勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~

時野洋輔

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3巻

3-3

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「亀形のミミックの血は滋養強壮じようきょうそうの薬になるのですけど……鮮度が落ちると臭くなるので我慢がまんしましょう」
「だね」

 亀の血なんて飲みたくない。
 滋養強壮の薬ならばなおさらだ。持ち帰ってリーゼにでも飲ませたら、今度こそ本当にクルトを襲う危険もある。
 それにしても、まぁ私一人だったらちょっとだけ危なかったかもね。

「クルト、あんたもしかしてレンジャーに向いてるんじゃないかい?」
「レンジャーですか? でも、うちにはシーナさんがいますし、それにと同じレンジャーに、僕なんかが……」

 クルトはそう、後半は消え入るような声で零した。
 ? あぁ、そういえばクルトが前にいた冒険者パーティ「炎の竜牙」には、バンダナというレンジャーがいたんだったね。クルトはまだ「炎の竜牙」に未練があるみたいだから、そのメンバーの名前を直接出すのは今の仲間である私に悪いと思って、気をつかったんだろう。
 そうそう、その「炎の竜牙」だけど、ゴルノヴァとマーレフィスは身元を確認できた一方で、バンダナに関しては女レンジャーであるということ以外、本名を含めてほとんど情報が集まらなかったそうなんだよね。
 いい機会だから、そのバンダナについて、クルトに聞いてみようか。

「クルト、バンダナってどんな人だい?」
「そうですね、とても明るくていい人ですよ。優しいお姉さんって感じですね」

 いい人……ね。これは正直あてにならない。
 衛兵をって逃走中のゴルノヴァも、トリスタンの命令とはいえ悪魔を使ってリーゼを殺そうとしたマーレフィスも、クルトにとってはいい人なんだろうしね。

「レンジャーとしての腕前はすごくて、あと、物凄くいろいろなことを知っているんです。魔物に関する知識も、ほとんどバンダナさんに教えてもらったんですよ」
「ほとんど?」
「はい。ミミックの見分け方とか、パープルバットの解体方法とか」

 なるほど、だからあんなにするすると知識が出てきたんだね。

「へぇ、そうなんだ」
「あと、人脈もとても広い人で、僕が作った魔法晶石まほうしょうせきやアクセサリーなんかは全部バンダナさんが換金かんきんしてくれたんです」
「全部?」
「はい、全部です」

 私はその具体的な値段をクルトから聞いて驚愕きょうがくした。
 とても安いのだ。
 子供のお小遣こづかい程度とまではいかないが、相場の一パーセントにも満たない。
 同時に、おかしなこともある。クルトが作った魔法晶石やアクセサリー、そんなものが市場に出回って騒ぎにならないはずがない。
 つまり、バンダナがそれらを市場に流していたら私の耳にも届いているはず。市場でなくとも、表に近い裏社会程度ならばファントム部隊が情報を集めているはずだ。
 だというのに、それらしき情報は一切ないのだ。
 ファントムすら気付けないほどの裏の組織に流れたか、もしくは――誰にも売っていないか?
 クルトが自分の実力に気付いていないのも、もしかしてバンダナというレンジャーが私達みたいに情報を隠していたからじゃないか?
 そんな気がしてならない。

「他には何かないかい? たとえば、出身地とか親の名前とか」
「いえ、特には……でも、その聞き方、バンダナさんみたいですね」
「え?」
「バンダナさんも最初に会った時に同じように聞いてきたんです。僕の出身地とか親の名前とか、質問攻めでしたよ」

 ハハハと笑うクルトに、確信を持つ。
 バンダナはクルトについて調べていた。そして、その能力もほぼ正確に把握している。
 ゴルノヴァやマーレフィスにも隠して、クルトを利用できる立場にあった。
 なのに、なんでバンダナはクルトをパーティから追放するような真似をしたんだ?

