勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~

時野洋輔

文字の大きさ
178 / 237
幕間話

リーゼの肩凝り

しおりを挟む
 私――リーゼロッテは自分で言うのもなんですが、才色兼備です。
 幼い頃より、政治学、錬金学、魔法学等を優秀な指導者の下に学び、修士の称号を頂戴しております。
 さらには実践訓練も行い、魔法の詠唱、剣術ともにそのあたりの人間に負けるつもりはありません。勿論、ユーリシアのような戦いの専門家には足元にも及びませんが。
 そんな私にとって、弱点とも言えるものがふたつあります。

 工房アトリエ
「……じぃぃぃぃぃぃ」
「リーゼ、何を見ているんだ?」
「……なんでもありません」
 戸惑うユーリさんをよそに、私はその理不尽に膨れ上がり湯面に浮かぶふたつの山を見つめます。
 私は手を組んで、お湯をその山に向かって飛ばしました。
「うわっ! だから何するんだよ」
「何をするのかはこちらの台詞ですわっ!」
「なんで逆切れしているんだよっ!」
 怒るユーリさん――彼女の胸の谷間にお湯が溜まっていたのです。
 それに引き換え、私の胸は――お湯をかけても、さながら立板に水をかけるがごとくさらさらと流れていきます。
 まったく、どうしてこの世界はこうも理不尽なのでしょう。
「風呂に入るときはいつも怒ってるよな、リーゼは。もしかして、風呂嫌いなのか?」
「いいえ、お風呂は大好きです」
 そう、私のもう一つの弱点にこの風呂は大きくかかわります。
 実は、私は重度の肩凝り持ちなのです。
 というのも、王室の中にいた頃も、この工房アトリエに身を置く現在も、私の仕事は執務になります。日々机に向かって、書類の整理ばかり。当然、そんなことばかりしていると肩が凝るのです。
 そのため、血行を促し、肩凝りに利くお風呂は私にとってはクルト様との触れあいの次に好きなことなのです。
「あぁ、リーゼも肩凝りなのか」
「私……ということはユーリさんもですか」
 ……きっと私とは違う理由なのでしょうね。
 私はユーリさんが持つふたつの山を見てため息をつきました。
「あぁ、そうだったんだけどね、クルトに相談したら簡単に治ったよ」
「クルト様に……ですか?」
 クルト様に肩凝りを治して? それってクルト様に肩を揉んでもらったということですか?
「ああ、戦闘で腰を変な方向に曲げてしまって痛めてね――その時についでに肩もね」
 まさか腰まで――そんな、それでは、

『クルト、ちょっと私の腰を揉んでくれないか?』
『いいですよ、ユーリシアさん。ここでいいですか?』
『いや、もう少し下を頼む』
『もう少し下って、この辺ですか?』
『もっと下だ』
『もっとって、あの――ユーリシアさん』
『安心しろ、クルト。ここには私たちしかいないんだ。もっと揉んでくれ』

 なんてことを、なんてことをしたというのですか、この人は。
「は、破廉恥すぎます、ユーリさん」
「なんでだよっ!」
「自分の胸に手を当てて聞いてください! 自分の胸に手を当てて聞いてください!」
 私はそう言い捨てて脱衣場に行くと、そこにはいまからお風呂に入ろうとするシーナさんがいらっしゃいました。
「あ、リーゼ、いま上がったの?」
 シーナさんが笑顔で声を掛けてきました。
 私が王女だと打ち明けてから一カ月。シーナさんもユーリさん同様友達のように接してくれます。
 私はその友達――シーナさんの胸を見て、彼女の肩を叩きました。
「シーナさん、いつまでも今のあなたでいてくださいね」
「はい?」
 私はそう言うと、着替えて脱衣場を出ました。
「なんか失礼なことを言われた気がする」
 シーナさんのそんな声が聞こえてきましたが。

「それで、どうして私はここにいるのでしょう?」
「え? えっと、どうしてでしょう?」
 薬品庫で薬の整理をしているクルト様にも私の質問の答えはわからなかったようです。
 って、そうではありません。
 えっと、そうです。お風呂に入る時間が短かったせいで、肩凝りが治らず、クルト様に肩を揉んでもらったら嬉しいなと思って、クルト様の匂いを辿っていたら、偶然、クルト様を見つけたわけです。
「もしかして、どこか怪我をしたのですか?」
「あ、いえ、怪我は――ただちょっとかた……腰が凝ってしまって」
「そうなんですか――ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「はい、クルト様には一度全て見られていますからね」
「あ……あの時は失礼しました」
 クルト様がそう言って謝罪してきました。
 別に構いませんのに。
「では、診療室に行きましょうか」
 クルト様にそう言われ、薬品庫の隣の診療室に行きました――当然、入口の施錠は忘れません。
 そして、ベッドにうつ伏せになります。
「それでは、クルト様、お願いします」
「はい、リーゼさん。では失礼しますね」
 私の服の間にクルト様の手が入ってきます。
 これから、あの魅惑のマッサージの時間が、時間が――

「冷たっ!」

 え?
「あ、冷たかったですか? でももう貼り終わったのでいいですよ」
「あ、あの、これは?」
「僕の湿布です。予備も渡しておきますね」
「し……湿布?」
「はい。ユーリシアさんにもよく効くって評判なんですよ」
 あ……あぁ、そうですか。
 そうですね。

 ちなみに、クルト様からいただいた湿布の効き目は本当に凄く、湿布を貼って数分で肩こりがなくなっていました。
 今度、クルト様に胸が大きくなる薬はないか聞いてみたいのですが、やはりはずかしくて聞けそうにありません。
しおりを挟む
感想 709

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。