~【まおうすくい】~

八咫烏

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第8話『相棒』

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「さぁヴェル、ひとっ飛びして頂戴。なるべくゆっくりね!」

「ウム、マカセテオケ。」

「いい、ゆっくりなんだからね!ゆっくりよ!」

「ワカッタワカッタ、アバレルデナイ。デハユクゾ!」

商隊を離れて1時間ほど歩いた後、周りに人がいないことを確認した少女とドラゴンは、帝都に向けて翔び立つ。
と言っても、すでに馬車で、帝都の近くまで来ていたので、空の旅はすぐに終わりを告げた。
帝都から少し離れた、人の居ない郊外へと降り立つと、ドラゴンに、ヒト型になるよう言いつけ、ふたりで帝都の正門を目指して歩き出す。
ものの30分ほど歩くと、視界の遠くに門を捉えることができた。
正門は未だ、大きく開かれ、中からはゾロゾロと兵士が列を成して出てくる。

「いったいどのくらいの規模なのかしらね。」

「小娘よ、それより…これだけ多くの兵士が出てくるのだ。帝都は相当に広いと見て取れるな!」

「迷子にならないでよね…。」

「そうではない、広いとはすなわち、メシ屋がたくさんあるのであろう?もちろん全て制覇するよな!」

「馬鹿言わないでよ…そんなお金ないわ。制覇したいなら自分の鱗でも売りなさい。」

「うむぅ…で、でも半分くらいは…な?」

「支部戦が何日かかるのか知らないけれど、毎回違うところでご飯を食べる、妥協できるのはこの辺りだわ。」

「さすが小娘!我の相棒じゃ!」

「あぁん?誰が小娘だってぇ?」

「だって…その、小さいし…。」

「おいヴェルぅ…あんたさぁ、私のこと舐めてるのかしら?」

「ひぃいーっ…スマヌ、スミマセヌ!だから、メシ抜きだけはっメシ抜きだけは勘弁してくりゃれ!」

「だいたいあんたねぇ、前から私の事を、小娘小娘いいやがって、私わぁ、あなたにぃ、名前教えなかったかしら?」

少女はニコっと笑ってドラゴンに問いかける。
その笑顔は、この世界の4つの大陸を隔てる、広大な海、グレーデ海すらも凍り付きそうなものだった。

「だってぇ…名前で呼ぶとか、恥ずかしいし…。」

もじもじとしながら答える美女を見て、少女も顔を赤らめ、視線を背ける。

「なっ…何言ってんのよばかぁ、そんなの、初めだけでしょ。最初からあなたを名前で呼んでた私には、恥じらいがないっていうの?」

目には涙を浮かべ、少女は早口でまくしたてる。
それを聞いて、ドラゴンは意を決し、口を開く。

「ユ…ユー、カ。」

「なに?小さくて聞こえないわ。」

「ユっ、ユーカ!」

「なぁにヴェル?」

先ほどとは裏腹に、砂漠でさえもキレイな花が一面に咲きそうな、柔らかい笑顔と優しい声音で聞く。

「なっ…貴様が名を呼べと言ったのであろう?」

顔の前で手をパタパタしながら慌てふためく美女を見て、ユーカはふふっと笑う。

「冗談よ、さぁ行きましょうヴェル。」

「あぁ行こうか、ユーカ。」

こうして、夕焼けで赤く染まるふたりは、兵士が出払ったあと、正門をくぐり、帝都の中へと足を踏み入れた。

