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第9話『地震』
しおりを挟む忌み嫌われている赤い髪の毛をヴェルが持っているが故に、帝都にてイジワルを受けるユーカとヴェルだったが、ひとりの男が、自らの経営する宿に泊めても良いと申し出た。
その男は、宿に泊まる代価として、ユーカとヴェルに力を貸して欲しいと懇願した。
なんでも、その男の妻も、赤い髪色をしていたらしく、魔女だと言いがかりをつけられ、帝国軍に捕まってしまったそうだ。
赤い髪が忌避されるキッカケとなったのは、1ヶ月と少し前の、とある事件なのだそうだ。
その事件の内容は、詳しくは教えて貰えなかったが、それを受けて、帝国軍は魔王領へと進軍を始めたそうだ。
この軍団こそが、先ほどすれ違った、というか、足止めをくらった原因らしいのは、すぐに予想できたので、ユーカとヴェルは少し腹を立てた。
帝国の常備軍40万のうち、帝都に展開しているのは3万ほどだ。そのうち1万2千が魔王領を目指し、出兵したらしかった。
ちなみに、常備軍の他に、傭兵なども出陣し、合わせて1万5千ほどの軍団が、帝都を発ったそうだ。
魔王領に行くまでに、他の街に駐留している軍やその他の傭兵団も合流し、最終的には10万人規模で魔王領を襲撃するのだと、言われており、人々の関心を集めている出来事なのだそうだ。
それはさておき、10万人規模の軍団で攻め入るほどの事件が、赤い髪を嫌う様になった事の原因となっているので、帝都の住民を納得させるのは、とても難しいことだと言えるだろう。
「さて…どうしたものかしら。」
「パパっと閉じ込められてる場所から、攫えば良いではないか?」
「それはムリね、200人以上捕まってるってウワサらしいわよ。」
「まさか…全員助けるつもりか?」
「ヴェルは相変わらずバカね、ちょっと考えてみなさいよ。帝都からひとり残らず消えた赤い髪の持ち主が、たったひとりだけ戻ってきたら…あなたはどうする?」
「もう一度捕らえて閉じ込めるかの?」
「違うわ。帝都に何人住んでるかは知らないけど、ほぼ全ての住民からの恨み辛みを、この家族が一身に背負うことになるのよ。」
「それではどうするのじゃ?」
「全員を解放するわよ。私に良い考えがあるの!だけど…それまで生きているかは分からないわ。」
「そんな…間に合わなければ意味が無いではないか!」
「そればかりはしょうがないわよ…。悔しいけど、私は神ではないのだから。」
「すまぬ…我も気が動転しておった。」
「良いのよ、それより…絶対助けるわよ!」
「もちろんじゃ、全員助けようぞ。」
「という事で、私が先にお風呂に入るから、あなたは待ってなさい。」
「なっ…我だって疲れてるし!わざわざ翔んだし!早く飯を喰らいたいし!!」
「ご飯くらい先に食べて良いわよ。」
「うむぅ…長いこと風呂に入ってないから、我もさすがに飯より風呂の気分なのじゃ。」
「そう、じゃあ私が出るまで待ってる事ね。」
そう言うとヴェルは、
ムムムムムーっ
ーーーーーーーーポンっ!
