

こうして、レヴィンの街の歴史に残る闘いが幕をあける。
ちなみに一気にテンションの上がったサラミスを少女は冷たい目で見ていた。








次回:第6話『代表』
お楽しみにお待ちください。

8月20日 12時を更新予定にしております。
感想や誤字脱字の指摘などなど
よろしければお願いし申し上げます。







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