「うっ…そ。」

「あぁ、これは広い。我の眠っている間に、ここまで発展しているとは。」

「あら…ヴェルは昔に、来たことがあるの?」

「いや、こんなところに街があったのは記憶していないな。」

「そうなのね。まぁとりあえず、宿を探しましょ。一番良いところをね!」

「その次はメシ屋だな。一番うまいところをだ!」

「あぁ、それなんだけどね。食事屋さんではさすがにツケがきかないのよ。今の手持ちじゃあんまり良いところへは行けないわ。」

「案ずるなユーカよ、我は今、けっこー持っておるぞ!」

「あら、私の方が持ってるわよ。演説料に銅貨を1枚貰ったもの。」

すると、ヴェルはチッチッチと人差し指を顔の前で振り、懐から小袋を取り出す。

「ちょ…どんな所に入れてるのよっ!」

「ん?胸の間だが…?」

「まぁ良いわ、それで…それは何?」

「ふふふ、これは我が正真正銘、自分で稼いだ、金なのだよ!」

「あら…いつの間に?」

「ユーカとあの男の決闘の解説をした時に、おひねりを集めたのじゃ。結構な額じゃぞ!」

「それで…いくら入っているの?」

「5328枚じゃ!」

「えっ…?」

「なんじゃ?」

「いや…そんな小さな袋に、それだけの枚数のお金が入るわけないでしょ。」

するとヴェルは、またもや顔の前で人差し指を振り、チッチッチと言う。

「コレは竜の胃袋という素材でできておってな、とりあえずたくさん入るのだよ!」

「あら、便利ね。もっとないのかしら?」

「うむ、コレでできたカバンもあったのじゃが…失くしてしもうた。あの洞窟のどこかにあるのではないか?」

「そういえば、前から疑問だったのよ。どうしてダンジョンとあなたの塒が繋がっていたの?」

「洞窟型のダンジョンを、ナニが創るか知っておるか?」

「人が掘るんじゃないのかしら?」

「ぶー、じゃ。土を掘るモンスターに創らせるんじゃ。まぁそのモンスターも楽がしたいのであろう、我が一度掘って、崩れた場所を再度、掘ったようじゃな。」

「そうなのね。一度掘ってあったから、掘りやすかったって事かしら?」

「たぶんそうなのであろうな。まったく、迷惑な話よ。」

「それで…なんであなたがそんな事知っているの?」

「これでも我は誇り高きエンペラードラゴンなのじゃ、それくらいは分かるのじゃ。」

「それくらいは分かるくせに、どうして、部屋の中で元の大きさに戻ったら、部屋が壊れる事を、分からなかったのよ!」

「ぐぬぬ…それは、その…な?」

「まぁ、過ぎた事は仕方がないわ。もう2度と!宿は!壊さないでよね!!!」

「分かっておる、分かっておるから…。それで、この宿にするのか?」

「ええ、立地も佇まいも十分だわ。ここにしましょう。」

「宿探しに、こんなに時間がかかるとは…まっこと広い街よのぉ。」

「ほら、ぶつくさ言ってないで、さっさと入るわよ。」

帝都に入ってから、随分と時間が経ち、ようやく、宿を見つけたふたりは、さっそく中へ入り、部屋をとる事にした。
エントランスは広く、ロビーは落ち着いた雰囲気で大人っぽい。建物の外見は、少し趣があるが、内装はとても綺麗で、あちこちに豪華な装飾が施されており、飾ってある美術品も、さぞかし価値があるのだと感じられる。