小さなドラゴンに姿を変えた。
「コレデドウジャ?ワレノカラダモアラッテクリャレ。」
「はぁ…しょうがないわね。」
風呂から上がると、すでに食事が用意されており、ふたりは舌鼓をうちながら、料理を堪能した後、具体的な救出プランを宿の主人に話し、眠りについた。
コンコンコン…コンコンコン…。
翌朝、まだ陽が上って間もなく、ようやく空が白くなり始めたくらいの頃、まだ眠りについていたふたりは、ノックの音で起きだした。
弱々しい音が、何度も聞こえるので、さすがのふたりも無視できず、ドアを開ける。
開けるとそこには、昨日の少年より、さらに幼い女の子が立っていた。
「あら…どうしたの、お嬢ちゃん?」
「ーーーあのね…パパから聞いたの。お母さんを…助けて、くれるって…。早くママに会いたいよ。」
そう言うと、幼女は泣き出してしまったので、少女はとっさにヴェルの背中を押し、幼女をヴェルに任せた。
「よしよし…泣くでない。(なぁユーカよ…我、子どもはニガテなのじゃが。)」
ヴェルが視線をユーカに向けると、ユーカは黙って頷き、窓の外から出て行った。
ちなみにこの建物は3階建てで、ユーカたちは3階に泊まっていた。
「なぁお主、名はなんと申すのじゃ?」
泣き続ける幼女を優しく抱きとめ、なるべく柔らかい表情をつくって尋ねる。
「なまえ…わたしの、なまえ?」
「そう、お主の名前じゃ。」
「わたしはね、マリーなの。」
「そうか、マリー。良い名じゃな。母君につけてもらったのか?」
「ううん、ママと…パパが、かんがえたって、いってたの。」
「そうかそうか。なぁマリー、お主の母君は我とユーカが必ず助ける。じゃからもう、心配はいらぬぞ。」
「ほんと…?」
「あぁ、約束じゃ。たとえ帝国を滅ぼそうとも、お主の母君は必ず助け出そう。」
「ありがとう…おばちゃん。」
幼女は泣き止み、笑顔で感謝の言葉を伝えると、部屋を出て行こうとする。
「待て待て、マリーよ。おばちゃんじゃなくて、お姉さんと呼んでくれるとありがたいの。」
「うん…?おねーちゃん。」
「うーん、最高じゃのぉ!俄然、ヤル気が出てきたってもんよ!」
呼び止められた幼女は、振り返って、ドラゴンの要望に応えると、今度こそ部屋を出て行った。
残されたドラゴンは、恍惚とした表情を浮かべ、だらしなく開いた口からヨダレが垂れたので、手の甲で拭っていた。
しばらく余韻に浸り、だらしない顔でニヤニヤとしていたヴェルだったが、ユーカが帰ってきたことにより、終止符を打つことになる。
「なんて顔してるのよ…。」
「べっ、別に良いでわないか!それより…突然、窓から出て行きおって、何をしてたのじゃ?」
「まぁちょっとね、私たちが解放した後に、実は全員すでに死んでました、では寝覚めが悪いでしょ。」
「うむ、それもそうじゃが…。なぜに窓から出て、窓から帰ってくる必要があったのじゃ?」
「一度やってみたかったのよ、窓からの出入り!ほら、勢いって大事でしょ?」
「そ…そうか?それで、具体的には何をしてきたのじゃ?」
「ちょっと釘を刺しておいたのよ、傷つけたら神の怒りが襲うってね。」
「おお怖い怖い…。」
「何よ、棒読みじゃない。それでね、ちょっとお願いがあるのだけど…良いかしら?」
「まぁ、我に出来ることであれば、手伝う事はやぶさかではないぞ。」
「それは助かるわ!じゃあ早速だけど、地震を起こしてくれないかしら?」
「ーーーは?」
ユーカが、とんでもない事を言い出すので、驚いて固まってしまったヴェルを、ゆさゆさと肩を両手で持って揺らしながら、もう一度はっきりと言う。
「地震を起こして欲しいのよ。帝都に!まぁ、この建物が壊れないギリギリで、できるだけ強いやつね。」
「地震って…本気かや?」
「本気よ?人を殺すってわけじゃないんだから…ちょっと驚かすだけよ。」
「しかし…なぜ我が?」
「まぁ、私でも使えるのだけど、うっかり帝都を更地にしちゃうかもしれないでしょ?」
テヘっと舌を出し、ウインクするユーカを見て、ヴェルは呆れた声で応える。
「分かったわかった、ユーカがやると、本気で帝都が壊滅しそうじゃからな。それで…いつ揺らせば良いのじゃ?」
「そうね…今日の昼に1回でしょ、夕方に1回でしょ、夜に1回でしょ、深夜に1回…。」
「待て待て待て待てっ…多すぎるじゃろ!」
「あら…そうかしら?じゃあ足りない分は私がやるわ!」
「分かった、我が悪かった。4回で良いのじゃな!それ以上はダメじゃぞ!」
