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テアナと模擬戦
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ガウディルとミネリスの間で契約が交わされた翌日。
冒険者ギルドの裏には高い壁に囲まれた鍛錬場がある。
そこでラークは一人、木剣で素振りをしていた。
決して速くない。鋭くもない。
ただ、型通りの技を繰り返すのみ。
「あのEランク、またやってるのか」
「討伐依頼を受けないのに訓練する意味ってあるのかよ」
鍛錬場に来た冒険者たちがラークに聞こえるように大きな声で言うが、気にする様子は一切ない。
それを他人は言い返すこともできない臆病者だと言う。
優しい人間がいたなら、「他人の声が聞こえないくらい集中しているんだろ」と言っただろう。
それは半分正解で、半分不正解だ。
彼はいつも以上に集中している。
しかし、だからこそ周囲の声には敏感だった。
戦いの中で目の前のことしか見えない人間は真っ先に死ぬ。集中しているときこそ、周囲に気を配れと彼は幼い頃より叩き込まれていた。
だから、背後で一人の少女が話しかけたそうにしていることに気付き、訓練に一区切りつけた。
ラークはタオルで汗を拭いながら振り返り、さも今気付いたかのように声を掛ける。
「おはよう、テネア」
「おはようございます、ラークさん。いまのって型稽古ですか?」
「うん。冒険者は身体が資本だし、薬草採取でも魔物の生息域に入ることには違いないからね。最低限の訓練はしておけって言われてるんだよ」
「そうだったんですか。あの、もしよかったら模擬戦を一手お願いできませんか?」
「うん。こちらからも頼むよ」
模擬戦が始まる。
さっそく周囲の人間がどちらが勝つか賭けを始めた。
「テネアに50」「俺は200」「嬢ちゃんに100だ」「なんだ、賭けにならないじゃないか」
と圧倒的にテネアに分がある中、「ラークに1万」と彼女が言った。
そして、彼女は大銀貨を手に持つ。
思ったより早い登場だ。
彼女が本気で1万ミルを賭けると知った男たちが、一気に賭け金を釣り上げ始める。
「ラークさん、お知り合いですか?」
「少しね」
「これはラークさんも負けられませんね」
と言うや、テネアが正面から距離を詰めてきた。
模擬戦というには気合いが入った一撃だ。
それをラークは受け止める。
その後、打ち合いは続いた。
傍から見たらラークが押されているように見えるが、テネアは内心で驚いていた。
(速くない。鋭くもない。強くもない。でも、これは――)
とテネアが考えていると、ラークは動きを止めた。
「じゃあ、そろそろ終わりにしようか」
「はい。最後の一撃で勝敗を決めるってことですね」
「いやいや、そうじゃなくてもう終了。引き分けってことで頼むよ」
そう言われ、先ほどの賭けのことを思い出し、頷いた。
戦いの後、握手を交わして互いに礼を言う。
「また今度、誰もいない静かな場所で模擬戦をお願いします」
「ここ以外だと怪我したときに直ぐに応急処置できないからダメだよ」
「……じゃあ、人の少ない時間で」
テネアは少し不貞腐れたように言い直したので、ラークは「それなら喜んで」と了承した。
試合に決着がつかなかったため、賭けをしていた男たちはつまらなさそうに解散していく。
そして、ラークは一度息を吐き、彼女の――賭けをしていたミネリスところに行く。
「おはようございます、ミーネ様」
「おはよう。なんで最後まで戦わないの? 儲け損ねたわ」
「あのまま戦っていたら僕は負けていましたよ。今日も道案内ですか?」
「いえ、今日は別の用事があってきたの。これから急遽ラーザルド公国に戻らないといけなくなったんだけど、御者が体調不良で動けなくなったのよね。それで馬車を扱える人間が必要になって」
「それは大変ですね」
「ええ、大変なのよ。昨日の依頼を断るついでにミリオン商会に相談に行ったら、あなたを勧められたの。さっき冒険者ギルドの受付で聞いてもあなたを勧められたわ。馬車の扱い、そんなに得意なの?」
「ええ、得意ですよ。馬が好きなんで」
「本当に多芸ね。ラーザルド公国まで頼めるかしら?」
「冒険者ギルド経由の依頼であれば喜んで。ただ、戦闘面では期待しないでください」
「もちろんよ」
ラークは依頼を引き受けた。
ただ、こうなることは最初から決まっていた。
今回の件、キアナとラミリィに相談しており、二人からラークに御者の仕事が回って来るように手配するとのこと。
御者の男の体調不良の原因はわからない。
一服盛られたか、呪いを掛けられたか、もしくは金で転がされたか。
ただ、予定通りことが運んだことで、持つべきものは優秀な仲間だと痛感させられる。
「それで、出発はいつですか?」
「いまからよ」
「準備する時間くらい欲しいのですが――」