「ふーん…なかなかいい宿ね。さすがは帝都っていったとこかしら。」

「何を偉そうに…帝都に来るのは初めてなのであろう?」

「いいのよ、小さい事は気にしなくて!それより早く部屋をとりましょ。」

「うむ、空いてると良いがな。」

少女が受付へと行き、一番良い部屋が空いているか尋ねると…

「申し訳ございません、すでに満室でして…。」

「うそ…それじゃしょうがないわね。」 

少しガッカリとした表情で、宿を立ち去ろうとすると、新たに宿泊客がやってきて…

「すいません、一部屋空いてますか?」

と、受付で尋ねた。
すると…

「はい、部屋のグレードをお選びください。」

と、宿泊客は宿の部屋をとる事ができ、従業員に案内されて、奥へと消えていった。

それを見て、少女は怒り、受付へと怒鳴り込んで行った。

「ちょっと!なんで今の人は泊まれて、私たちは泊まれないのよ!」

「お客様…その、ただいま当宿は、満室でして…。」

「嘘おっしゃいな!私たちの何がいけないっていうの?」

「その…あの、えっと…。」

「はっきり言いなさいよ、それとも、この宿ごと消し炭にされたいのかしら?」

先ほどまでの大声とはうって変わり、少女は小さな声で、そう、呟くように言った。
すると、受付の人が、ようやく観念したようで、ポツりポツりと話し始めた。

「その…お連れ様の髪の色って…。」

「レディシュだけど?それがどうかしたの?」

「今、帝都では、赤毛の女性は魔女と呼ばれ恐れられているのです。ですから、お連れ様が当宿に宿泊されるとなると…。」

「他の客がうるさいってわけね。そう…その情報だけでも十分だわ。どうもありがとう!」

バンっとカウンターを叩き、少女はヴェルの手をとって、足早に宿を出て行った。

「ユーカ…何をプリプリしておるのじゃ?」

「これが怒らずにいられますかっ!なによっ、どいつもこいつもおらんだも、ばかばかばかばかっ!」

「おらんだ…?」

「いいのよ、放っておいて!」

少女はヴェルの手を離し、走りながらどこかへ行こうとする。

「ちょっ、待つのじゃユーカ。どうしたのじゃ?」

ヴェルは少女の前方へ回り込み、腕を広げて突っ込んできた少女を抱きとめる。

「だって…だってぇ。うっ、うえーん。えんえん…。」

抱きとめられた少女は、しがみつくようにヴェルの服をつかみ、顔を胸に埋めて泣き始めてしまう。
それをヴェルは、少し困った顔で、必死に少女をあやそうと、背中をさすったり、頭をなでてやったりする。

「ひっく…ううっ…。」

「どうじゃ、落ち着いたか?」

「ゔん、ありがどう…。」

「何があったか、我に教えてはくれぬか?」

「でも…。」

「言いたくないのであれば、強要はしない。しかし、今の我は、ユーカ…貴様の相棒じゃぞ。」

「ーーー分かったわ…。あのね…。」

小さな声で、ひとつひとつ丁寧に、ゆっくりと語りだす少女の話を聞き、ヴェルは豪快に嗤った。

「なんじゃ、そんな事か!我はてっきりユーカに良くない事が起こっておるのかと心配したぞ!」

「なによ…そんな事って。私は、悔しいのよ!」

「あぁそうだな。我のために怒り、泣いてくれたのであろう?ありがどう。」

ドラゴンは優しく微笑み、少女をギュっと抱きしめる。その、柔らかく包み込むような声音と、優しく癒すような表情と、温かく心安らぐような抱擁とで、少女は再び、涙を流し始める。
しかし、その涙は、先ほどまでのものとは違い、とても美しいものだった。