「ありがとうヴェルぅー!さすが私の相棒ね!」
「分かったから、抱きつくでない。そういえば…支部戦はいつからなのじゃ?」
「さぁ?とりあえず今日は、帝都のギルド本部へ行って、いろいろ手続きとかしなきゃダメらしいわ。」
「では、まだまだ先という訳かや?」
「どうなんでしょうね?それも今日、行ってみたら分かることだわ。」
「そうじゃな。それより、我はもう腹ペコじゃ!帰ってくるのが遅いのではないか?」
「これでも急いだ方よ。そうね…私もお腹が空いたわ。下に行って朝食をとりましょ。」
すでに、マリーが来てから1時間ほど経っており、1階へと顔を出すと、すでに準備はできていたらしく、すぐに食事の用意をしてくれた。
その場で、今日の予定を宿の主人に伝え、地震のことを注意し、ワレモノなどを低いところに置くように言っておいた。
宿の主人は、素直に助言を受け入れ、お皿や花瓶などを割れないようにしたり、食器棚などが倒れないようにと、準備していた。
「それと…ご主人、この事はなるべく他言無用でお願するわ。親兄弟、親族に至るまで、できれば伏せて頂けるとありがたいわね。」
「分かりました。このタイル、命に誓って他言しないと約束します。ですが…。」
「どうかしたのかしら?」
「赤い髪のせいで家族が捕らえられた、私の様な者たちには、伝えておきたいのですが…。」
「そうね…でも、その人達が他言しないとも限らないわ。」
「良いではないか、ユーカ。別に知られたところで止められるわけではない。」
「それもそうね、じゃあ許可するわ。でも、一応は起きる時間とか回数とか、重要なところはボカしておいて頂戴。」
「ありがとうございます。昼までに伝えねばなりませんので、少し暇を貰っても…?」
「ええ、私たちも今日は夕方ごろまで帰らないと思うから、お昼は要らないわ。」
「分かりました。では、失礼します。」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃいな。」
宿の主人を送り出した後、ふたりは食事を済ませ、ギルドへ行く準備に取り掛かる。
「ヴェル、準備できたかしら?」
「うむ、我はすでに準備万端じゃ。先ほどからユーカを待っていたのじゃが…。」
「じゃ、行くわよ!」
「えぇ…無視とは酷い。我、鳴いちゃう。」
「分かったわかった、お昼は帝都を散策しながら、好きなもの食べていいから。」
「本当か!それは楽しみじゃの!」
「仕事はちゃんとしなさいよ…。」
「分かっておる。忘れてなどおらぬぞ!ほら…アレじゃろ?アレ。」
「そう、アレよ。分かってれば良いのよ。」
「ごめんなさい…。」
「もうっ…地震よ地震!ちゃんとして頂戴よね!」
「うむぅ…すまぬ。」
ユーカとヴェルは、ようやく宿を出て、帝都の中心よりやや東に位置する、ギルド本部へと向かった。
途中の屋台で、ヴェルが色々と買い食いしたのは、言うまでもなかった。
しばらく歩くと、ギルド本部の建物が見えてくる。
「大きいわね!」
「うむ、たいそう立派であるな。」
目の前に現れたのは、レヴィンの街のソレよりも、数倍は大きい、巨大な建物だった。
その他にも、ギルドが所有するであろう、たくさんの建物が乱立している。
「じゃ、さっそく入るわよ。」
ユーカが建物に入ろうと、ギルドの敷地に足を踏み入れたその時、
「コラっ君!待ちたまえ。」
と、背後から男に声をかけられた。
声をかけてきた男の正体は、ギルドが雇っている敷地の警備員さんらしく、その男が言う事には、ギルドの本部へ入れるのは、許可証を持つ者だけらしい。
許可証はギルド本部へ申請すると貰えるらしいが、申請や受け渡しなどが郵便で行われるため、時間がかかるそうだ。
本部に所属する冒険者は、ギルド本部の建物の裏手にある『ギルド本部冒険者窓口』という所にいるらしい。
この『ギルド本部冒険者窓口』が、他の街でいうところの、ギルドの建物、に相当するそうだ。
しかし、そんな事は今はどうでも良かった。
なぜなら、ユーカとヴェルは、レヴィンの街の支部戦代表者であり、もちろん、その許可証とやらを持っているからだ。
「ごめんなさいね、コレで良いかしら?」
「これは失礼しました。今度からは、入る前に係員に提示してから中へお入り下さい。」
「そうだったのね、気をつけるわ。」
入る前に一悶着あったものの、本部の建物に入ってからは、スムーズに手続きを行えた。
「レヴィンの街の代表者様でいらっしゃいますね。少々お待ちください。」