「そうそう、工房主アトリエマイスターオルフィア様の家での雑用の仕事もバンダナさんに紹介してもらったんです。バンダナさんがいなかったら、僕がこうして工房で働けることもなかったですね」
「え? そうなのか?」
「はい」

 笑顔で頷くクルトに、私はバンダナという女の意図が全くわからなくなった。
 そうこうしているうちに、私達の目の前にそれが現れた。
 白く光る宝玉――ダンジョンコアが安置された部屋が。
 そして、その宝玉の前には、身長三十センチくらいの羽の生えた女の子がいた。

「く、くるな悪人ども! ここはあたちの家だ!」

 目に涙を浮かべ、自分の体よりも大きな剣を持ち上げようとしているが持ち上げられない、私達の娘であるアクリよりも小さな女の子。
 ……え? もしかしてこれがダンジョンマスターなの?
 幼女を見て、私はため息をついた。
 これを倒せって言うのか、冗談きついよ。
 ダンジョンマスターだって聞いていたから、てっきり悪魔みたいな化け物とか、もしくは狡猾こうかつなゴブリンのような魔物だと思っていたが、どう見ても無害な女の子じゃないか。
 それに、この子が怒っているのも当然だろう。
 私達は無断でこの子の家に入ってきたんだから。

「ごめんね、君の家を勝手に荒らすつもりはなかったんだ」

 クルトはそう、予想通りのことを言った。
 まぁ、私もこんな子供を殺すのは気が引けるし、それでいいや。

「あたちやダンジョンコアを壊しにきたんじゃないの?」
「ええと、一応聞くけど、ダンジョンコアを壊したらどうなるんだい?」
「あたちたちダンジョンマスターはダンジョンコアと一体。ダンジョンコアが壊されたら、ダンジョンマスターは死んじゃうの」

 おびえた様子でダンジョンマスターが答える。
 こりゃ八方塞はっぽうふさがりだね。クルトがダンジョンコアを利用して何をしようとしていたのかはわからないが、持ち出すことができないのならどうしようもない。

「クルト、諦めよう。さすがにこのダンジョンコアは私達には壊せない……」

 そう言いつつも、でもクルトならば、もしかしたらとんでもない裏ワザでなんとかするんじゃないか? と思った。
 それこそ、この子も私達もハッピーになるような方法で。
 だが――

「そうですね、僕達にはこのダンジョンコアは壊せません」

 クルトはそう言った。やっぱりダメか。
 あぁ、いけないね。クルトに期待しすぎた。
 そしてクルトは、ダンジョンマスターに向き直る。

「壊さないよ。僕達はここを出ていく。それで、最後のお願いだけど、ダンジョンコア、見せてもらっていいいかな?」
「う、うん。見るだけだからね」

 涙を拭い、笑みを浮かべたダンジョンマスターは、私達にそのダンジョンコアを差し出した。その瞬間しゅんかんだった。
 クルトが一瞬のすきをつき、ダンジョンコアを短剣で壊したのだ。

「なっ……う……そ……」

 ダンジョンマスターは文句を言う暇もなく、その場に倒れた。
 私は何が起こったのかわからない。
 え? え? どういうこと?
 あ……あぁ、そうか。そういうことか。

「クルト、ダンジョンコアを一度壊して修復したらダンジョンマスターも生き返るんだね」

 まったく、驚かせやがって。
 さて、どんな方法でクルトは私を驚かしてくれるんだい?

「いいえ、生き返りませんよ。死んだ人が生き返らないのと同じで、死んだ魔物もダンジョンマスターも生き返りません。ダンジョンコアを修復しても死んだダンジョンが生き返ることはありませんね」
「――クルト、自分が何をしたのかわかってるのかっ!」

 その説明を聞いて、私は思わずクルトの胸倉を掴んでいた。
 クルトは特別な力を持っているし、突拍子とっぴょうしもないことをしてくる。
 だが、誰よりも優しく、私はそんなクルトが好きだった。
 なのに――

「すみません。でも、ダメなんです。ユーリシアさん。あのダンジョンマスターはアクリとは違うんです」
「なにが違うって言うんだ?」
「パープルバットの毒を食らっていたら、ユーリシアさん、死んでいましたよ」
「……え?」