「泣いてないもん…泣いてないんだからっ!」

「分かったわかった、我の見間違いだな。」

「ねぇヴェル、私こんなの耐えられない。依頼は諦めて、すぐに街に戻りましょ!」

「ならばユーカは先に戻って良いぞ。我はしっかりと支部戦で優勝してから帰る。」

「なんでよ!たかが髪の色でバカにされるのよ!信じられないわ…。」

「魔女と言われようが、悪魔と言われようが、魔王と言われようが…我は我じゃ、誇り高きエンペラードラゴンにして、ユーカの相棒じゃ。」

「そんなの…ズルいわよ。」

「我はズルいのじゃ。」

「私がばかみたいじゃない。」

「あぁ、お主はばかものじゃ。」

「私が…私がっ!」

「そうじゃ、お主が我の相棒じゃ。そして、我がお主の相棒じゃ。」

すると少女は顔を上げ、ゴシゴシと顔をこすり、ビシっヴェルに向けて右手の人差し指を出す。

「いい、ヴェル。勝つわよ!」

「そうこなくてはな!やはり貴様はおもしろい。おもしろいぞユーカ!」

少女はそう宣言した後、魔力を練り、全身に纏った。

「なにをしておるのじゃ?」

殺気がビリビリと空気を伝い、街道の石畳にヒビが入る。野犬や野生の鳥たちは逃げ出し、すでに空一面に輝いていた星々は、急いで雲に隠れてしまった。

「あなたのキレイな髪を見て怯えるくらいなら、私が先にビビらしてやるわ!」

「ふふっ…やはりお主は大バカものじゃな。」

「ええそうよ、知らなかったの?」

「いいや、知っていたさ。我に最初に言った言葉を覚えているか?」

「忘れたわよ、そんな昔のこと。」

少女はプイっと顔を背けたが、実際にはしっかりと覚えていた。
それをわかっているドラゴンも、軽く受け流し、ふたりは再び街へと踏み入れた。

帝都の中は、夜なのに、昼間と変わらず賑わっていた。
さまざまな夜店が立ち並び、人々の笑い声が、夜の街に響き渡っていた。
しかし、一歩、また一歩と少女が近づいてくるにつれて、ひとり、またひとりと恐怖に怯え、口を閉ざす。
それを気にせず、少女はにこやかな表情をつくり、人々へと声をかける。

「こんばんは皆さん、良い夜ですね。宿を探しているのだけど、良いところがあったら案内してくれないかしら?」

最後に小首を傾げ、右手の人差し指を唇の右端へと添える。
思わず帝都の住民たちは、その少女に見惚れてしまうが、少女から放たれる殺気が強すぎて、長い間、少女を見つめることはできなかった。
誰も答えないので、少女はさらに奥へと歩き出すと、住民のひとりが、後ろの美女の髪の色に気づいたらしく、ザワザワと騒ぎ始める。

「おい見ろ!」

「あぁ、赤毛だ。」

「きゃー!魔女よ!魔女がいるわ!」

「魔女は殺せ!」

「そうだそうだ!」

『殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せっ…。』

住民たちが唱和を始め、一斉に口を揃え、負の感情が燃え上がる。

すると、先ほどまでで十分すぎるほど強力だった少女の殺気が、数倍に跳ね上がり、ピタりと、住民たちは口を閉ざす。
それでも止めず、少女はさらに、殺気を強めていく。
すでに、夜の街を照らしていた街の灯りは殺気により破壊され、少女の立っている石畳も、原型を留めず、砂つぶになっていた。
その暗闇の中、ただひとりだけ少女は光り輝いていた。
放つさっきは恐ろしいが、その姿は幻想的なまでに美しく、見るものすべてを引き込んでいた。
そして、少女は口を開く。

