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盗賊探し
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翌朝。
ラークは冒険者ギルドに向かった。
いつものように混雑する時間は過ぎている。
そして、いつものように薬草採取の依頼が書かれている板は残っている。気になるのは、薬草採取だけでなく、森の奥に現れる魔物の素材採取依頼が残っていることだろうか?
シルバーウルフが現れてまだ数日。
森の奥の調査が終わっていないこともあり、森の奥の立ち入りが制限されているからだろう。
ラークは薬草採取の中でも締め切り期限の遅い板を取って、受付嬢のアイシャのところに向かった。
「アイシャ、おはよう」
「おはようございます、ラークさん。依頼ですね」
「うん。これをお願いするよ」
アイシャは依頼票を見る。
「ラークさん。現在、森の奥の立ち入りが禁止されていますので注意してください」
「シルバーウルフの件だね。わかってるよ」
「はい。それと街の外に行く冒険者の皆様に伝えていることですが北の谷付近も立ち入りが制限されています。なんでも盗賊が出るようです。護衛をしていたBランク冒険者のパーティが消息不明となっています。冒険者を狙って来ることはないと思いますが、出会ってしまえば見過ごしてくれないと思いますので近付かないでください」
「え? Bランクパーティってどこですか?」
「すみません。規則でまだ言えないんですよ」
「あぁ、そうでしたね」
すべて知っているラークは素知らぬ顔で頷いた。
護衛依頼を受けて消息不明というのは、いわば仕事に失敗したということだ。
冒険者が依頼を受けて失敗したという情報を大っぴらにしていいわけがない。
もしかしたらその冒険者パーティが生きている場合がある。
その後、護衛に失敗したという情報が悪評となって広まり、結局解散を余儀なくされた冒険者パーティもあった。
なので初期段階での情報の公開には制限がある。
危険度を知らせるために、冒険者ランクを伝えるのが精いっぱいといったところか。
その盗賊退治に行くと言うこともできず、
「うん、わかった。近付かないよ」
と嘘をついた。
そして、西の門に向かうとトムが待っていた。
「おはよう、トム」
「ラークか……俺の名はトムではない。《反逆者ルシファー》だ」
「仕事中は本名を名乗れっていわれてるだろ? また上司に怒られるぞ」
「ぐっ、そうだったな。昨日は海の摂理に育まれた遺物を届けてくれて感謝する。迷惑をかけたな」
「なに、仕事のついでだ。気にするな」
「これはそれと白獣からの聖乳を掛け合わせて生まれたものだ。持っていけ」
と金属の弁当箱に入ったそれを渡す。
いまのを翻訳すると、「昨日は寒天買ってくれてありがとうな。牛乳と混ぜて作ったものをどうぞ」ってことだ。
(ん? 冷たい? それに塗れてる?)
ラークはその弁当箱の違和感に気付く。
「さっきまで井戸水で冷やしてたからな。冷たいうちに食べてくれ。あ、容器は返せよ」
「わかった。ありがとうな」
トムに礼を言って、弁当箱を鞄に入れる。
その後、手の中に影を生み出してその中に弁当箱を入れた。
シルバーウルフの死体を中に入れたように。
(この姿で影を使うのも慣れてきたな)
《闇紅竜》を倒した後、彼は自らの存在とともにその能力の大半を失った。
しかし、完全に消えたわけではない。
訓練することで、その能力の一部を使えるようになった。
影の中に物を入れるのもその能力の一つだ。
お陰で、魔物を退治したときにその死体の処理などが楽になった。
誰が倒したかわからない魔物が森の中に放置していたら、他の魔物を呼び寄せる原因になるし、かといって埋めるのも面倒だ。
尚、影の中に収納した魔物は解体し、こっそりレミリィを通じて冒険者ギルドに、もしくはキアナを通じてミリオン商会に売っている。
影の中は腐食が進んだり熱くなったり冷めたりしないので食べ物を保管しておくのは便利だ。
結構な量が入るのだから葡萄汁を入れてワインを作ろうとしたら全く発酵していなかったときは参ったが。
(さて、まずは盗賊の根城を探すか……)
目撃情報のあった場所に行く。
どのくらいの規模の盗賊団かはわからないが、そのアジトとなる場所にはいくつか心当たりがある。
洞窟や遺跡、廃村などだ。
このあたりはラークが子どもの頃から過ごしていた場所なのでだいたい予想がつく。
採石場跡はハズレ。
雨宿りに使っていた洞窟には大きなイノシシが棲みついていた。
縄張りに煩い狂暴な奴なのでこの辺に盗賊がいることはないだろう。
痕跡も見つからない。
「次は――」
と次の場所に行こうとしたとき、何かの気配がした。
旧街道の方からだ。
ラークはそちらに向かう。
ちょうど谷の上から見下ろす形に旧街道に辿り着いた。
そこでラークが見たのは一台の馬車だった。
貴族が乗るような豪奢なものだった。
盗賊たちとは関係が無さそうな気がしたが、即座に訂正する。
馬車の向かう少し先の崖の上に、偵察をしている男が一人いた。
あの男が盗賊の斥候だとすれば、あの馬車は盗賊に襲われる可能性がある。
ラークの姿で盗賊退治しているところを見られるのはいろいろとマズいし、ガウディルの姿も貴族相手にはあまり見せたくない。
かといって見捨てるのは寝ざめが悪い。
さて、どうしたものかと思っていたら、ラークはある作戦を思いつき、森の中に戻っていった。
ラークは冒険者ギルドに向かった。
いつものように混雑する時間は過ぎている。
そして、いつものように薬草採取の依頼が書かれている板は残っている。気になるのは、薬草採取だけでなく、森の奥に現れる魔物の素材採取依頼が残っていることだろうか?