 間抜けな声を返した私に、クルトが諭すように言う。

「パープルバットだけじゃありません。ミミックにしてもそうです。あのミミックも、僕達が宝箱を開けようとしていたら死んでいたかもしれません」
「それは……この子は自分を守るために仕方なく」
「そうですね。でも、自分を守るために人間を殺すのなら、それはもう魔物なんですよ」

 クルトの言葉に、私は掴んでいた服を放した。
 そうだ、クルトの言うとおりだ。間違っていたのは私の方だ。どうやらアクリと接しているうちに、子供への警戒心を失っていたらしい。
 私が反省していると、クルトは倒れたダンジョンマスターの口の中に手を入れた。
 何をしているのかわからなかったが、クルトが口の中から何か小さな玉のようなものを取り出すと、ダンジョンマスターはドロドロに溶けた。これは……スライム!?
 そうか、女の子の姿に擬態していたのか。

「凄いスライムです。死んでも擬態していた姿を維持いじできるなんて。ずっと僕達を観察していたんでしょう。どんな姿になれば僕達が一番油断するか」

 クルトは淡々と、少し悲しそうに語る。

「きっとユーリシアさんの優しさに付け込もうとしたんですね。多分、僕達が背中を見せたところで襲うつもりだったんだと思います。ユーリシアさん、知ってます? スライムって、見た目だけならどんな姿にも化けられるんですけど、人間の声を手に入れるには、その声を出す人間を捕食しないといけないんです」
「それって……」
「はい、さっきの女の子の声の持ち主も、ううん、きっとそれ以外にも、何人もこのダンジョンマスターに捕食されていたんです」

 クルトはそう言って、目を閉じて手を合わせた。
 私はクルトのことを本当に見誤っていたようだ。
 こいつの心は、私なんかよりもはるかに強い。
 クルトなら、もしも私がいなくても一人でやっていける。
 クルトは、全てを打ち明けたとしてもきっと受け入れてくれる。



 第2話 ゴーレムの大行進とクルト式町作り


 ダンジョンコアが破壊されて、ダンジョンマスターも死んだ。
 とりあえず当面の危険はなくなったわけだ。
 クルトは粉々に砕けたダンジョンコアを拾って集めた。
 そして砂粒のような細かい欠片かけらまで集め終わると、突然提案してきた。

「じゃあ、ユーリシアさん、少し走りましょうか」
「走る? なんで?」
「ダンジョンコアが破壊されたので。今はその残滓ざんしのようなもので明かりが保たれていますが、それもじきに失われます。ヒカリゴケが広がってくるまで少し時間がかかると思いますので、暗い場所にいるのは危険です」
「それは大変だっ!」

 その後私達は走って、ヒカリゴケが生えている偽物のダンジョンコアルームまで移動した。
 ここまでくればとりあえず安全だ。
 そして私はクルトを見て、唖然あぜんとしてしまった。

「……本当にクルトは凄いね」
「えへへ、実はパズルとか好きなんですよね。ダンジョンコアって、魔力を流せば簡単にくっつくんです」

 そう、クルトは走っているわずか十数分の間に、砕けて百以上の欠片になっていたダンジョンコアを完全に復元させていたのだ。
 パズルが好きとかそういう次元じゃないと思うんだけど。
 なんで走りながら、あんな細かい作業ができるんだ? 私なんてピンセット使って一週間くらいかかりそうなのに。

「それで、そのダンジョンコアでどうするんだい?」
「ダンジョンコアは空気中の魔素を吸収してダンジョンの壁を作ったり、水、草などから魔物を生み出したりする力があるんですが、死んでからもその機能は生きているんです。そして、魔素じゃなくて魔力でも代用できます」

 クルトはそう言うと、ダンジョンコアに手をかざした。
 魔力を注いでいるんだろう。
 あれ? でも、魔力を注ぐと魔物が現れるってやばくないか? かなり魔力を注いでいるように見えるけど……

「なぁ、クル――」
「ダンジョンコアって面白いんですよ。属性を込めた魔力を流すと、その属性に応じた魔物が現れるんですけれど、僕みたいに属性のない魔力を流すと、周辺にいる魔物をコピーするんです」
「周辺にいる魔物をコピー……それって」

