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ユニコーン角杖物語

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 僕のお願いをバンダナさんは快く受け入れてくれた。
 まだ日が昇っているうちに、森の奥の泉へと向かう。

「すみません、バンダナさん。突き合わせてしまって」
「ええよ、気にせんで。どうせうちも暇やったからな」

 バンダナさんは、そう、あっけらかんとした口調で言った。

「ところで、なんでクルはいまさら森に行きたいん? あの泉のことは忘れるのが全員にとってハッピーな結果ってなったやん」
「本当に全員なのでしょうか?」
「どういう意味や?」

 僕の問いに、バンダナさんは笑顔で尋ねた。

「だって、あそこにいた町の代表さんって地主さんとその関係者であって、畑を耕している人は来ていませんでしたよね?」
「まぁな……基本、こういう話し合いの場には出てけぇへんからな」
「でも、本当に苦しんでいるのは、その出てこない人たちだと思うんです。今回の責任が僕にあるのなら、やはり僕がなんとかしないといけないって思うんですよ」
「アハハハ、本当にクルはおもろいこと言うわ」

 冗談を言ったつもりはないのに、バンダナさんはお腹を抱えて笑い出した。

「僕たち……やなくて僕って言いきるところがクルの偉いとこやな」
「え? でも、やっぱり僕が悪いんじゃ……」
「ユニコーンを疎ましく思ってた地主、後継者になろうと下手なパフォーマンスをした地主の息子、地主に逆らえん農業ギルド、度重なる要求に碌な調査もせずに首を縦に振った冒険者ギルド、ユニコーンの角を求めたマーレフィス。責任転嫁をせぇとは言わんけど、責任を共有する相手なんて山ほどおるやん。なんでひとりでしょいこむかな」
「……多分、バンダナさんのお陰だと思います」
「うちのお陰? どういうことや?」
「だって、僕ひとりだと、責任を背負い込んでも支えきれずに倒れてしまいます。でも、頼れる仲間がいるとわかっていたら、支えてくれる仲間がいるってわかっていたら、頑張れるって思うんですよ」

 僕はそう言ってバンダナさんの顔を見た。
 バンダナさんは目を丸くし、意外そうな顔で僕を見下ろしていた。
 そして、「くくっ」と抑えたように笑った。

「そかそか、頼れる仲間か。クルも見る目があるやん! リーダーでもマーレフィスでもなく、うちのことを一番頼りになるって思っているんやな」

 バンダナさんは上機嫌に僕の背中を叩いた。
 ええと、バンダナさんのことは頼りになると思っているけれど、ゴルノヴァさんやマーレフィスさんを誘わなかったのは、きっとあのふたりは頼んでも来てくれないとわかっているからなんだけど。
 でも、バンダナさんが嬉しそうにしているから黙っておこう……かな?
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