~【まおうすくい】~

八咫烏

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第33話『宝物庫』

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昼食をとった後、ユーカとヴェルが、フェリスに連れてこられた場所は、迷宮の様な城のさらに奥の、普段なら誰も寄り付かない様な、そんな、少し埃っぽく暗い、そこはかとなく陰湿なイメージのする場所。
ヴェルはその、あまりにも溢れ出る負のオーラに顔をしかめ、ユーカもまた、この城には地下空間以外にも、華がない場所があるのだと、意外そうな表情で辺りを見渡していた。
フェリスはそんなふたりを面白がる様に、クスリと笑いながら眺めている。

「そんなに珍しいかな?」

「えぇ、ようやく噂通りの魔王の城に来たって感じがするわね。」

「こんな薄暗い場所だとイメージされてるとは…少し寂しく感じてしまうね。」

「しかし…なんじゃ?この負のオーラの塊は?」

「やっぱり、ヴェルくらい敏感だとこの空間はキツイかな?」

「うむ、できれば早く、用事とやらを済まして欲しいの。」

「それより…こんな場所に一体、何があるっていうのかしら?」

「それは、見てからのお楽しみだよ。」

3人はさらに、城の奥、負のオーラの漏れ出る源の方へと進む。前回、この通路を人が歩いたのは、一体どれほど昔の事なのだろうか、そう思われるほどに、たくさんの埃が、ぶ厚く降り積もっていた。

それからしばらく、音の反射が鈍い空間を、他愛もない話をしながら、進んでいくと、不意にフェリスが歩みを止めた。
フェリスが壁の方を見るので、それに倣って、ユーカとヴェルも壁を見る。

「何も…ないわよ?」

「むむっ?これは、空間の歪みかや?」

「ふたりとも、半分ずつ正解だね。さすがだよ。」

「あぁ、なるほど。そういう事ね。」

「さすがはユーカ、もう気づいちゃったか。」

「まぁ、私くらいの天才なら、すぐに気づくわ。ヴェルはおバカだから気付かないと思うけど。」

「なにをぉっ!我だってすぐに分かるんじゃもん!」

「じゃあ、どういう事か、説明なさい。」

「ぐぬぬぬぅ…。」

ヴェルは眉間にシワを寄せ、頭抱えながら唸っていたが、いつまでたっても答えは出そうになかったので、フェリスが代わりに助け舟を出した。

「まぁ少し難しかったかな…。それでも判るなんて、ユーカは凄いよ。」

「まぁ、近くでヴェルを見てきたから、なんとなくは判ったわよ。」

「やっぱり、ヴェルも普通とは違うみたいだもんね。」

「えぇ、ヴェルの秘法も、あなたの使う魔法も、どこか、私が使う魔法とは異なる性質を持ってそうね。」

「ユーカの使う魔法って、そう考えたら、威力とかはさておき、普通なんだね。」

「普通なのになんだか少し異なるって、変な話よね。」

ユーカとフェリスが魔法について話していると、ヴェルは先ほどまでは、頭を抱えて蹲っていたのに、いつの間にか、ふたりの近くでその話を聞いていた。

「判ったぞ!この空間は、お主の魔法じゃな!」

「本当…あなたってちょっぴり残念ね。」

「は、ははは。」

「まぁ、そろそろ入れてくれてもいいのではなくて?」

「あぁ、そうだね。」

そう言って、フェリスは指をパチンと鳴らした。すると、何も無かったかの様に見えた壁は、その姿をぐにゃりと曲げながら、隠していた扉を露見させる。

「やはりね…。でも、私はさておき、ヴェルですら欺けるとは、凄いわね。」

ユーカは壁のカモフラージュが消え、鎖が幾重にも巻かれ、南京錠がいくつも取り付けられ、その上からさらに、強力な封印の結界が張り巡らされた扉を、ただただ黙って見つめていた。
ヴェルはいきなり、そんな物が現れたことに驚き、自分の目を擦っていた。