シルバーウルフが現れてまだ数日。
森の奥の調査が終わっていないこともあり、森の奥の立ち入りが制限されているからだろう。
ラークは薬草採取の中でも締め切り期限の遅い板を取って、受付嬢のアイシャのところに向かった。
「アイシャ、おはよう」
「おはようございます、ラークさん。依頼ですね」
「うん。これをお願いするよ」
アイシャは依頼票を見る。
「ラークさん。現在、森の奥の立ち入りが禁止されていますので注意してください」
「シルバーウルフの件だね。わかってるよ」
「はい。それと街の外に行く冒険者の皆様に伝えていることですが北の谷付近も立ち入りが制限されています。なんでも盗賊が出るようです。護衛をしていたBランク冒険者のパーティが消息不明となっています。冒険者を狙って来ることはないと思いますが、出会ってしまえば見過ごしてくれないと思いますので近付かないでください」
「え? Bランクパーティってどこですか?」
「すみません。規則でまだ言えないんですよ」
「あぁ、そうでしたね」
すべて知っているラークは素知らぬ顔で頷いた。
護衛依頼を受けて消息不明というのは、いわば仕事に失敗したということだ。
冒険者が依頼を受けて失敗したという情報を大っぴらにしていいわけがない。
もしかしたらその冒険者パーティが生きている場合がある。
その後、護衛に失敗したという情報が悪評となって広まり、結局解散を余儀なくされた冒険者パーティもあった。
なので初期段階での情報の公開には制限がある。
危険度を知らせるために、冒険者ランクを伝えるのが精いっぱいといったところか。
その盗賊退治に行くと言うこともできず、
「うん、わかった。近付かないよ」
と嘘をついた。
そして、西の門に向かうとトムが待っていた。
「おはよう、トム」
「ラークか……俺の名はトムではない。《反逆者ルシファー》だ」
「仕事中は本名を名乗れっていわれてるだろ? また上司に怒られるぞ」
「ぐっ、そうだったな。昨日は海の摂理に育まれた遺物を届けてくれて感謝する。迷惑をかけたな」
「なに、仕事のついでだ。気にするな」
「これはそれと白獣からの聖乳を掛け合わせて生まれたものだ。持っていけ」
と金属の弁当箱に入ったそれを渡す。
いまのを翻訳すると、「昨日は寒天買ってくれてありがとうな。牛乳と混ぜて作ったものをどうぞ」ってことだ。
(ん? 冷たい? それに塗れてる?)
ラークはその弁当箱の違和感に気付く。
「さっきまで井戸水で冷やしてたからな。冷たいうちに食べてくれ。あ、容器は返せよ」
「わかった。ありがとうな」
トムに礼を言って、弁当箱を鞄に入れる。
その後、手の中に影を生み出してその中に弁当箱を入れた。
シルバーウルフの死体を中に入れたように。
(この姿で影を使うのも慣れてきたな)
《闇紅竜》を倒した後、彼は自らの存在とともにその能力の大半を失った。
しかし、完全に消えたわけではない。
訓練することで、その能力の一部を使えるようになった。
影の中に物を入れるのもその能力の一つだ。
お陰で、魔物を退治したときにその死体の処理などが楽になった。
誰が倒したかわからない魔物が森の中に放置していたら、他の魔物を呼び寄せる原因になるし、かといって埋めるのも面倒だ。
尚、影の中に収納した魔物は解体し、こっそりレミリィを通じて冒険者ギルドに、もしくはキアナを通じてミリオン商会に売っている。
影の中は腐食が進んだり熱くなったり冷めたりしないので食べ物を保管しておくのは便利だ。
結構な量が入るのだから葡萄汁を入れてワインを作ろうとしたら全く発酵していなかったときは参ったが。
(さて、まずは盗賊の根城を探すか……)
目撃情報のあった場所に行く。
どのくらいの規模の盗賊団かはわからないが、そのアジトとなる場所にはいくつか心当たりがある。
洞窟や遺跡、廃村などだ。
このあたりはラークが子どもの頃から過ごしていた場所なのでだいたい予想がつく。
採石場跡はハズレ。
雨宿りに使っていた洞窟には大きなイノシシが棲みついていた。
縄張りに煩い狂暴な奴なのでこの辺に盗賊がいることはないだろう。
痕跡も見つからない。
「次は――」
と次の場所に行こうとしたとき、何かの気配がした。
旧街道の方からだ。
ラークはそちらに向かう。
ちょうど谷の上から見下ろす形に旧街道に辿り着いた。
そこでラークが見たのは一台の馬車だった。
貴族が乗るような豪奢なものだった。
盗賊たちとは関係が無さそうな気がしたが、即座に訂正する。
馬車の向かう少し先の崖の上に、偵察をしている男が一人いた。
あの男が盗賊の斥候だとすれば、あの馬車は盗賊に襲われる可能性がある。
ラークの姿で盗賊退治しているところを見られるのはいろいろとマズいし、ガウディルの姿も貴族相手にはあまり見せたくない。
かといって見捨てるのは寝ざめが悪い。
さて、どうしたものかと思っていたら、ラークはある作戦を思いつき、森の中に戻っていった。
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