198 / 237
幕間話3
閑話 工房の木の実と野菜
しおりを挟む
今日もいつもと変わらない一日だ。
この日も、私はクルトと一緒に、工房の果樹園で採れた木の実を運んでいる。
「ありがとうございます、ユーリシアさん。手伝ってもらって」
「いいんだよ。私が行かないと信じてもらえないだろうからさ」
「信じてもらえない?」
「いや、こっちのことだ」
そして、私は衛兵の詰め所に向かった。
ちょうど、アルレイドが新兵たちの訓練をしていた。
先日、リクルドの町ができたとき、この町の衛兵の半分がリクルドに派遣された。その後補充された新兵たちだろう。
「アルレイドさん、こんにちは」
「おぉ、クルトか。お前らは訓練を続けろ!」
アルレイドは新兵たちに素振りを続けるように命じて私たちのところにやってきた。
「今日はどうしたんだ?」
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
「おぉ、ありがとう。クルトの果樹園の木の実は美味しいからみんなよろこ……悪い。聞き間違えたようだ。もう一度言ってくれ
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
そう言われ、アルレイドは頭を抱えた。
気持ちは私もよくわかる。
そして、アルレイドは確信の一言を放つ。
「いや、これ、木の実じゃないだろ」
「木の実ですよ?」
「じゃあ、これは木に生っていたっていうのか?」
「はい、木に生っていました」
「…………」
アルレイドが無言で私を見てくる。
彼がそうなるのも当然だ。
「悪いけど、クルトの言っていることは本当だよ。よかったら見に来るかい?」
「…………あぁ、そうさせてもらってもいいか? さすがに信じられない」
こうしてアルレイドは畑を見に来ることになった。
三十頭くらいの金色の羊が、クルトが育てていると思われる野菜を食べていた。
「クルト、お前の野菜が食べられているけど、大丈夫か?」
「はい、あれは餌として用意しているものなので大丈夫ですよ」
金色の羊は、「んめー」と美味しそうにニンジンを食べている。
羊毛が金色なのは珍しいが、しかし問題はそこではない。
その金色の羊は、地面から生えていたのだ。
「……なんで地面から羊が生えているんだ?」
「うん、気持ちはわかるが……あれは木の実だよ。現実を認めろ」
先ほど、クルトが運んだ木の実と同じ形をしている。
「バロメッツという名前のな。いや、実在すると言われている伝説の植物なんだよ。最初はでっかいが普通の木の実だったんだけどな。そこから羊の顔が出てきて一斉に鳴きだしたときは、世界の終焉かと思ったよ」
「それは……想像すると怖いな」
かつて単身でオークを二百匹相手に無双したと言われるアルレイドも戦慄した。
生きている羊が生えてくるなんて聞いたことがない。
アルレイドは頭を抱えながら、隣の畑を見た。
「お、こっちはニンジン畑か。これを見ると安心するな。どれ、一本抜かせてもらってもいいか?」
「はい、それではこれをつけてください」
クルトはそう言うと、耳栓をアルレイドに渡した。
何故耳栓? という顔をしているアルレイドだが、ユーリシアが付けるように言ったので、それに応じた。
クルトとユーリシアも耳栓をつける。
「ん? 普通に周りの音は聞こえるんだな?」
「音に込められた魔力を防ぐだけのものみたいだよ」
「なるほど、ただの耳栓ではないんか」
それでも何故耳栓を? と思いながらアルレイドはニンジンと思い込んでいるそれを抜いた。
すると、突然悲鳴が上がった。
アルレイドのものではない――アルレイドの抜いた作物が……だ。
「な、なんだ、これは?」
「マンドレイクだよ。名前くらいは知ってるだろ?」
「確か、山奥にある、引き抜くと悲鳴をあげて、その悲鳴を聞くと死ぬっていう魔物だろ……待て、俺、悲鳴を聞いたぞ!?」
「そのための耳栓だ」
「……なるほど」
「品種改良を施していますから、耳栓無しに聞いても死ぬことはありませんよ。ほら、アルレイドさん、あれを見てください」
クルトが指さした方向では、あの畑を食い荒らしていたバロメッツが倒れていた。
「死んでるのか?」
「寝ているだけです。なんの効果も無いようにしようかと思ったんですけど、そうすると薬にする素材としてはダメみたいで」
「ここで採れたマンドレイクは全部、工房主オフィリア様と第三宮廷魔術師のミミコが買い取ることになってるから、持っていったらダメだぞ」
一本金貨三枚で……とユーリシアは内心で付け加えた。
ちなみに、野生のマンドレイクは一本金貨五十枚で取引されているので、それに比べればかなり割安だ。
クルトが前にマンドレイクを百本収穫して帰ってきたことがあり、それを聞いたオフィリア様が「マンドレイクか。安く手に入るのなら私も使いたいと思っていたから、採取を頼めるだろうか?」と言ったところ、「じゃあ、工房の家庭菜園で育てますよ」と言ってこうなったのだ。
「……ところで、あの若木、動いているみたいだが? まさか、トレントか?」
どうやら、アルレイドの奴。トレントを飼っているくらいでは驚かなくなってきた。
だが、甘い。
「あれは大精霊ドリアード様の挿し木だ。大精霊様本体程の力はないが、中級精霊レベルの力はある。クルトの奴、いつの間にか持って帰ってきていたんだ。いまは庭の管理をしてくれているよ」
「…………もう考えるのを諦めることにした」
そうして、アルレイドは帰っていった。
クルトが差し入れたバロメッツは、カニのような味がしてかなり美味しく、兵士たちからかなり好評だったという。