「うむぅ…我が感知できないとは。お主の魔法、少し気になるの。」

「ははは。勿体ぶって悪かったね。」

フェリスは封印の結界を破棄しながら、ユーカとヴェルに、彼女の魔法の秘密を明かす。

「私の操る魔法は『邪法』と言ってね、幻術が専らの得意なんだよ。」

「なるほどね…あなたが姿を変えているのも、自分の能力って事かしら?」

「そうだね、まぁ魔宝の力も借りているけど。」

「魔法…?」

「魔宝、これの事だよ。」

ヴェルは、発音が同じだったので『魔法』だと勘違いしたが、フェリスが『魔宝』だと言って、細くて白い指にはまるリングを見せたので、ヴェルもそれが『魔宝』なのだと認識する。

「ふむ…我にはよく分からぬな。」

「ねぇフェリス、幻術が得意ってことは、その…邪法には、攻撃手段は無いって事かしら?」

「いや、そんな事はないよ。例えば…。」

そう言って、フェリスはヴェルに向き直り、ジっとヴェルの目を見る。

「ヴェル、君は今、タンスの角で右足の小指を激しくぶつけたよ。」

「むっ?」

ヴェルはフェリスに言われた事に、意味が分からないという様な顔をしつつも、自分の右足の小指をチラり一瞥する。
その隙にフェリスは、素早く動いてヴェルの背後に回り、右手の親指だけを立たせ、それをヴェルの首物にトンと触れた。
ヴェルは一瞬の事で、何が起こったのか分からずにいたが、ユーカだけが、フェリスとヴェルの動きを冷静に分析し、心の中で唸っていた。

「どうかな…?」

「なるほどね、要は使いようって事なのね。」

「まぁ今のは、邪法を使ったわけではないけれど、幻術は相手の精神に働きかけるからね。」

「うむぅ…どういう事じゃ?」

ユーカとフェリスの話に、ひとりだけ取り残されたヴェルは、どういう事か説明して欲しいと、ふたりに眼で訴えかける。

「もう…相変わらずバカね。あなた今、フェリスに一度、殺されたのよ?」

「むむっ?我はピンピンしておるぞ?」

ヴェルはその場でぴょんぴょんと跳ねて、自分の体に異変がない事を確認しながら、ユーカの言った言葉の意味を考える。

「ははは…少し解りにくかったかな?」

「そんな事ないわ。ヴェルの頭が少し足りないだけよ。」

「なぬっ!相変わらず失礼な!」

「それで…私が言った意味、解ったの?」

「解らぬ!」

「あ、そう…。」

元気よく応えるヴェルに、呆れて返すユーカ。それをフェリスが声を殺して笑っていた。
ユーカはフェリスの方に、教えてあげて、と目線を送る。
フェリスもそれに頷き返し、ヴェルに先ほどの行動の意味を説明する。