「必要な物は揃ってるから大丈夫でしょ」
とミネリスはさも当たり前のように言う。
ラークの事情などはお構いなしのようだ。
フランクで接しやすいが、そういうところはやっぱりお嬢様なのだと思った。
冒険者ギルドの裏には高い壁に囲まれた鍛錬場がある。
そこでラークは一人、木剣で素振りをしていた。
決して速くない。鋭くもない。
ただ、型通りの技を繰り返すのみ。
「あのEランク、またやってるのか」
「討伐依頼を受けないのに訓練する意味ってあるのかよ」
鍛錬場に来た冒険者たちがラークに聞こえるように大きな声で言うが、気にする様子は一切ない。
それを他人は言い返すこともできない臆病者だと言う。
優しい人間がいたなら、「他人の声が聞こえないくらい集中しているんだろ」と言っただろう。
それは半分正解で、半分不正解だ。
彼はいつも以上に集中している。
しかし、だからこそ周囲の声には敏感だった。
戦いの中で目の前のことしか見えない人間は真っ先に死ぬ。集中しているときこそ、周囲に気を配れと彼は幼い頃より叩き込まれていた。
だから、背後で一人の少女が話しかけたそうにしていることに気付き、訓練に一区切りつけた。
ラークはタオルで汗を拭いながら振り返り、さも今気付いたかのように声を掛ける。
「おはよう、テネア」
「おはようございます、ラークさん。いまのって型稽古ですか?」
「うん。冒険者は身体が資本だし、薬草採取でも魔物の生息域に入ることには違いないからね。最低限の訓練はしておけって言われてるんだよ」
「そうだったんですか。あの、もしよかったら模擬戦を一手お願いできませんか?」
「うん。こちらからも頼むよ」
模擬戦が始まる。
さっそく周囲の人間がどちらが勝つか賭けを始めた。
「テネアに50」「俺は200」「嬢ちゃんに100だ」「なんだ、賭けにならないじゃないか」
と圧倒的にテネアに分がある中、「ラークに1万」と彼女が言った。
そして、彼女は大銀貨を手に持つ。
思ったより早い登場だ。
彼女が本気で1万ミルを賭けると知った男たちが、一気に賭け金を釣り上げ始める。
「ラークさん、お知り合いですか?」
「少しね」
「これはラークさんも負けられませんね」
と言うや、テネアが正面から距離を詰めてきた。
模擬戦というには気合いが入った一撃だ。
それをラークは受け止める。
その後、打ち合いは続いた。
傍から見たらラークが押されているように見えるが、テネアは内心で驚いていた。
(速くない。鋭くもない。強くもない。でも、これは――)
とテネアが考えていると、ラークは動きを止めた。
「じゃあ、そろそろ終わりにしようか」
「はい。最後の一撃で勝敗を決めるってことですね」
「いやいや、そうじゃなくてもう終了。引き分けってことで頼むよ」
そう言われ、先ほどの賭けのことを思い出し、頷いた。
戦いの後、握手を交わして互いに礼を言う。
「また今度、誰もいない静かな場所で模擬戦をお願いします」
「ここ以外だと怪我したときに直ぐに応急処置できないからダメだよ」
「……じゃあ、人の少ない時間で」
テネアは少し不貞腐れたように言い直したので、ラークは「それなら喜んで」と了承した。
試合に決着がつかなかったため、賭けをしていた男たちはつまらなさそうに解散していく。
そして、ラークは一度息を吐き、彼女の――賭けをしていたミネリスところに行く。
「おはようございます、ミーネ様」
「おはよう。なんで最後まで戦わないの? 儲け損ねたわ」
「あのまま戦っていたら僕は負けていましたよ。今日も道案内ですか?」
「いえ、今日は別の用事があってきたの。これから急遽ラーザルド公国に戻らないといけなくなったんだけど、御者が体調不良で動けなくなったのよね。それで馬車を扱える人間が必要になって」
「それは大変ですね」
「ええ、大変なのよ。昨日の依頼を断るついでにミリオン商会に相談に行ったら、あなたを勧められたの。さっき冒険者ギルドの受付で聞いてもあなたを勧められたわ。馬車の扱い、そんなに得意なの?」
「ええ、得意ですよ。馬が好きなんで」
「本当に多芸ね。ラーザルド公国まで頼めるかしら?」
「冒険者ギルド経由の依頼であれば喜んで。ただ、戦闘面では期待しないでください」
「もちろんよ」
ラークは依頼を引き受けた。
ただ、こうなることは最初から決まっていた。
今回の件、キアナとラミリィに相談しており、二人からラークに御者の仕事が回って来るように手配するとのこと。
御者の男の体調不良の原因はわからない。
一服盛られたか、呪いを掛けられたか、もしくは金で転がされたか。
ただ、予定通りことが運んだことで、持つべきものは優秀な仲間だと痛感させられる。
「それで、出発はいつですか?」
「いまからよ」
「準備する時間くらい欲しいのですが――」
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