本部の受付の人は、そう言うと、必死に何かを紙へ書いている。
言われた通り、少しの間待っていると…
「お待たせして申し訳ありませんでした。それでは、支部戦の説明を行いますが…よろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ。」
支部戦の概要は以下
2年に一度、各地に散らばるギルド支部が、代表者を立てて、凌ぎを削り、代表者を通じて、その支部の実力を他の支部に見せつけるのが目的で開催されている様だ。
支部戦で優秀な成績を収めた代表者の支部は、運営費が増額されたりと、様々な特典がもらえるらしい。
参加した代表者にも特典があり、6位以内の入賞で、賞金が出るそうだ。それに加え、冒険者ランクの査定にも加味してくれるらしい。
支部戦の内容としては、毎回異なるが、すべての街の支部が参加するので、まずは本選出場者を決めるための、共通一次と共通二次の試験があるらしい。
どの様な内容かはその日のお楽しみなのだそうだ。
代表者が何人いたとしても、競技に出られるのは、その中からひとりだけなので、代表者が少ないからといって、不利になる事は無いそうだ。
「以上となりますが、何か気になる点がございましたら、お申し付けください。」
「ひとつ良いかしら?優勝すると高銀貨2枚だったわよね?」
「はい、そうなっております。」
「それって、変えてもらえる事はできるのかしら?」
「あの…どういうことでしょうか?」
「例えばだけどね、高銀貨の代わりに民衆の前で演説する機会が欲しい、と言ったら…?」
「優勝者の要望にはなるべく応える様にとなっているので、おそらくは可能だと思います。」
「おそらくでは弱いわね…。お手数をおかけするけど、聞いてきてくれないかしら?」
「畏まりました、少々お待ち下さい。」
そう言って、対応してくれた受付の人は、建物の奥へと姿を消す。
「ねぇヴェル、そろそろ時間だわ。先に出て揺らしておいてくれないかしら?」
「うむ、では先に行くぞ。それが終わったら、喰らい歩きしても良いか?」
「良いわよ、じゃあよろしくね。くれぐれもあの宿だけは壊さないで頂戴。」
「案ずるな、我もあの宿は気に入ったのでな。我の庇護下に入れてやった。コレである程度の災いではビクともせぬ。」
「ふーん…ドラゴンの加護ってやつ?」
「ただのドラゴンと一緒にするでない!我はエンペラードラゴンじゃ!」
「そうだったわね、ごめんなさい。じゃ気をつけてね。」
「うむ、任せておけ。」
ヴェルと別れたユーカは、その後すぐに戻ってきた受付の職員と、再度話をする。
「ありがとう、それで…どうだったのかしら?」
「限度はありますが、大抵の事は可能だそうです。こちらが証書になります。」
「証書まで作ってくれたの?驚いたわ!私が優勝するなんて決まってないのに。」
「だって、あの英雄サラミスの推薦状があるじゃないですか!」
「あら…あのおじさんそんなに有名なの?」
「有名って…あのミグラシア戦役の英雄ですよ!?たった10人でーーーー」
受付の職員が話し始める前に、ユーカは言葉を遮る。
「帰ったら彼から聞くことになっているの。ごめんなさいね。」
「こっ…これは失礼しました。だから、あなたは優勝候補に挙げられているんですよ。」
「それは…困ったわね。まぁ良いわ。それじゃあ失礼するわ。」
「はい、支部戦の一次予選は明後日なので、明日には宿泊先に場所と時間を記した郵便が届くと思います。」
「分かったわ。ありがとう。それと…気をつけてね。」
「へ?」
「なんでもないわ。」
ユーカがギルド本部の建物を出た瞬間、帝都を激震が襲った。
人々は神の怒りだと恐れ慄き、天に向かって命乞いをし始める者さえ出てくる始末であった。
後に『髪』と『神』を掛け合わせ、『赤神の怒り』と名付けられた連続的な大地震は、帝国の繁栄を揺るがす、ほんの入り口にしか過ぎなかった。
しかし、この当時の人々は、その様な出来事を予想できるはずもなく、何も知らないまま、時代の激流に呑み込まれていった。
次回:第10話『暗中飛躍』
お楽しみにお待ちください。
8月24日 22時を更新予定にしております。
感想や誤字脱字の指摘などなど
よろしければお願いし申し上げます。
8月24日0:00
一部修正を行いました。
誠に申し訳ございませんでした。
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