「あのね、ヴェル。私は今、君の意識を右足の小指に誘導したんだ。」

「うむ…確かに。ぶつけてないと分かっていても、少し気になって目を向けてしまったの。」

「戦場では一瞬の油断が命取り、でしょ?君は私に隙を見せた事になる。」

「あぁ、そういう事じゃったのか!確かに…という事は、我はまんまとフェリスに騙されたわけじゃな。」

「これが、精神に作用する事を強みとする、邪法の戦い方だよ。」

「でも、お主は先ほど、一度も魔法は使わなかったであろう?」

「使わなくても、君の精神を意図的に操った。この意味は解るかな?」

するとヴェルは、ハっとした表情で顔を上げ、素早い動きでユーカを見る。

「そういう事よ。パワーでゴリ押しする私たちには、目からウロコよね。」

「うむ、どうせなら大きくて美味い魚が良いがの…。」

「そういう事を言ってるんじゃないわよ。」

「相変わらずヴェルはブレないね。君のそういう所は、尊敬に値するよ。」

「何言ってるのよ、頭でもぶつけたかしら?」

「さっきから失礼千万じゃぞ!まったくもうっ!」

「それにしても…邪法、面白いわね。」

「君たちが扱う、強力な魔法に比べたら、私の邪法なんて、吹けば飛ぶ様な存在だけどね。」

「そんな事はないぞ。油断していたとはいえ、先ほど我は、確実に死んでおったからの。」

「その通りよ。でも、今の内にあなたの能力が知れて良かったわ。」

ユーカは声のトーンを一段落とし、真剣な眼差しでフェリスを見つめる。
右手には、この城を跡形もなく吹き飛ばせる程の、禍々しくも強大な魔力を練り上げ、臨戦態勢を整える。
普段のヴェルは、少しぬけていて、ふわふわとした存在のアホの子だが、こういう時に限っては、頭の回転が非常に早く、いつもの間抜けさを感じさせないほど、老練で熟達した、歴戦の猛者とも言える動きを見せる。

ふたりがいきなり戦闘態勢に入ったので、フェリスもそれに対応せざるを得ず、ふたりの動きを注視しながら、隙を探る。

「どういう事か…説明して貰っても良いかな?」

「フェリス…お主の邪法とやらは厄介じゃ。」

「もしかしたら、私とヴェルは、既にあなたの術中にいるのかもしれない、そう思っただけよ。」

3つの強力な魔力が、ビリビリと空間を震わせ、その空間はやがて、その力に耐え切れなかった様に、ヒビを入れながら悲鳴をあげて崩れそうになる。
しかしその直前、ユーカとヴェルは臨戦態勢を解除して、魔力を霧散させる。
フェリスはその様子に呆気にとられ、ぽかんと立ち竦み、ふたりに隙を与えてしまった。
そこへ、ヴェルが、先ほどのお返しだと言わんばかりに、フェリスにされた事をそっくりそのままやってみせ、フフっと嗤う。

「冗談じゃ。」

そう言ってヴェルは、フェリスを解放し、てくてくと歩いて、ユーカの側に戻る。

「ははは、やられたね。これで私も、一度死んだわけだ。」

最初は渇いた嗤い声だったが、フェリスは次第に、その怒りを滲ませる。

「どういう事かなっ!ちゃんと説明してくれないと、さすがの私も、もう君たちを信用できない!」

フェリスは未だに警戒を解いていなかったが、なんとなく、ユーカとヴェルが魔法を使う事は無いだろうと感じていた。
それでも、禍々しいオーラを放ったままにしていたのは、ふたりに、いきなり戦闘態勢を取られた抗議の意味合いもあっただろう。

「ごめんなさい…でも、ひとつだけ聞いて良いかしら?」

ユーカは弁明する事なく、素直にフェリスに謝罪を入れた後、たったひとつだけ、フェリスに問うた。

「あなたは…私たちの敵なの?それとも、味方?」

「質問の意図が分からないよ。君たちは私に、何を求めるんだい?」

「お主の邪法は強力じゃ、それに…我らにはそれに嵌っているか確かめる術がない。」

「だから…ごめんなさいね。あなたを試したの。」
「そういう事だったら…仕方ないね。でも、君たちは私の事を、最初から疑っていたの?」

「えぇまぁ…私たちの旅は、それくらい綱渡りしているから。」

「うむ…仕方がない事とは言え、本当にすまなかったの。」

「いや…良いよ。それで、君たちのテストに、私はどう映ったのかな?」

ようやくフェリスは警戒を解き、ふたりに悪意がない事を読み取った。
禍々しいオーラが直接、生身に降りかかっていたので、ユーカとヴェルは少し辛そうにしていたが、それからやっと解放された事で、ふたり同時に、ホッと息をついていた。