 ぞくりと背筋がこおった。
 ダンジョンに入ってからこの部屋に入るまで、私達は魔物に出くわすことはなかった。
 ダンジョンに入って最初に出会った魔物となると……パープルバット?
 いや、そうじゃない。一匹いたじゃないか、ちょうどこの部屋に。
 壁に擬態していたストーンゴーレムが。
 気付くと、部屋には体長三メートルくらいのストーンゴーレムが二十体以上も現れていた。
 しかも、壁に擬態しておらず、今にも私達に襲い掛かろうとしている。
 通常なら物理攻撃に強いストーンゴーレムも、私が持っている剣「雪華せつか」の前では雑魚ざこに等しい。
 だが、この数、クルトを守りながら戦うことなんて――

「まずは二十五匹ですね。採掘は四回に分けましょう」

 クルトはそう言うと、ゴーレムの中に向かって走っていた。
 そうだ、忘れていた――クルトは基本戦闘に関しては弱いけれど、でもゴーレム相手には無類の強さを発揮はっきすることを。
 クルトにとってゴーレム退治は「採掘」なんだ。
 私が戦う暇もなく、クルトは二十五匹のゴーレムを退治し、パパモモの実くらいのゴーレムコアを回収していた。
 まるで流れ作業を見ているようだった。
 クルトは同じことをさらに三回繰り返し、合計百個、ゴーレムコアを回収することができた。 

「えっと、クルト。このゴーレムコアをどうするんだい?」
「これを使って町を作ります。町の壁も家も設備も全部ゴーレムでできているゴーレム町を作るつもりです」
「……ねぇ、クルト。甘い物持ってない?」
「ありますよ」

 クルトは私にクッキーを数枚くれた。
 クッキーには果肉が入っていて、その優しい甘さが私の疲れた脳細胞を癒やしてくれた。
 うん、私の脳細胞よく頑張ったね。もう休んでいいからね。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 ダンジョン村の近くにある、今は使われていない採石場さいせきじょう
 僕、クルトはここに、ユーリシアさんと二人でやってきていた。
 まずはツルハシを使って岩を砕く。
 そして、大きな岩をゴーレムコアにくっつけていき、魔力を流す。実はこの時に、ちょっとだけコツが必要。ただコアに魔力を流しても、岩の破片がゴーレムのパーツになることはない。でも、魔力を流す時、核から近くの岩に枝葉がつながるように魔力を流すと、簡単にゴーレムのパーツになるのだ。
 最初のころはこれのやり方がわからなくて苦労したよ。
 結果、高さ二十メートルほどの、中くらいのゴーレムが三分で出来上がった。

「クルト、これってなに?」
「ゴーレムですよ」
「……大きいね」
「でも村一番のゴーレム職人さんなんて、この三倍くらいのゴーレムを作っていましたよ?」
「へぇ……凄いねぇ」

 ユーリシアさん、何か疲れているらしく、ダンジョンを出たあたりからあまり元気がないんだよね。
 やっぱり、ダンジョンマスターの見た目が女の子で、僕がその子を殺しちゃったことを気に病んでるのかな。あれは仕方なかったんだけどね。
 なにせあのダンジョンマスター、まずはユーリシアさんを狙っていたみたいなんだよね。たぶん、ユーリシアさんが背中を向けたら毒粘液どくねんえきすつもりだったんだと思う。
 あのスライムが持っているのは浴びたら五分くらいで死んじゃう毒だけど、僕が持っている解毒剤があれば問題ない。それより、服が溶けちゃって、ユーリシアさんが恥ずかしい思いをする――そのことが心配だった。
 そう考えていると、ゴーレムを見上げていたユーリさんが尋ねてきた。

「これ、クルトの言うことなんでも聞くの?」
「いえ、命令は聞きません。作った時にどう動くかのみプログラムしているので、それに従って行動します」

 僕はそう言うと、同じように高さ二十メートルのゴーレムを百体作った。岩山が三分の一くらい削れちゃったけれど、ここの採石場は好きに使っていいって、リーゼさんがタイコーン辺境伯から許可を貰っているので、ありがたく使わせてもらう。
 最後に、ダンジョンに来てすぐに倒したストーンゴーレムから奪い取ったゴーレムコアを使って、台車型のゴーレムを作った。