「私たち、支部戦の代表で来たのだけれど、しばらくこの街に留まるから、どこか良い宿はないかしら?」

さらに殺気を、鋭く研ぎ澄まし、住民の幾人かがバタバタと倒れ始める。

「ユーカ、やり過ぎじゃ。少し緩めい。」

「あら…ごめんあそばせ。」

赤毛の美女が少女に声をかけると、スっと殺気を消し、再び柔らかい声音で住民に尋ねる。

「ねぇ、この街には宿ひとつ無いのかしら?それとも…私よりも赤毛が怖いのかしら?」

すると、住民たちはその場にひれ伏し、赤い髪の美しい女性に謝罪し始める。

「よくできました。これから髪の色が赤い程度で、その人にイジワルでもしてみなさい。この大陸ごと消し炭にするわよ。」

「こらこらユーカ…消し飛ばすでない。」

住民の方へ向かって、おどけた口調でそう言うと、続けて住民へ語りかける。

「この街の民よ、我は貴様らに危害を加えるつもりはない。支部戦が終わればすぐに出て行く。だからしばらく、この街への滞在を許してほしい。」

文句を言う住民はひとりたりとも居らず、彼女は、無言をもって肯定とした。

「ありがとう。それで…我らは今、宿を探しているのだが。良い宿に心当たりがあるのなら、教えてくれるとありがたい。」

しばらく沈黙が続いたが、ひとりの少年が口を開き、住民たちは胸をなで下ろす。

「おばちゃん、ウチに来たらいいよ。」

「おばっ…ねぇ坊や、お姉さんって言ってくれるかな?」

「ちょっとヴェル、黙りなさいよ。せっかく宿に案内してくれるんだから!」

「ぐぬぬ…我はおばさんではないぞ!断じて違うからな。」

「はいはい、分かったわよ。それで…君、私たちを泊めてくれる宿を教えてくれるの?」

「違うよ。僕の家に来たら良いんだよ!ねぇ父さん?」

「えっと…この少年のお父上かしら?私たちは、宿を探しているだけで、お家にお邪魔するなど…。」

「良いじゃないかユーカ、遠慮せずに泊めてもらおうぞ。」

「もうっ!ちょっと黙ってなさいよ!ほら、コレあげるから。」

「コレは…カピカピか!どこでコレを…。」

「餞別ついでにガンズさんから拝借しておいたのよ。ギルドがお金で返すわ!」

「では遠慮なく。ユーカは我を気にせず、話してくるがよいぞ。」

「分かったわ。(チョロいわね。)」

少女はドラゴンを、干し肉で釣って、静かにさせた後、改めて少年とその父親に話しかける。

「なるべく迷惑はかけたくないわ。無理に私たちを泊めなくても大丈夫よ。最悪、私たちは街の外で夜を明かすわ。」

「あの…えっと、私はタイルと言います。こちらは倅のフィンです。」

「あぁ、ごめんなさい。私はユーカ、あっちはヴェル。支部戦の代表でこの街に来たの。」

「ユーカ様、ヴェル様、どうか妻を、フローラを助けて下さい。お願いします!」

男はその場でしゃがみ込み、頭を地面につける。少女は戸惑いを隠せず、オロオロとしながら顔を上げるように言った。

「良くは分からないけど、泊めてくれるなら力になるわ。」

「ありがとうございます、ありがとうございます。」

男は涙を流しながら、少女にお礼を言い、さっそく彼らの家まで案内する。



「ここって…。」

「大きな家じゃな。」

「違うよ、おばちゃん。ウチは宿をやってるんだよ!」

「そうじゃったか、すまんな坊や。」

「お邪魔するわ!あら…なかなかキレイで良いところじゃない。立地も悪くないのに…どうして客が入っていないのかしら?」

「後でご説明申し上げます…。とりあえず、お部屋に案内致します。こちらへどうぞ。」

案内されたのは、大通りから一本だけ奥の道に入った所にある宿だった。
大きくも立派でもないが、丁寧に仕事がされており、外見も内装も少し古びてはいるが、そのような気配を微塵も感じさせないほど、手入れが行き届いている。

「良い部屋ね、気に入ったわ。」

「うむ、もし帝都を消し炭にするとしても、ココだけは残さねばならぬな!」

「それで…ご主人。先ほどの話を詳しく聞かせてもらえるかしら?」

「分かりました、少しお待ちください。」

男はそう言って、部屋を出た後、少年を寝かしつけ、暖かい飲み物を持って、再び部屋に入ってきた。

「少し長くなります。お疲れのところ申し訳ございません。」

「別に良いわ。」

「まぁ、風呂と食事はとりたかったがな。」

「では先に、お食事とお風呂の用意をしてきます。」

「良いわよ、ちょっとヴェル!」

「じょ…冗談じゃご主人。すまなかった。話を聞かせてくれ!」

「では…。」

そう言って、男はゆっくりと話し始めた。
話している間、男は、悔しそうな表情を一切として崩さなかったが、涙を流すことだけには耐え、嚙みしめた唇から血が出ようとも、握った拳から血が滲もうとも、話し終えるまでは、表情を変えなかった。








次回:第9話『地震』
お楽しみにお待ちください。

8月23日 20時を更新予定にしております。
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よろしければお願いし申し上げます。





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