「証拠不足、ね。判断のしようもないし、だからこそ、私はあなたに問うたのよ。」

「まぁ我も、邪法を感じ取る事はできずとも、悪意を感じ取る事は可能なのでな。」

「それで…そろそろ私の問いに答えてくれるかしら?」

ユーカは真剣な表情こそ崩さなかったが、その言葉にこもった想いは、決して疑念ではなく、信頼や友情といったものが、大多数を占めていた。

「私の答えを参考にするの?」

「まぁ、そうするしかないもの。」

「なかなかに変わり者だね、君たちは。」

「変わってるのはヴェルだけよ。私は至極まともだわ。」

「それはどうだろうか…。」

ユーカとフェリスはクスクスと笑い、フェリスはユーカの目を見てはっきりと答える。

「私は君たちの敵ではないと、心からそう断言しよう。」

ユーカとヴェルは頷きあい、フェリスを見る。

「その言葉だけで十分だわ。」

「うむ、疑ってすまなかったのじゃ。」
「まぁ私もヴェルも、あなたが敵だとは1%ほどしか思ってなかったけれど。」

「それでも、我らにとって、邪法という未知の力は怖かったのじゃ。」

「君たちの信頼に少しでも応えられる様に、私も努力するよ。」

そう言って、封印を解き終わった先ほどの、壁から現れた扉に手を掛けて、ユーカとヴェルを中へと誘う。

「だから…少し埃っぽいけど、ついて来てくれるかな?」

「ココがそうなの?」

「そう。ココが我が城の宝物庫だ。」

そう言ってフェリスは、重そうな扉を押し開いた。
ギシギシと音をたてながら開く扉の隙間から、嫌なオーラが一気に噴き出して3人を襲う。

「うへぇ…なんだかイヤな感じじゃの。」

「この中に、あなたの言っていた『滅亡の砂時計』とやらがあるのかしら?」

「そうだよ。さ、入って入って。」

ユーカとヴェルは、恐るおそる中へと入り、フェリスの後を追う。
フェリスは迷う事なくその中を進み、ある木箱の前で立ち止まった。

「コレがそうなの?」

「あぁ。この箱に入っているのが『滅亡の砂時計』だよ。」

フェリスはひょいと木箱の蓋を開け、中から布に包まれたナニカを取り出す。
布をほどくと、中から少し大きめの砂時計が姿を現した。
光を一切として反射しない、真っ黒な砂が、くびれを通して繋がっているふたつのガラスの容器の、上側に溜まっている。
しかし、上に溜まった砂は、普通の砂時計とは違い、全く下へこぼれ落ちる気配は見せない。

「これは…どういう?」

「すごくイヤな感じがするのじゃ。この黒い砂つぶ。」

「うん、言いたい事は分かるけど、コレは多分、君たちにとって重要なアイテムになるはずだよ。」

ことりと砂時計を、近くにあった棚の上へ置き、フェリスは、この砂時計の効果を話しだす。

「この砂時計はね、世界が終わる、ちょうど1年前から、砂を落とし始めるんだ。」

「それってつまり…!」

「そう、砂が落ち始めて、キッカリ1年で世界は滅んでしまう。確実に。」

「なぜそう言い切れるのじゃ?」

「それは、この砂時計の砂が落ちたところを、誰も見た事がないからだよ。」

「しかし…砂が落ち始めたらもう手遅れって事かや?」

「どうだろうか…?でも、見たところ、まだ砂は落ちていない様だよ。」

「少なくとも、砂が落ち始めても1年は猶予があるのよね?」

「あぁ、だけど…砂が落ち始めたら、もう誰にも止められないのではないかな?」

「それは…分からないでしょ。誰も落ちたところを見た事ないのだから。」

「確かに、そうだね。」

「コレ、私たちが貰っても?」

「あぁ、良いよ。そのために連れてきたんだからね。」

「ありがとう。」

3人が言葉を交わす最中でも、黒い砂は一粒も落ちる事なく、ただただ怪しく光を全て飲み込んでいた。









次回、第34話

更新日は未定です。

おそらく来年になってしまうと思いますので、
今しばらくお待ち下さい。

来年度から再開したいと思っております。



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