「ユーリシアさん、乗りましょうか」
「え? 誰にかせるの?」
「この台車はゴーレムですから、自分で動きますよ。道順は作った時に記録していますので、自動運転です。あ、停止はこっちでできるようにしていますから」
「巨大ゴーレムは?」
「はい、この台車ゴーレムについてくるように命令しています」
「……クルトがいたら、軍隊なんて必要ないかもね」
「ははは、そんなことないですよ。ゴーレムってもろいんですよ。戦いのプロなら、こんな大きいだけのゴーレムなんて簡単に壊せちゃいますよ」
「ソウダネー」

 ユーリシアさんが明後日あさっての方向を見て僕の声に同意してくれた。
 さて、行こうか。
 朝になる前に移動を終えないと、こんな大きな物が歩いていたら迷惑になっちゃうからね。

「みんな、音を立てないようにすり足でね」

 声にする必要はないというより、意味がないんだけど、僕は気分でそう言った。
 ――そして、歩くこと六時間。なんとか太陽が昇り切る前に目的地に到着した。
 さぁ、ここから本格的な町作り開始だ!


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 その日の朝、私、タイコーン辺境伯のもとに急ぎのしらせが入った。
 しかも一件や二件ではなく、十数人同時に、同じ内容だった。
 それは、山のように巨大なゴーレムが突如とつじょ現れ、街道を歩いているというものだ。しかも、ゴーレムの前には馬もないのに走る台車があって、誰かが乗っていたという。
 ちまたでは、魔族の侵攻ではないかと不安の声が上がっているそうだ。

「辺境伯様、にわかには信じられないことです。山のようなゴーレムというのはさすがに狂言きょうげんでしょう。今すぐ調査を向かわせ、市民を安心させるべきかと」
「その必要はない」

 兵士長の提言を私は一蹴いっしゅうした。
 それに兵士長は食い下がる。

「たしかに、そのようなことに兵をくのがはばかられるのはわかります。しかし、市民の平穏へいおんな生活を守るためにも――」
「違う、山のようなゴーレムといったな。それは私の関与している話だ」
「――っ!?」

 兵士長は驚きを隠せないようだったが、私は一本の短剣を取り出した。
 そして、短剣に念じると、その場に山のよう……とはいかないまでも巨大なゴーレムが現れる。 

「な、なんと、これは――」
「幻影だ。私の息子であるリクトが作った幻影を生み出す魔剣……その実験を行っていた」
「なんと、それではあのゴーレムは幻影だったと」

 私の言葉に、兵士長は目を丸くした。

「そういうことだ。目撃者には、あのゴーレムは国の重要機密だから黙っておくように緘口令かんこうれいを敷け」
「はっ! かしこまりましたっ!」

 私がそう言うと、兵士長は納得したのか謁見えっけんの間を去っていく。
 これで誤魔化せた……とは思わない。
 しかし実は、昨日のうちにリーゼロッテ殿下でんかより使いが来ていたのだ。

『今晩、なにが起こっても驚かずに隠してください。クルト様が何か行うようですので。明日にはヴァルハと領主町の間に町ができますから、そこに難民の誘導もお願いします』

 などという礼節もなにもない手紙とこの〝胡蝶こちょう〟を預かった時は、いろいろと予想をしたものだが……大量の巨大ゴーレムか。

「相変わらず凄いですね、ロックハンス士爵様は」

 横でともに話を聞いていた、娘のファミルが可笑おかしそうに笑う。
 本当にその通りだ。私達はとんでもない人を恩人に持ってしまったのかもしれない。
 とりあえず、今は難民をどうやって新たにできる町に移送するか考えないといけないな。
 それと、この町の温泉饅頭おんせんまんじゅうを、ロックハンス士爵と一緒にいるというユーリシア女准男爵に送ることにしよう。きっと彼女には甘い物が必要なはずだ。
 なにしろ、私もさっきから温泉饅頭を食べる手が止まらないのだから。
 頑張れ、私の脳細胞。


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