この日も、私はクルトと一緒に、工房の果樹園で採れた木の実を運んでいる。
「ありがとうございます、ユーリシアさん。手伝ってもらって」
「いいんだよ。私が行かないと信じてもらえないだろうからさ」
「信じてもらえない?」
「いや、こっちのことだ」
そして、私は衛兵の詰め所に向かった。
ちょうど、アルレイドが新兵たちの訓練をしていた。
先日、リクルドの町ができたとき、この町の衛兵の半分がリクルドに派遣された。その後補充された新兵たちだろう。
「アルレイドさん、こんにちは」
「おぉ、クルトか。お前らは訓練を続けろ!」
アルレイドは新兵たちに素振りを続けるように命じて私たちのところにやってきた。
「今日はどうしたんだ?」
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
「おぉ、ありがとう。クルトの果樹園の木の実は美味しいからみんなよろこ……悪い。聞き間違えたようだ。もう一度言ってくれ
「果樹園で木の実が採れたので持ってきました。皆さんでお召し上がりください」
そう言われ、アルレイドは頭を抱えた。
気持ちは私もよくわかる。
そして、アルレイドは確信の一言を放つ。
「いや、これ、木の実じゃないだろ」
「木の実ですよ?」
「じゃあ、これは木に生っていたっていうのか?」
「はい、木に生っていました」
「…………」
アルレイドが無言で私を見てくる。
彼がそうなるのも当然だ。
「悪いけど、クルトの言っていることは本当だよ。よかったら見に来るかい?」
「…………あぁ、そうさせてもらってもいいか? さすがに信じられない」
こうしてアルレイドは畑を見に来ることになった。
三十頭くらいの金色の羊が、クルトが育てていると思われる野菜を食べていた。
「クルト、お前の野菜が食べられているけど、大丈夫か?」
「はい、あれは餌として用意しているものなので大丈夫ですよ」
金色の羊は、「んめー」と美味しそうにニンジンを食べている。
羊毛が金色なのは珍しいが、しかし問題はそこではない。
その金色の羊は、地面から生えていたのだ。
「……なんで地面から羊が生えているんだ?」
「うん、気持ちはわかるが……あれは木の実だよ。現実を認めろ」
先ほど、クルトが運んだ木の実と同じ形をしている。
「バロメッツという名前のな。いや、実在すると言われている伝説の植物なんだよ。最初はでっかいが普通の木の実だったんだけどな。そこから羊の顔が出てきて一斉に鳴きだしたときは、世界の終焉かと思ったよ」
「それは……想像すると怖いな」
かつて単身でオークを二百匹相手に無双したと言われるアルレイドも戦慄した。
生きている羊が生えてくるなんて聞いたことがない。
アルレイドは頭を抱えながら、隣の畑を見た。
「お、こっちはニンジン畑か。これを見ると安心するな。どれ、一本抜かせてもらってもいいか?」
「はい、それではこれをつけてください」
クルトはそう言うと、耳栓をアルレイドに渡した。
何故耳栓? という顔をしているアルレイドだが、ユーリシアが付けるように言ったので、それに応じた。
クルトとユーリシアも耳栓をつける。
「ん? 普通に周りの音は聞こえるんだな?」
「音に込められた魔力を防ぐだけのものみたいだよ」
「なるほど、ただの耳栓ではないんか」
それでも何故耳栓を? と思いながらアルレイドはニンジンと思い込んでいるそれを抜いた。
すると、突然悲鳴が上がった。
アルレイドのものではない――アルレイドの抜いた作物が……だ。
「な、なんだ、これは?」
「マンドレイクだよ。名前くらいは知ってるだろ?」
「確か、山奥にある、引き抜くと悲鳴をあげて、その悲鳴を聞くと死ぬっていう魔物だろ……待て、俺、悲鳴を聞いたぞ!?」
「そのための耳栓だ」
「……なるほど」
「品種改良を施していますから、耳栓無しに聞いても死ぬことはありませんよ。ほら、アルレイドさん、あれを見てください」
クルトが指さした方向では、あの畑を食い荒らしていたバロメッツが倒れていた。
「死んでるのか?」
「寝ているだけです。なんの効果も無いようにしようかと思ったんですけど、そうすると薬にする素材としてはダメみたいで」
「ここで採れたマンドレイクは全部、工房主オフィリア様と第三宮廷魔術師のミミコが買い取ることになってるから、持っていったらダメだぞ」
一本金貨三枚で……とユーリシアは内心で付け加えた。
ちなみに、野生のマンドレイクは一本金貨五十枚で取引されているので、それに比べればかなり割安だ。
クルトが前にマンドレイクを百本収穫して帰ってきたことがあり、それを聞いたオフィリア様が「マンドレイクか。安く手に入るのなら私も使いたいと思っていたから、採取を頼めるだろうか?」と言ったところ、「じゃあ、工房の家庭菜園で育てますよ」と言ってこうなったのだ。
「……ところで、あの若木、動いているみたいだが? まさか、トレントか?」
どうやら、アルレイドの奴。トレントを飼っているくらいでは驚かなくなってきた。
だが、甘い。
「あれは大精霊ドリアード様の挿し木だ。大精霊様本体程の力はないが、中級精霊レベルの力はある。クルトの奴、いつの間にか持って帰ってきていたんだ。いまは庭の管理をしてくれているよ」
「…………もう考えるのを諦めることにした」
そうして、アルレイドは帰っていった。
クルトが差し入れたバロメッツは、カニのような味がしてかなり美味しく、兵士たちからかなり好評だったという。
276
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。